2015年春の顕微鏡用デジタルカメラ選び

2011年の顕微鏡デジタルカメラ選びの記事をアップしてから、はや3年以上の歳月が流れた。デジカメの変化もかつてよりは緩やかになった印象は有るけれども、それでも、3年の月日がたつとだいぶ事情が変化する。研究室では、偏光顕微鏡用に60DとX5が中心で、それにX50がが加わってキヤノンデジタル一眼レフは3台、倒立顕微鏡にはニコンD300が取り付けてあるという運用になっている。偏光顕微鏡用がCanonの機種になっているのは、前にも記した通り、コンピュータから制御可能で、先幕電子シャッターの機種がCanonしかなかったためである。

3機種の中でX50は機械的な先幕自体が存在しないのだけれども、シャッターを切ったときに妙な音がする。印象として後幕のチャージをシャッターを押した後に行っている。液晶の写真撮影では問題になるような振動は生じていないと思っているけれども、高倍率の撮影には避けた方が無難かもしれない。

X5とX50はライブビュー撮影時に明暗のヒストグラムの表示が可能である。ヒストグラム表示は露出を決定する大きな助けになる。ある時代以降の機種ではヒストグラム表示が可能であると思うけれども、この点はきちんと確認した方が良いかも知れない。

デジタルカメラの変化が遅くなったとしるしたけれども、この3年で幕電子シャッターや完全な電子シャッターで外部からコントロール可能な機種が増えてきている。そこで、それらに関する情報を含めて、2015年春時点での顕微鏡用デジタルカメラの状況をざっくりと眺めてみようと思う。ただし、ほとんどの機種はカタログ情報をもとに話を進めているので、実際に購入を検討されるときには、各自できちんと確認されたい。

先幕電子シャッターでコンピュータから有線接続でコントロール可能な機種としてニコンからD810が販売された。それに続く機種も先幕電子シャッターが搭載されるか注目していたが、カタログで判断する限りはその後に出されたD750には搭載されていないように思える。D810は高画素機で振動に敏感なので先幕電子シャッターが特別に搭載されたのかもしれない。今後の機種でどうなるかは、注目すべき点だろうと思う。

ニコン以外ではOlympusのOM-D E-M5MkIIがオリンパスのカメラとしては久々にコンピュータからUSB接続で制御可能とカタログに記されている。Webからソフトウエアの概要を確認でき、それを見る限りでは使い勝手は悪く無さそうである。このカメラはシャッターが機械式、先幕電子式、完全に電子式と3つのモードがあり、完全電子式なら振動なしの露光が可能である。また、複数露光による高画素イメージの合成機能を有している。4/3は画面サイズが小さいために、旧来のフィルムカメラ用のカメラ部分の代替には適さないけれど、直焦点での画像形成には適する対角線サイズを有している。この点については後ほど再び触れることにする。なお、E-M1もファームウェアのバージョンを上げればUSBコントロールに対応するが、機械シャッターのみであるようなので、ここでは外している。

2011年の時点では、外部で拡大画面を見ながらシャッターを切るのにはUSB接続がほぼ唯一の手法出会ったが、その後にWi-Fi接続で手元の端末上で画面を確認しながらシャッターを切れる機種が、数多く出されるようになった。これらの機種が想定している使用目的とは異なる面もあるけれども、この機能は顕微鏡撮影にも有効なものである。大抵の機種は、スマートフォンでも動作するが、ピント確認を考えると、それなりの画面サイズを持ったタブレットを端末とする方がよいだろうと思う。 無線コントロール可能な機種はニコン、ソニー、パナソニック、オリンパスなどから出されている。撮像素子の大きさははソニーがフルサイズかAPS、パナソニックとオリンパスが4/3、そしてニコンが1インチである。これらは、使用している顕微鏡システムに応じて使い分けすることを考えてもよいように思う。

従来のフィルムカメラの置き換えとしては、画素サイズはAPS-Cかフルサイズが欲しい。こうなると、ニコンだとD810、Canonだと適当なフルサイズ機かAPC-C機になる。もしくはソニーの機種となる。どれにするかはコストと映したい範囲の兼ね合いである。Canonのフルサイズには幾つかの機種があるけれども、個人で選ぶなら軽量な6Dを選ぶように思う。ソニーのリモコン撮影は試したことがないので、どの程度の使い勝手かは分からない。なお、Canonの撮影システムは、拡大表示やヒストグラムの他に、ファイル名を指定できるので、撮影条件や試料名をファイル名に書き込むことができる。結構便利なポイントである。

