2009年の顕微鏡カメラ選び

学生実験用の偏光顕微鏡を買い換えることになり、機種選定に一枚加わることになった。実際に実験を担当するスタッフのリクエストは撮影装置それもできればハイビジョン動画がとれるものが入ること。

研究用の顕微鏡では、写真撮影はデジタルにほぼ移行している。といっても、我々のところのように旧式の機材を引きずっているところでは、顕微鏡メーカー製の専用機材よりは、デジタル一眼レフを装着した方が費用対効果がよく旧式の写真鏡筒がFマウントを介してカメラ接続する機構なのをよいことに、カメラ部分をニコンやキヤノンのデジタル一眼レフカメラに変えて使っている。

初期の一眼レフデジタルカメラは、光学ファインダーしかなかったため写真鏡筒の照準でピント合わせを行う必要があった。しかし、オリンパスのE-330以降、普通にライブビューができるデジタル一眼レフカメラが各社から出ており、これらの機種を用いれば照準鏡筒や一眼レフのファインダーを使わずに容易に顕微鏡写真が撮影できるようになっている。

顕微鏡写真のためのデジタル一眼レフ選びで注意することは以下の通りである。

AC電源が使えること
ライブビュー撮影では電力を消費するために、充電地で駆動していると思わぬタイミングで電池がつきることがある。また、複数の人間が使用する場合には充電量管理が甘くなるので、不幸な事態を招きやすく、その点からもAC電源が使えることが必要である。
バリアングルモニターがあるかPC上でライブビューの確認ができること
ライブビューができても、カメラ背面のディスプレイのみしかないと、顕微鏡に装着すると上を向いてしまい画面が見にくくなる。バリアングルモニターがあれば、それは防げる。また、完全にPCからコントロールでき、ライブビューもPCからみられるのでも大丈夫である。使い勝手としては、PCを置くスペースがあれば、その方がよい。PCを使わないなら、バリアングルモニターが必須である。
撮影時にミラー駆動ショックの影響がないこと
一眼レフカメラは撮影時にファインダーから撮像素子への光路の切り替えのために、内部の反射鏡が動きカメラ本体が振動する。顕微鏡写真撮影では、この振動で画像のブレが生じることがあるので、それを避ける必要がある。ブレを避けるためには、ミラーが動いてから少し間をあけてシャッターを開閉する機構がついていればよい。これは、機種によっては低振動モードなどと呼ばれている。
また、機種によってはライブビュー撮影時にはミラーは上がったままの状態のものがあり、これならミラーショックを気にする必要はない。
一眼レフカメラではボディー内部に水平移動運動のあるフォーカルプレーンシャッターが用いられているが、電子シャッターが標準となるまでは、この部分の移動によるショックはあきらめるしかないだろう。
自動露出ができること
こんな条件を出すと、今時自動露出ができないカメラがあるはずがないといわれそうだけれども、機種によっては専用レンズでないと絞り優先自動露出が機能しないものなどがある。ただし、自動露出の存在は必然ではない。デジタル写真撮影では、その場で露出のチェックが行えるため、自動露出がなくても何枚かの試し撮影を行えば露出は決定できる。また、自動露出がついていても、偏光顕微鏡で観察される暗視野中に明るく見える領域などは、どうしても露出補正の必要があるので、自動露出があっても決してすべてカメラ任せにできる訳ではない。
研究室ではニコンの古い偏光顕微鏡が主力であり、ニコンFマウントを介することが必要条件となる。この条件を満たすデジタルカメラシステムはニコン・キヤノン・オリンパスに限られている(ライカMマウントのデジタルカメラの取り付けも可能であるが、現実的な解ではないので取り上げない)。現在、NikonD300とCanon40Dが使われている。オリンパスが使われていないのは、AC1000V電源が使えるのがE-3のみであり撮像素子の大きさが上記の2種より小さく撮影範囲が狭いためである。ただし、個人所有のオリンパス機種は存在しており、試験的に撮影は行ってはいる。

