持ち込む物:USB2000と、LED+クリプトン球の懐中電灯。
水素原子の波動関数は
Ψ=R(r)Y(θ、φ)
と3変数関数となっている。ここでRは動径波動関数と呼ばれるものでrは原子核(正確には原子の重心だが、実質的に原子核になる)からの距離である。一方Y(θ、φ)は3次元の回転でおなじみの球面調和関数である。 動径波動関数も、球面調和関数も、水素原子の波動関数の構成要素である。水素原子の波動関数はこれら2つの関数の積になっている。
波動関数が3変数(3次元の関数)であることをうけて、水素原子の波動関数にも3つの量子数(スピン量子数を入れれば4つ)がある。それらは、
n(主量子数):0、1、2、…
l(回転量子数):0、1、…n−1
ml(磁気量子数):0、±1、±2… ±l
である。これらの組合せにより水素原子の波動関数を指定できる。
とnのみの関数となっている。量子数nは波動関数の節の数に関連したものである。nが1の波動関数は空間的に等方的(球対称)で、原点で有限の値を持ち、無限遠方で0に収束する。この関数には0を横切る面、すなわち節、がない。nが2の場合には節が1つ、3の場合は2つとなる。その節がどのように存在するかは、lとmlにも依存している。一般にlが0の時には、角運動量が0なので、電子は陽子の回りで正味の回転運動をしていない。波動関数の値には方向依存性がなく、単に原点からの距離にのみ依存する。このような場合には節となる場所は原点からの距離rがある値の球面上になる。一方、lが有限の場合には、電子の正味の回転がある。そのため、波動関数の値が0をよぎる場所が出てくる。半径rの球面上で考えて、赤道面が節になってて、北半球で波動関数がプラス、南半球でマイナスになっているのなら(これはl=1でml=0の状態だ)、半径が異なった球面上でも同様に赤道での波動関数は0になっている。波動関数が0の線をつなぎ合わせていくと、赤道を含む平面となる。
ここまでは、水素原子の軌道について量子数のみで話をしてきたが、それを高校までの物理や化学でおなじみの軌道と結びつけて見直すことにしよう。
高校の化学の教科書によると(思い起こせば、この授業は化学の授業だったのだ。)原子には電子殻と呼ばれるものがあり、原子核に近い順番にK殻、L殻、M殻、N殻と呼ばれ、それぞれに最大で2,8,18,32個の電子が入ると書いてある。このK、L、M、N殻の正体は、まさしく主量子数nがK殻なら1,L殻は2,M殻は3、そしてN殻は4の場合のシュレディンガー方程式の解の集合である。ところで、主量子数が1の最低エネルギー状態はどうしてA殻ではなくK殻なのだろうか。これは(私の記憶によると)命名者の思慮深さを反映したものだ。つまり、当時分かっている限りで一番原子核に近い軌道よりも内側に新たな軌道が将来的に見つかった場合のことを考えて、遡った方向に対しても余裕を持たせていたのだ。この思慮深さは残念ながら無駄になり、Kという中途半端な文字から軌道が始まることになった。(これは、マーフィーの法則の一つの例だ)
高校の化学の教科書ではL殻に入る8つの電子は等価であるような絵が描かれていた。しかし、主量子数が2の状態にはl=0とl=1に対応する軌道が存在する。そして、それらは(水素原子では)エネルギーが等しいとしても物理的には別の軌道であり決して等価ではない。これらのnが同じだが異なるlの値をもち、それ故に区別される軌道を副殻という。つまりL殻はl=0とl=1の2つの副殻を持っている。