旧来のカメラの置き換え用途なら上記の選択となるけれども、現在の無限遠補正系の顕微鏡システムでは、ニコンもオリンパスも35mmカメラの接続部材は供給していない。また、2倍以上の倍率の投影レンズも用意されていないようなので、フルサイズのカメラをこれらの顕微鏡に取り付けると周辺部が欠けた画像しか得られない。APS-Cでは視野数が26ある対物ならほぼ全面で問題のない画像が得られる可能性があるが軸がずれていたりすると、周辺部の画質低下は避けられないかもしれない。また、視野数が22の対物では周辺部の画質低下は避けられないであろう。それゆえ、これらの機種への接続はμ4/3かニコン1系が有力な候補となる。4/3系は対角線長が21.6なので、視野数22の対物でも、ほぼ問題なく活用出来る可能性が高い。オリンパスがかつて出していた4/3カメラ接続アダプターは倍率1.2倍で多少の光軸のずれがあっても視野数22に収まるようにしていたけれども、贅沢をいわなければ等倍の直接結像でも大きな問題は発生しないだろうと思う。また、4/3はフルサイズやAPS-Cに比べて縦横比が小さいのも顕微鏡画像としては優れた点である。

4/3の現行世代顕微鏡への取り付けは2011年時点ではオリンパスの顕微鏡はニコンFマウントアダプタがあるので、それを介せばよく、ニコンではテクノシナジーのアダプターが必要であると記していた。その後、Cマウント-μ4/3変換アダプタという品物が出るようになり、それを使えばニコンの顕微鏡も簡単にμ4/3カメラが取り付けられる。ニコンの倒立顕微鏡にμ4/3カメラを取り付けて撮影した画像を示すが、四隅もけられることなく撮影出来ている。

ライブビューからの撮影

旧世代の顕微鏡にμ4/3系を取り付けられるかは、使っている機材の状況に依存する。BH-2では(きちんと計測していないので、信用しないで欲しい)、3眼鏡筒の根元を外してμ4/3のマウントを取り付ければ(勿論適当なスペーサーを挟んでだ)、鏡筒長を合わせての取り付けが可能であるような気がする。ニコンの3眼鏡筒は写真鏡筒の取り付け方が2タイプあるようで、本体の直上で鏡筒が取り外せるものは、その上にCマウントダイレクト(レンズなし)アダプタをつければ、現行機種と同様にCマウント-μ4/3アダプタでの取り付けが可能だ。

ライブビューからの撮影

この写真のように、鏡筒の上部と下部の間に分割できる線が見え、3つのヘックスレンチを使う芋ネジで上部が押さえてあるタイプは、ダイレクト接続が可能であるようだ。一方、

ライブビューからの撮影

のように、分割線がなく、マイナスネジで鏡筒が固定されているタイプは、鏡筒の外側を外しても、内側の部品がのこってしまい、直接の取り付けは不可能である。

直接取り付けが不可能な鏡筒の場合は、3眼鏡筒用の視野数16で等倍の投影レンズと、それと組み合わせて使うCマウントアダプタがあるなら、その上にとりあえずμ4/3を取り付けられる(両方とも、待っていればネットオークションに出て来る品だ)。ただし、投影レンズの視野数がμ4/3の対角線長には足りていない。実際に取り付けて撮影してみても、周辺部はけられてしまう。とはいえ、2.5倍の投影レンズを使ってAPS-Cで撮影するよりは、広い範囲を移し込むことができる。この投影レンズを使うのではなく、直接つけることができれば、さらに広い範囲を撮影できるのは言うまでもない。

実際に取り付けてみた例を示す。上から、直付け、等倍投影レンズをつけての装着、普通のカメラ用3眼鏡筒への装着である。

ライブビューからの撮影

ライブビューからの撮影

ライブビューからの撮影

図に、APC-Cのキヤノン60Dとμ4/3で、2.5倍レンズを通して、視野数16の投影レンズを通して、そして直接装着で撮影した写真を示す。当たり前だけれど、2.5倍の投影レンズではAPS-Cの方が広い範囲が写っているのに対して、視野数16ですでにAPS-Cの2.5倍投影レンズより広い範囲が写っている。さらに、直付けだと、特に画面がけられることなく全領域が写っている。図では示されていないけれど、2.5倍投影レンズを使ったときにはシャッター速度は1/20から1/15程度であった。それに対してと等倍投影レンズや直接装着では他の条件は同じで1/80程度のシャッター速度となっている。この理由は次に記すが、μ4/3やニコン1を等倍光学系で使う時の大きな利点である。

ライブビューからの撮影

キヤノン60D

ライブビューからの撮影

μ4/3と2.5倍投影レンズ

ライブビューからの撮影

μ4/3と1倍投影レンズ

ライブビューからの撮影

μ4/3の直接接続(動かしてしまったので場所は、完全に一致していない)

