スネルの法則と近軸近似

 光の速度は屈折率がnの物質中では真空中の光速の1/n倍になる。速度が異なる結果として物質表面に垂直ではなく入射する光は界面で屈折して真空中とは異なった方向に進むようになる。このことは昔から認識はされていたであろうが、現在の記録に残る限りで最初に定式化したのはスネルであり、屈折率と屈折角の関係はスネルの法則と呼ばれている。物質1から物質2へ光が入射する時に物質1側の屈折率と角度をn'・θ'、物質2側の屈折率と角度をn・θとすれば
n'sinθ=nsinθ…(1)
という関係がある。物質1が空気なら屈折率は実質的に1なので
sinθ=nsinθ …(2)
となる。
 スネルの法則には上記のように三角関数が含まれているが、スネルが最初に提案したときには
n'θ=nθ   …(3)
という具合に三角関数が含まれていなかった。θが小さな場合には
sinθ=θ   …(4)
という近似が成り立つので、この時に2つの式は実質的に一致する。
 (3)式がよい近似となっているθが小さな角度範囲を近軸領域という。近軸領域は、あくまでも(4)式の近似下の仮想的な領域ではあるが、レンズの焦点距離も近軸領域で定義でき第1近似としては有用である。

全反射

 屈折率がnの物質から空気中へ進行する光を考える。物質中の法線方向に対する角度をθとすると
θ>arcsin(1/n)
の時に、物質側のnsinθの値は1より大きくなり、屈折率が1の空気側ではθの値が定義できなくなる。物理的にはスネルの法則を満足できる入射角が存在しなくなる。この時、光はすべて界面で反射される。この状況を全反射という。
 式から容易に分かるように屈折率が高くなるとより小さな角度で全反射するようになる。幾つかの物質について全反射角をしめす。
物質名 屈折率 全反射角(/゜)
1.33 48.8
螢石 1.43 44.4
クラウンガラス(BK7) 1.52 41.1
フリントガラス(F2) 1.62 38.1
重フリントガラス(SF58) 1.93 31.2
ダイヤモンド 2.417 24.4
ゲルマニウム 4 14.5

光学定数と反射率

 物質の屈折率をn、消衰係数をkとすると、垂直入射時の反射率は

※ここで式が必要

となる。屈折率が大きくても、消衰係数が大きくても反射率は高くなる。もっとも、消衰係数が有限ということは、吸収があるということで光が透過しないからレンズやプリズムなどの光学材料としては不適である。

 透明領域においては、垂直入射の反射率は

※ここで式が必要

と簡単になる。ガラスの屈折率は1.5程度(スライドガラスや窓ガラスなどは特に屈折率を高い材料を用いていない)ので、上の式に当てはめると1面あたりの反射率は4%程度となる。 

斜入射の反射率とブリュースター角

 光の入射方向が垂直からはずれると、光の偏光方向により反射率に違いが生じる。偏光が入射面内にある場合(P偏光)の反射率は

※ここで式が必要

であり、偏光が入射面に垂直な場合(S偏光)の反射率は

※ここで式が必要

である。上の2つの式を屈折率1.5の場合について図示した。S偏光の反射率は角度とともに単調に増加していくのに対して、P偏光は一旦極小をへてから増加していく。極小点の角度と反射率は

※ここに図を描くこと

※ここにも式が必要(ブリュースター角の角度と反射率)

となる。この角度において厳密にP偏光の反射率は0になっている。この角度のことをブリュースター角という。

光学系と光軸

 レンズや凹面鏡などの光学素子は、ほとんどの場合円筒対称な形状である。この対称軸を光軸と呼ぶ。
 レンズで光学系を組む場合には普通は光線の中心が光軸を通るようにする。つまりここのレンズの光軸は(光線に対して)同じ直線上に並ぶようにする。光軸が狂うと素子本来の性能が発揮されない。自分で光学系を組む場合には光軸をそろえるように注意する必要がある。

 