これらの機種の(顕微鏡撮影に限定した)簡単な印象を以下に記す。

NikonD300
USB接続によりコンピュータ上でライブビュー画面が観察可能。拡大可能。ライブビュー用のソフトウエアは別売。撮影によりライブビューは一旦中断するため、再度コンピュータ上からライブビューを開始する必要がある。コンピュータ上のライブビューの画質は40Dよりは良い印象がある。
撮影時はミラーが一旦ダウンした後にアップしてシャッター切る。本体に振動低減のための設定はない模様。
Canon40D
USB接続によりコンピュータ上でライブビュー画像が観察可能。拡大可能。ライブビュー用のソフトウエアは本体に附属。撮影後もライブビューは連続している。ライブビュー画質はD300より悪い印象。撮影時にミラーの動作はないため、振動はD300より少ない印象。NikonFマウント及びオリンパスOMマウントの顕微鏡にアダプターを介しての接続ができる。
OlympusE-3
USB接続によるコンピュータ上でのライブビュー画像観察は出来ない。本体のビデオ出力を使えば、外部モニターでのライブビュー画面のチェックは出来るが、USBでコンピュータと接続してコンピュータ側からカメラをコントロールする設定にするとビデオ出力は切れるので外部モニター観察が出来なくなる。
カメラとコンピュータの接続ソフトは別売。ライブビュー時にミラーは一旦ダウンしてアップするが、低振動モードでミラーアップ後に時間をおいてからの撮影が可能。本体に手ぶれ補正は内蔵されているが、顕微鏡撮影にはおそらく、あまり有効ではない(と思うので試していない)。
単体で使う場合は、バリアングルモニターがついているので、上記2種類より操作性がよい。本体のモニターは小さいが部分拡大によりピントチェックは可能。 NikonFマウント及びオリンパスOMマウントの顕微鏡にアダプターを介しての接続ができる。
さて、持ち合わせの顕微鏡がNikon製でフィルムカメラを使っていたなら上記のような3つの選択があるが、現状ではCanon製のデジタルカメラが振動の問題とコストパフォーマンスの点で優位にあるように思える。

では、これから新たに顕微鏡を購入する場合にはどのようなシステムが考えられるだろうか。現時点で、Nikon、Olympusとも顕微鏡用のデジタル撮影システムは専用品となっている。これらのシステムは撮影時の振動は少ないし、また、取り込み後の画像処理機能を持っているシステムもあるが、通常のデジタルカメラや1眼レフデジタルカメラの価格を考えると割高感がある。では、顕微鏡に民生用のデジタルカメラを装着する組み合わせはどうなのかといえば、2009年夏現在では、Olympusの鏡筒にμフォーサーズカメラというのが一押しであるように思える。

Olympusの三眼鏡筒用にテレビカメラアタッチメントとして、テレビアダプタ1×(U-TV1X-2 5000円)という品がある。カタログ上はこの上にCマウントアダプタをつけるとCマウントカメラがつくようになるのだけれど、Cマウントアダプタの長さは十分にあり、もし、テレビマウントアダプタ1×にフォーサーズのマウントアダプタを作って取り付ければ、フォーサーズ(及びμフォーサーズ)カメラが装着できそうなのである。

実はOlympusには三眼鏡筒にフォーサーズカメラを取り付けるための1.2倍のトランスファーレンズを含んだアタッチメントがある。これは、かつてはE-330と組み合わせて販売していたもので、最近はE-3との組み合わせ販売が予定されているようである。このアダプタは単体販売されているなら、悩むことなく買ってきて、フォーサーズか、さらなるアダプタを介してμフォーサーズカメラを取り付ければいいのだけれど、残念ながら単体販売はされていない。このアダプタ以外では、サードパーティー製の汎用のアダプターもあるのだけれど、その製品は撮影領域があまり広くないことと、目視観察と同じ焦点にならないので、あまり勧められるものではない。そうしてみると、上に記したテレビアダプタ1×を使う接続方法が、それなりの価格で可能になるなら、多くの人にとって有益なことになると思う。