μ4/3やニコン1のセンサーはAPS-Cやフルサイズに比べて大きさが小さいために、一般にノイズが大きいとされている。このため、これらのセンサーを搭載したカメラを顕微鏡撮影に使うのをためらわれる方もいるかもしれない。しかし、これらのセンサーを対物レンズの倍率に対して等倍撮影で使うなら、大型のセンサーを用いる場合と比較して、通常の撮影時ほどには劣化を生じないだろうと思う。ここで、フルサイズと4/3で撮像面での単位面積あたりの明るさを考えて見よう。対角線長はフルサイズが2倍あり、同じ画角のレンズの焦点距離も2倍となっている。標準画角のレンズで比べると、フルサイズが焦点距離が2倍のため同じ明るさ(F値)ならレンズの径も2倍となり、レンズを透過する光量は4倍となる。一方画面サイズも4倍なので、撮像面での明るさはフルサイズも4/3も同じで、これより検出される光量は画素サイズに比例することになる。4/3カメラの画素が1600万の場合、同じ画素サイズのフルサイズカメラがあったなら画素数は6400万となる。これは現行の高画素機よりさらに大きな値だ。つまり、相対的にフルサイズ機の方が画素サイズが大きく、画素あたりの光量が大きくなっている。ところが、顕微鏡撮影では、4/3は等倍の投影で大丈夫なのに対して、フルサイズ機は2倍(もしくは2.5倍)の投影レンズを用いての画像となる。このため、単位面積あたりの光量はフルサイズ機が(2倍の投影レンズを使っているとして)1/4倍となってしまう。その結果として、4/3とフルサイズ機を比較して、画素数が同じで、同じ感度で同じシャッター速度を切れば、1画素あたりの受光量も同じという結論になる。この計算には受光には使われないデッドスペースは含まれていないので、実際には4/3機が不利だとは思うけれども、通常の撮影に比べると、不利の程度はかなり小さいことは間違いない。実際、上の写真でも、2.5倍投影レンズではシャッター速度が1/20程度なのに対して、等倍撮影では1/4倍の時間で露光が終わっている。露光量を同じにするなら、ISO感度を1/4に下げられるはずで、画質の向上が期待できる。

一通りの話が終わったところで、現状をざっくりとまとめておこう。 フィルムカメラの置き換えだったら、キヤノンの適当な機種かニコンD810、もしくはソニーの先幕電子シャッターで無線撮影可能な機種を選ぶのが良さそうである。キヤノンのAPS-C機を選ぶ場合には、シャッターの耐久階数と価格の対比で機種選定をすると良いだろうと思う。二桁クラスや1桁機は10万回程度以上のシャッター寿命があるが、キッス系は数万回の寿命と言われている。結構な枚数の顕微鏡写真を撮影するなら、値が張ってでもシャッター耐久性の高い機種の方が、最終的には割安かもしれない。 Cマウント直焦点が可能なら、μ4/3が有力な選択肢となる。パナソニックの機種は無線で操作可能である。またオリンパスはE-M5 MKIIはUSB接続でもコントコール可能である。ただし、オリンパスの機種はAC電源を使うには、本体にバッテリーホルダーを取り付けなければならないので、大きく重くなるので好ましくはない。量販店の店頭などでは、本体のバッテリー部分に入れて使うAC電源が存在しているのに、それを市販しないのは理解に苦しむところだ。また、USBコントロール以外の機能として、4K動画を考えるならパナソニGH4だし、合成高画素画像なら、E-M5 MKIIである。逆に、μ4/3で低コストでと考えるなら、適当な中古を入手するか、OLYMPUS AIR A01が選択肢となる。新品の価格は3.7万程度である。上の装着例で使っているのがA01で円筒形状のため、鏡筒との見た目のマッチングは悪くない。ただし、A01は万人にはお勧めしない。パナソニックのGF-7が背面LCDが引き出せるタイプなので、意外と使い勝手が良いかもしれない(未確認)。 直焦点できないシステムの場合は、Cマウント用の1倍投影レンズをつかって、μ4/3をつけて中心部分を切り出して使うか、ニコン1システムをつけるようにする。

これまで、先幕電子シャッターの機種のみを使ってきたが、完全電子シャッターのAIR A01を使い始めた感触として、顕微鏡撮影には完全電子シャッターの方が良さそうという印象になっている。完全電子シャッターには、完全に無振動でシャッター動作が行われること、シャッターの機械的寿命を気にしなくて良いことという利点がある。また、先幕電子シャッターでシャッター速度を上げると、画面の両端で露出ムラが生じてしまうけれど、その問題も発生しないと予想出来る。シャッター速度の選択範囲が広く取れるのである。

 

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