殻の呼び名と主量子数との間に
| 主量子数 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| 殻の呼び名 | K | L | M | N |
という関係がある。一方副殻はlの値に対して
| 回転量子数 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| 副殻の呼び名 | s | p | d | f | g |
| 縮退数 | 1 | 3 | 5 | 7 | 9 |
と呼ばれている。こちらの命名は殻の命名に比べると、非常に系統性を欠いているように見える。少なくともアルファベット順ではない。実は、上の名称はかつての分子スペクトル測定の実験からきている。それぞれ、sharp、principal、diffuse、fundamenta(gは不明だ(^_^;))の頭文字からきている。つまり、鋭い(sharp)な発光線に関与しているらしいのがs軌道で、どんな原子にも見られ基本的(principal)だと考えられる発光線に関与しているのがpというわけだ(dまでは話を続けてもいいのだけれど、fになると混乱するので、このあたりでやめておく)。(某大学の先生の授業ノートによるとsはsphericalの、pはperpendeicularの略だという。その後はアルファベット順だというのだけれども、e軌道がないあたりで説は崩壊していると思う…。上で紹介した説は、岩波から出ているクールソン「化学結合論」(上)からひろっており、某大学の先生の言明よりは信頼できると思う。)
殻と副殻の組み合わせで存在する軌道と縮退数ををまとめて表にすると
| n | l | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 総軌道数 |
| s | p | d | f | g | |||
| 1 | 1 | × | × | × | × | 1 | |
| 2 | 1 | 3 | × | × | × | 4 | |
| 3 | 1 | 3 | 5 | × | × | 9 | |
| 4 | 1 | 3 | 5 | 7 | × | 16 | |
| 5 | 1 | 3 | 5 | 7 | 9 | 25 | |
となり、各殻は主量子数の2乗に等しい縮退数を持つことが分かる。
s軌道はl=0の軌道である。l=0であるので、mlは0しかとれない。s軌道は縮退をしていない。n=1のs軌道を1s、n=2を2s …という。1s軌道は全ての軌道の中でエネルギーが最も低い。s軌道は球対称の形をしている。全てのs軌道は原点で有限の存在確率密度を有している。nが2以上のs軌道のは球面状の節が存在する。球対称の波動関数なのだから、これは当たり前ではある。s軌道を図示するのには、3次元的な空間の点に、その場所での波動関数の値を色で示す程度しかやりようがない。もちろん、指数関数で減少する関数なので、遠方でも関数の値は完全には0にならないので、そのままでは全空間を埋め尽くしてしまうことになる。
ここで、立方体を201×201×201のメッシュで区切って、各々の点の波動関数の値を赤(+)から青(−)までで表示した図を示す。立方体の表面は緑に見えるけれど、これは、この部分の値が0に近いことを示している。立方体の断面を見てみると、確かに中心部分は赤く、波動関数は+の値になっており、それから、減少していることが分かる。

