3次元の回転運動

運動量ベクトルと角運動量ベクトル

運動量はベクトル量である。つまり、大きさと方向をもっている。それに対して運動エネルギーはスカラー量であり、大きさはあるが方向はない。
角運動量も、空間の中で回転軸の方向を定めなければならない以上、何らかの意味でのベクトル量である。しかし、実際に円周上を運動している粒子に対して、運動量のようにベクトルを定めようとすると(局所的な速度方向に向かっての)、時間とともにベクトルの方向が変化するという不合理が生じてしまう。円運動は定常的なものであり、その状態が変わらない限りは角運動量ベクトルの方向や大きさも変わるべきではない。回転運動で不変な物に回転軸の方向がある。角運動量は、この不変の軸をつかって規定される。具体的には、回転中心から粒子へのベクトルと粒子の運動量ベクトルの外積(ベクトル積)で角運動量ベクトルを定義する。

3次元のシュレディンガー方程式は

である。

2次元の場合と同じように3次元の極座標

を用いることにしよう。θはz軸からの角度で極角(値は0〜π)、φはx軸からの角度で方位角と呼ばれている(0〜2π)。

座標を変換することにより、シュレディンガー方程式がどうなるか、そしてそれをどう解くかは教科書の「根拠」に任せることにして、ここでは、解の様子に注意を払うことにしよう。

球面上の運動に制限することにより、rは一定なので、波動関数はθとφの関数になる(実質的に2次元になったわけだ)。方程式はθとφに変数分離することができ、最終的な解を求めることができる。(数学的にはかなり大変になるのだけれども)

最終的な波動関数はθとφの関数で教科書358頁にしめされる球面調和関数となっている。

ここで、現れた量子数はlとmlの2種類で
l=0,1,2,…
ml=l、l−1、…、0、…-l
となる。2次元の箱の中のように2つの量子数が独立に任意の値を取れるわけではないことに注意しよう。

回転運動のエネルギーは量子数lにのみ依存して

となる。mlの値が、lによって制限を受けている範囲でいかに変わろうと、エネルギーの値には変化がない。

回転の運動エネルギーと角運動量の関係より球面上の回転に対する角運動量の大きさは

となる。

一方、Z軸回りの回転(量子数mlに関係する部分)の角運動量は2次元と変わらず

である。全角運動量とZ軸回りの角運動量を比較すると、全角運動量の方が大きくなっている。ということは、全角運動量のベクトルは、Z軸方向には向いてはいないということを示している。しかし、任意の方向にむけるわけではなく、全角運動量のZ軸への射影がZ軸方向の角運動量の単位の整数倍になるような角度でなければならない。角運動量ベクトルの方向がZ軸に対して離散的な値に制限されることを角運動量ベクトルの空間量子化という。

スピン

ここまでは、基本的には物質とは無関係の話であった。このスピンの話から、世の中に存在する物質に関連する話になる。スピンとは、古典的なイメージで言えば、粒子の自転に相当する運動である。スピンは粒子に固有な値である。例えば電子は1/2のスピンを持つ。すなわち、電子の角運動量は

であり、Z軸回りの角運動量は
である。それ以外の粒子では陽子も中性子もスピンは1/2で、光子はスピン1である。他に、スピンが0や2の粒子も存在している。

スピンが半整数(1/2、3/2)か整数(0,1,)かで粒子の性質は大きくことなる。スピンが半整数の粒子はフェルミ粒子、整数の粒子はボーズ粒子と呼ばれている。
スピン半整数の粒子(例えば電子)が2つでペアを作ると合計のスピンは1となり、あたかもボーズ粒子であるかのような挙動を示すことがある。そのもっとも有名な例は超伝導で、一般の超伝導では2つの電子がフォノンを介した相互作用によりペアーを作った結果として発現する。

素粒子の同一性

水素原子の話に入る前に、もう一つ、素粒子の重要な性質を述べておこう。それは、素粒子の同一性ということである。こんな思考実験を考えてみよう。

ある箱の中に2つの電子が入っている。箱をある瞬間に板で2つに区切ると、起こるのは、箱の右側に2つの粒子が入っているか、左側に2つの粒子が入っているのか、左右に1個ずつの粒子が入っているのかの3通りである。さて、それぞれの場合が起こる確率はどの程度だろうか。

この実験をパチンコ玉を使ってやった場合には、確率は2個ずつがそれぞれ0.25,1個ずつは0.5となるはずである。ところが、電子を使ってやると、確率は全て1/3となる。これが許されるのは、2つの粒子が入れ替わっても、入れ替わったことが区別できない場合だけである。このことは素粒子の同一性として知られている。

水素原子

水素原子といえば、今日では1個の陽子の回りに電子が1個存在している系であると認識されている。しかし、考えてみれば、水素の構造を直接見た人は(多分)いないわけで、そういう意味では我々は見てもいないものをもっともらしく信じさせられているわけである。とはいえ、水素の構造が今日のように考えられるようになるまでには、多くの積み重ねがあるわけで、決して、何かのお告げで現在のようなモデルが主流となったわけではない。

今日では非常に進歩した透過電子顕微鏡やSTMで原子を直接みることができる。それでも電子の動きは見えない)。しかし、そうなったのは、高々、ここ10年弱のことで、量子力学が出来た頃には原子を直接みるなんていうのは夢のまた夢だった。そうした時代には、直接にではなく、間接的な方法により原子の構造を調べていた。
その手法の一つが分光学である。水素を励起すると(例えば水素を入れたチューブの中で放電する)、発光が生じる。この発光は、通常の白熱電球の発光とは随分と様子がことなっている。横軸に波長、縦軸に発光強度をグラフに描くと

白熱電球からスペクトルは図に示したように、連続的であるのに対し、水素からの発光は線状である。(こうした線スペクトルと白熱電球からのスペクトルは見た目が非常に違う。(線スペクトルの例は、高速のトンネル内のオレンジ色の光(ナトリウムのd線)だ。他の光がなければ、オレンジのモノトーンの世界になる。)

白熱電球からのスペクトル形状にも規則性はある(黒体放射だ)。そして、線状のスペクトルにも規則性がある。この規則性を最初に見つけたのは   で、可視領域のスペクトルについて

という経験式を提出した。その後、紫外領域、赤外領域のスペクトルにも規則性見いだされ、それらをまとめた一般的な式

が提出された。