この試みには、2つほどクリアーにしておかなければならないことがある。まず一点目は、結像にあたって、対物レンズのイメージサークル(きちんとした画像が得られる範囲)が撮像素子の対角をカバーできるかという問題である。普通の対物レンズのイメージサークルは22から26mm程度である。それ故Cマウントカメラのような撮像素子サイズが小さなものでは対物レンズの像を直接結像してもイメージサークルに余裕があるないので問題はないけれども、35mmカメラのように対角線長が40mm程度あると、撮影された画面の周辺部の画像はぼろぼろになってしまう危険性が高いのである。では撮像素子の対角線長が22mm程度以下で顕微鏡鏡筒に取り付けられるようなデジタルカメラがあるかというと、実にフォーサーズ(およびμフォーサーズ)がこの条件を満たしているのである。フォーサーズの対角線長は21.6mmであり対物レンズのイメージサークルに収まる。もちろん、完全に収めるためにはカメラと対物レンズの中心を厳密に一致させる必要があるのだけれど、たぶん、そこが少しずれても実用上は問題がない領域で満足な画像が得られるようである。ちなみに、オリンパスのフォーサーズカメラアダプターに1.2倍の拡大光学系が含まれているのは、対物レンズとカメラの光軸のずれによる周辺画像の劣化を避けるためだろうと思う。

2点目は、特注品を作らないとフォーサーズシステムに接続できないのかということである。特注品の必要があると、敷居は非常に高くなる。通常のOlympusのカタログを見ていると特注品が必要そうなので、最初は知り合いの光学系なんでも会社やさんにアダプタを作ってもらおうと思っていた。そのために部品の寸法が知りたく、オリンパスの営業の人に寸法図を御願いしたら、カタログの一部をコピーして送ってくれたのだけれど、そこには驚愕の製品も掲載されていた。それは、先ほどのテレビマウントアダプタ1×の上に装着するTマウントアダプタU-TMAD(7000円)とTマウントFマウント変換アダプタU-FMT(5000円)である。これら2つのアダプタにFマウント4/3(μ4/3)アダプタ尾を組み合わせれば、市販品のみ、定価4万円程度でフォーサーズかμフォーサーズカメラの取り付けが可能になる。

TマウントからニコンFマウントにするアダプタをOlympusが純正部品として販売しているのを知ったときには、あまりの意外さに驚いたのだけれど、よく考えるとAndor Technology社の冷却CCDには何故かニコンFマウント仕様のものがあり、それを装着したいという需要があったのだろうと思う。とはいえ、ニコンFマウントへの変換がなされていれば、その後はいろいろなものをつけることができる。もちろん、ニコンやCanonのデジカメの装着も可能であるが、対物レンズのイメージサークルの関係で、これらのカメラでは周辺が悲惨なことになるはずである。

フォーサーズカメラの取り付け

Olympusの三眼鏡筒にこの組み合わせでフォーサーズカメラを取り付けた写真を上に示した。目視鏡筒と同じ焦点で問題なく撮影が可能であったし、試した組み合わせでは周辺部の画質が気になることはなかった。というわけで、テレビマウント1×が装着できるオリンパスの三眼鏡筒の顕微鏡を持っている方には、是非ともこの組み合わせでの顕微鏡写真撮影システムをおすすめする。なお、その場合のカメラとしては、2009年夏現在ではパナソニックのGH-1がおすすめだと思う。もちろん、オリンパスからもμや普通のフォーサーズカメラは出ているけれども、大半の機種はAC100電源が使えない。その点、パナソニックのGH-1は標準でAC接続できるし、さらにハイビジョンの動が撮影もできるのである。確かに、現時点では記録方式はコンピュータとの相性があまりよくないとは言われている。でも、μフォーサーズがこのまま市民権を得ていけば、より顕微鏡撮影に適したカメラの出現は期待できるし、その時になってリプレースをしても、専用の撮影システムのリプレースに比べると遙かに小さな出費ですむはずである。

当たり前のの話であるがOlympusさんはこの組み合わせを宣伝する気はなさそうである。何しろ、こんな組み合わせがスタンダードになってしまうと、せっかく開発費をかけて作った専用の撮影システムがまったく売れなくなってしまう危険性があるのだから。でも、μフォーサーズ機の最近の進歩を見ると、この手法は1000万画素のデジタル顕微鏡写真に加え、ハイビジョン撮影までできる、もっとも安価な方法なのであり、競合他社さんが(Licaをのぞいてか)μフォーサーズカメラを扱いにくい状況では、顕微鏡本体としてOlympusを選択する大きなプラスポイントになると思うのだけれど…………。(2009年8月β)

TOP私家版実験講座 - 2009年の顕微鏡カメラ選び