前回の授業でもふれたように、これでは、軌道の形をイメージすることが出来ない。そこで、0付近は透明化して、ある有限範囲の部分までを図示することにしてみよう。

となる。2つの図で色調が変わっているのは…御容赦頂きたい。何れも、赤は値が大きく、緑系は0に近い値となるものである。
さて、波動関数の図示であるが、教科書では存在確率密度の90%がクリアされるような面として原子の表面を図示している。こうして定められた原子のサイズは原子サイズのひとつの目安となる。
原子の大きさをひとつの数字でと言われたら、核からの平均距離を示すのがよい手法であろう。平均距離は、確率用語では期待値であり、その事象の起こる確率と、起こったときの値の積の和となる。今の場合、分布は空間的に連続なので、計算は和ではなく積分になる。すなわち
∫(Ψ*rΨ)dτ
実際のΨを放り込んで計算してやれば、それぞれの軌道の平均半径が求められる。それは、nとlの関数になっており

である。
さて、原子の大きさを表す値の3番目の方法は動径分布関数である。
波動関数は自乗して絶対値を求めることにより空間のある点での存在確率密度を与える。それが、すべての基本ではあるが、空間の任意の点ではなく、ある点(例えば原子核)から等距離にある球面全体で存在確率密度を与える方が現実的な問題もある。(例えば平均的なクーロン力を求めるような場合) そこで使われるのが動径分布関数である。
3次元のxyz座標において、空間のある部分での存在確率は規格化された波動関数ψを用いて
![]()
で与えられる。ここで、dxdydzは体積素片で、小さな立方体の領域を示している。極座標になると、もちろん、この積分は形を変えなければならない。極座標における体積素片は単純にdrdθdφにはならない。何故なら微小角変化dθやdφが引き起こす一辺の長さの変化はrに依存するし、また、dφが引き起こす辺の長さ変化はさらにθに依存するからである。今、極座標(r、θ、φ)の点で微小な変化dr、dθ、dφが生じたときのそれぞれの辺の長さの変化を計算すると、drによる変化はdr、dθによる変化はrdθ、dφによる変化はrsinθdφとなる。よって、微小は変化により作り出される立体の体積は(変化が微小なので、3方向の直交性が保たれているとして、r2sinθdθdφとなる。これが極座標における体積素片である。よって、3次元の極座標に対して、空間のある場所での存在確率を求める式は
![]()
となる。この式を持ちて、原点から半径rの球面上での確率を計算するのには、球面上で上の確率を積分してやればよい。

積分部分は教科書に従えば1となるので、最終的には積分の前の部分のみの式となる。
1s軌道に対応する動径分布関数は

であり、この関数の極大はa0となる。
動径波動関数と動径分布関数を(適当なスケールで)図示してみる。動径波動関数は原点で極大である。一方、動径分布関数は原点で0でボーア半径で極大となる。
波動関数が原点で極大であるにもかかわらず、動径分布関数が原点で0になるのは、点には体積がないためである。つまり、波動関数を空間的に発見する確率は原点付近の方が高いのだけれど、数学的ないみでの原点においては、体積がないので、その点での存在確率は0になるのである。
動径分布関数の形状は、空間の次元性に依存する。これは、積分領域が球面(3次元)から円(2次元)、線分の区画(1次元)と変化するためである。もし、水素原子を2次元空間に閉じこめることが出来れば、動径分布関数の極大半径は減少する。このことは水素原子の結合エネルギーが増加することを意味している。実際の水素原子を2次元化することは困難であるが、固体(結晶)中に光励起により作られる、励起子(エキシトン)は2次元的空間に閉じこめることができ、閉じこめにより結合エネルーが変化することが知られている。
p軌道はl=1の軌道であり、nが2以上の殻に出現しうる。l=1であるので、mlは0,±1の3とおりが可能であり、3重に縮退している。
ここで、復習もかねて、l=1の球面調和関数を眺め直すことにしよう。
l=1の球面調和関数のうち、ml=0のものは

である。この図は原点からの角度ごとに、波動関数の値を原点からの距離でプロットした(円が0で外側がプラス、内側がマイナス)点をつないだ物である。補間が悪くていびつな形になているが、イメージは分かると思う。この波動関数は節を挟んで北半球で+、南半球でマイナス(もちろん、逆でもよい)になる。もう一度、球面上の波動関数を3次元的に示すと



である。そして、この球面調和関数に対応する水素原子の波動関数は、上記の関数に動径分布関数をかけたもので
になる。この関数を先ほどと同じように、空間に色をマッピングして表示しよう。

これだと、軌道の形状が見にくいので1sと同じようなマッピングをし直すと


となる。
2p軌道は、球面波動関数の方に節を持っているので動径方向には節が無い。+側は+の内部で単調に変化しており、マイナス側もマイナスに単調に変化するのみである。pz軌道は、球面調和関数の形そのもので、軌道の形となるが、pxとpy軌道に関しては、2つの反対向きの角運動量を持つ波動関数を足し合わせてpxとpz軌道を形成する。
p軌道は原点で0の値を持つ。これは、シュレディンガー方程式のポテンシャルに原点でプラス無限大に発散する項を含んでいるためで、これは物理的には遠心力に由来する。
さて、もう一度pz軌道に戻ろう