薄レンズの公式

 焦点距離に対して厚さが無視できるような厚みのレンズを薄レンズと呼ぶ。実際のレンズには必ず厚みがあるから薄レンズは近似的概念である。このため、簡単な光学系で必要なレンズの焦点距離を概算する時には有用であるが、比較的肉厚のレンズで光を集光する時などに薄レンズ公式を下手に用いると希望通りの結果が得られなくなる。。
 図に示したように薄凸レンズに平行光線を入射すると光はある一点に集光する。この時のレンズから集光点までの距離がレンズの焦点距離 (f)である。凹レンズを通すと平行光線は拡散するので、凸レンズと同様には焦点を定義できない。そこで、凹レンズではレンズ透過後の拡散する光を入射方向に外挿した集光点までの距離で定義される。凹レンズでは焦点距離がマイナスの値となる。レンズの焦点位置より遠方にある点aからの光はレンズにより反対側の点bに集光する。この時a、bの距離と焦点距離の関係は
1/f=1/a+1/b …(1)
となる。
 焦点距離はレンズにとって第一に重要な値である。ついで重要なものはレンズの口径比である。レンズの焦点距離を口径で割った値(口径比)をレンズのF値と呼び、レンズの明るさを示す数である。例えば、焦点距離100mmで、口径50mmのレンズのF値は2となる。
 2枚の薄レンズを組み合わせたレンズ系の焦点距離は、各々のレンズの焦点距離をf1、f2、2枚のレンズ間をdとすると
1/f=1/f1+1/f2-d/f1f2
となる。

実際のレンズの形状

 実際のレンズは有限の厚みを持っている。また、レンズの形状にも両側とも凸面のもの、片側が平面のもの、片側が凸面でもう一面が凹面のもの、そして両方とも凹面のものなどがある。それぞれの形状に応じて
凸レンズ
両凸レンズ 両側とも外にむかって凸の形状をしている。凸の曲率は両側で同じ場合も異なる場合もある。
平凸レンズ 片側は凸形状だが、もう片方は平面のレンズ
メニスカスレンズ 片側は凸で、逆側が凹になっているレンズ。凹の曲率は凸の曲率よりも小さい
凹レンズ
両凹レンズ 両側とも凹形状のレンズ。凹の曲率は両側で異なる場合と同じ場合がある。
平凹レンズ 片側が凹で、もう一方は平面のレンズ。
メニスカスレンズ 片側は凹で、逆側が凸になっているレンズ。凸の曲率は凹の曲率よりも小さい。

と分類される。光学部品メーカーのカタログには両面の曲率が同じ両凸(凹)レンズと平凸(凹)レンズが主に掲載されている。収差等があまり気にならない用途ならこれらのレンズを組合わせて光学系を組み立てればよい。収差補正棟が必要になる場合には市販レンズでは足りずに特注する必要が生じる。その場合には小回りの効くレンズ研磨業者を見つけることがまず重要になる。

レンズの厚さが無視できない光学系の扱い

主点

 2つ以上のレンズを組合わせた場合(や1枚でも厚手のガラスのレンズの場合)は、平行光線を入れた場合の焦点距離の基準となる面を1枚の薄い凸レンズと同様には決定できない。そこで、入射した平行光線と、1点に集光する角度をもった光線が交わる面を基準面として扱いこの面と光軸が交わる点を主点と呼ぶ。一般に、平行光線をどちらから入れたかで主点の位置は異なるので、両者を区別して示す。主点の位置はレンズ系の内部にある必要はない。Fig.2に示されているように、凹レンズと凸レンズからできたレンズ系では凸レンズ側から平行光を入射した場合は主点の位置は凸レンズよりも外側(物体側)に、凹レンズ側から平行光線が入射した場合には、主点の位置は凸レンズより焦点側となりうる。

 主点を規定する基準となる面(主面)は光軸に対して円筒対称である必要はあるが、平面である必要はない。それどころか、後に述べるコマ収差を低減するためには曲面である必要がある。主面が曲面であっても、レンズの焦点距離は光軸近傍で定義されるので、主点からレンズに平行に入射した近軸光線が光軸上に集光するまでの距離とすればよい。

有限の厚さのレンズ系の結像公式

 薄肉と近似できないレンズの結像を扱うには薄肉レンズのレンズの位置の代りに主点の位置を用いればよい。この場合、結像公式は
1/f=1/a+1/b …(1)
ただし、aは物体側主点から物体まで、bは像側主点から像までの距離
となる。
 実際のレンズ系で主点の位置を実験的に定めることは困難である。それよりは実験的に定めやすい焦点位置(これなら平行光線をレンズに入れて焦点を結んだ場所を見れば良い)を用いた結像公式の方が使い易い。焦点位置から像までの距離の間には
x×y=-f2
という関係が成立する。ただし、xは物体側焦点位置から物体までの、yは像側焦点位置から像までの距離である。両方とも右を正にとっているので図ではxはマイナスの値となっている。この式はニュートンの公式と呼ばれている。

収差

 薄く度数の弱いレンズでは結像時に入射角は小さいので、レンズによる光線の曲がりを計算する時にsinθをθと近似しても良好な結果が得られる。この近似下では球面レンズにより平行光線は1点に集光する。しかし、現実には近似では捨てられているθの3乗以上の高次の項が存在している。明るいレンズや画角の大きなレンズではθが大きくなるような領域も存在し高次の項の影響が無視できなくなる。高次項を考慮にいれると、球面のレンズでは平行光線は1点に集光しない。理想的な結像からのずれを収差という。収差はザイデルにより初めて詳細に研究され、その性質から球面収差・コマ収差・非点収差・像面湾曲・歪曲収差の5つに分類されている。また、物質に分散があるために光の波長が異なると結像位置も異なってしまう。分散により生じる結像の乱れを色収差と呼ぶ。色収差に対して残りの5つは単色光でも生じるので単色収差と呼ばれている。

球面収差

 上述したように球面からなるレンズに平行光線をいれても1点に収束しない。また、レンズの光軸上の1点から出た光を1点に集光することもできない。球面収差は光軸上でも発生するので軸上収差と呼ばれている。球面収差があると点像が点にならずにぼやけた円形の画像になってしまう。顕微鏡の対物レンズに球面収差があれば画像が滲みコントラストが悪くなり細かい部分を見分けられなくなる。球面収差の程度は光軸から平行にずれた光線がどこで、光軸と交わるかで示す(図)。凸レンズでは入射角の大きくなる周辺部の光は常に焦点よりもレンズ側で光軸と交わる。球面収差は口径の3乗に比例して大きくなるので、明るい大口径レンズや、高分解能の顕微鏡対物レンズで特に問題になる。

 球面収差は入射角が大きくなるほど大きくなる。凸レンズだけを組合わせて結像光学系を組み立てるときに球面収差を減らしたかったら3つの手法が可能である。

 同じレンズを使って組合わせによって、どのくらい収差がことなるかを実験してみた。実験はハロゲンランプの光を凸レンズでスクリーンに結像している。2枚の平凸レンズを凸面を向かい合って使った場合と、凸面を外側に向けて使った場合のハロゲンランプのフィラメント像の違いを見て頂きたい。ちょっとした違いで結果が大きく変わっている。凸レンズを凸面を向き合わせて使う方法は、光源からの光や螢光を分光器に導くときなどに非常に使い出のある配置である。覚えておいて損はない。

 凸レンズでは球面収差は同じ方向に発生するために、凸レンズだけの光学系では球面収差をなくすことは出来ない。一方凹レンズでは球面収差は逆方向に生じるので凸レンズと凹レンズを組合わせると、それぞれのレンズの球面収差が打ち消しあって収差が小さくもなる。凸レンズと凹レンズの組合わせは色収差も補正できるので、色消しレンズとして組合わせレンズが販売されている。これらのレンズは球面収差も少ないことが多いので、可視領域での光学系には積極的に活用を考えてよい。

 写真用レンズや顕微鏡対物レンズでは複数枚の凸レンズやら凹レンズを組合わせて球面収差を始めとする諸収差を補正してある。しかし、収差補正は定まった使い方に適合するようになされているので、設計条件に適合しない使い方をすると収差が発生して画像の質が低下する。

 球面ミラーでは1点からの像をその位置に結像させる場合のみ球面収差が発生しない。それ以外の場合には球面収差が生じる。平行光線を1点に集光するのには放物面鏡が、1点を別の点に集光するには楕円面鏡が必要である。