先ほど説明したように主量子数が2の場合は、節の数は一つで、pz軌道では赤道を含む面が節になっているので、動径方向に節はない。しかし、主量子数が3となると、節の数は2になり、pz軌道で赤道方向に節を1こ使っても、もう一つ節をはめ込まなければならない。そして、この節は動径波動関数が担うことになる。
3p軌道の動径波動関数は
である。よって、全波動関数は、これに対応する球面調和関数を掛け合わせた
になる。これを先ほどと同様に図示すると


となり、赤道面の節の他に球状の節が存在している。3Px、3Pyも同様な形をしている。
d軌道はl=2の軌道であり、mlは0,±1,±2で五重に縮退している。d軌道はnが3以上の殻に出現しうる。
まず、dzz軌道の形態を眺めることにしよう。この軌道はml=0に対応する。l=2,ml=0の球面調和関数は
であり、これを球面上に図示すると
となる。極角が約55と125度の部分が0になっている。この関数を球殻の断面上に書き足すと
という感じになる。これは、定常波となっている解である。これに対応する球面上の波動関数は
で、水素原子の波動関数は
である。dっz以外は、直交する2方向に節を持っているので波動関数は4つ葉のクローバー型である。dzz軌道のみは同じ軸回りに節を持っているので他のd軌道の波動関数とは異なった様相を示す。しかし、すべては2つの節があるという点が共通でありエネルギーも等価である。d軌道は二つの節を持っているので、n=3の殻においても動径方向には節を持つことはない。d軌道も原点では0となる。これも遠心力の効果による。
水素原子のエネルギー準位と軌道が分かったので、これから、水素原子と光との相互作用を、簡単にだけれども、考えることが出来るようになった。そもそも、歴史的には、水素原子からの発光が離散的なスペクトルであることが観察され、その実験式が導かれた。
古典的にはエネルギー準位が不連続であるということは出てこないので、水素原子からの発光波長が離散的であることは、2重の意味で謎な現象であったのである。一つめの謎は、アインシュタインの光量子という考え方により、特定の波長の光はあるエネルギーを持った量子であるとすることにより、内部のエネルギー状態が離散的であることを示すことが認識され解消した。残る問題は、内部のエネルギーが何故離散的なのかという点に絞られることになったのである。歴史的には、この問に対する不完全な回答はボーアの水素原子モデルにより与えられた。そして、量子力学の定式化により一応は完全な回答が得られることになったのである。
量子力学的な枠組みに従えば、水素原子の発光は、異なる主量子数を持つ状態間のエネルギー差に相当する物になっているはずである。確かに、その通りなのだけれど、もう少し子細に眺めると、2つの状態の光の発光/吸収を伴った移り変わりには、もう少しばかりルールがあることが分かっている。そのルールを選択律という。
※このあと、時間しだいで、電気双極子遷移の話に突入して、20日に多電子原子に入るのを避けること(^_^;)
ヘリウム原子のシュレディンガー方程式におけるハミルトニアンに出現する項目は
(重心運動+重心回りの運動+核と電子1のクーロン+核と電子2のクーロン+電子1と電子2のクーロン)
となる。このうち、前の4つめまではそれほど問題がない。しかし、最後の電子間のクーロンエネルギーの項は問題で、これがあると、このシュレディンガー方程式を変数分離することが出来ない。変数分離できないと言うことは、シュレディンガー方程式を厳密に(解析的に)解くことができないということである。そして、シュレディンガー方程式が解けないということは、波動関数が求められないということである…。
これまでの授業で、原子や分子のシュレディンガー方程式を立てて解けば、物質の性質が計算で求まると言ったけれども、ここらあたありで、それを残念ながら訂正しなければならない。原子や分子のシュレディンガー方程式を立てることはできるのだけれども、残念ながらほとんどの場合においてそれを現密の解くことはできない。しかし、近似的な解だからといって馬鹿にしてはいけない。気合いの入った計算により現在では、多くの物性が計算により求められるようになっている。s