コマ収差

 虫眼鏡で太陽光線を集光するときに、レンズを傾けると太陽の像に彗星(comet)のような尻尾ができる。これがコマ収差である。コマ収差は球面収差の親戚筋にあたる(と思う)。球面収差では物体が光軸上にあるために、レンズの周辺部を通過した光は同心円状の滲みとなるが、物体が光軸外にあればレンズの周辺部を透過した光の滲みかたは同心円上ではなくなる。

 コマ収差は口径の2乗と画角に比例する。従って、明るいレンズや顕微鏡の高分解能対物レンズで問題になる。

非点収差

 光軸外の1点からレンズを通って反対側に集光する結像を考えよう。光はレンズ全体を通るのだが、ここでは簡単のために1点と光軸で規定される平面と光軸をとおりそれと垂直な平面での光の様子を追跡してみよう。1点と光軸を通る面内では、レンズの中心付近を通る光線でも入射角が大きくなる。このため近軸近似では無視されていた高次の項の影響が出て光はより大きく曲げられる。一方垂直な面内の光は面内に関しては垂直入射とほとんど変わらない入射角となるために屈折は垂直入射と変わりがない。従って、点を含む面内の光の方が、垂直な面よりも手前で焦点を結ぶようになる。最初は点だったはずの像が、先ずは横に広がった帯になり、それから広がった円になり、それから縦に伸びた帯になることになる。これが非点収差である。非点収差の程度は口径の1乗×画角2乗に比例するので、顕微鏡対物や天体望遠鏡などの視野の狭い光学系では球面収差やコマ収差ほど深刻ではない。しかし、写真レンズ(特に広角)では補正する必要がある。
 球面反射鏡を用いた光学系では(反射鏡の中心に穴を空けたりしなければ)垂直入射にはできないので、非点収差がどうしても生じてしまう。分光器を用いて自分で測定用の光学系を組むときには避けて通れない問題である。上述したように非点収差は入射角の2乗に比例するので、球面鏡をなるべく垂直入射に近く用いるようにすると非点収差を減らすことが出来る。

像面湾曲

 レンズを挟んで平面の物体を平面に結像するのが理想的なレンズである。しかし、実際にレンズでは平面の物体は平面には結像されずに曲面になってしまう。これが像面湾曲である。像面湾曲の程度は口径の1乗×画角2乗に比例する。

歪曲収差

 正方形の画像を写したはずなのに直線が曲がって樽のように中央が膨らんだり、逆にへっこんだりする収差をいう。この収差は画角の3乗に比例する。

色収差

 総ての物質で屈折率は波長依存があるので、同じ曲率のレンズでも波長により焦点距離が異なってしまう。その結果、単色光では1点に像が結んだとしても白色光では波長によりピントのことなった像の重ねあわせとなって、像がぼやけたり縁に色がついたりしてしまう。これが色収差である。色収差は像の倍率が大きいほど影響も大きいので、望遠レンズや顕微鏡の対物レンズで問題となる。

 球面収差の場合と同様に色収差の方向も凸レンズと凹レンズでは逆になる。従って、屈折率の異なる2種類のガラスで凸レンズと凹レンズを作って組合わせてやれば色収差を低減することができる。単純には2種類のガラスを組合わせた2枚玉では2つの波長について色収差を0にできる。このようなレンズをアクロマートレンズと言う。可視領域用のレンズではF線とC線で色消しにしてある場合が多い。この2つの波長の中間の波長では多少の色収差が残る。これを2次スペクトルという。  顕微鏡の対物レンズで、「アクロマート」や「アポクロマート」あるいは「プランアポクロマート」といった表示があるものがある。これらは、レンズの補正のレベルを示すもので、アクロマートレンズは可視領域の2波長で色消しを行なったレンズでアポクロマートは3種類のガラスを用いて可視領域の3波長で色収差がなくなるように設計されたレンズである。また、プランは像面湾曲の補正がされたレンズにつけられた名称である。性能はアクロマートより、アポクロマート、さらにプランアポクロマートの方が良いが価格も高くなる。用途と予算によってレンズを選択する。高性能レンズほど使い方に注 意が必要であり知識がないと宝の持ち腐れになる。

 収差に関する細かい議論まで知っている必要はないが、収差がθの高次の項によるものであることは知っていて損はない。特に、自分で照明用などの光学系を組む時に有用である。