複屈折測定メモ

液晶に限らず多くの有機物は屈折率異方性(複屈折)を有する。そして、多くの場合は1軸の異方性を持つ状態である。光軸方向と、それに垂直な方向の屈折率をきちんと測定すれば、複屈折を求められるが、2つの屈折率の絶対値を測定しなくても、複屈折だけを比較的簡単な方法で測定できる。ある主の用途では屈折率の絶対値ではなく、複屈折の値だけで十分だったり、それが重要なこともある。

複屈折は通常はある厚さの試料を光が通過した後のリタデーション(位相差)を測定し、それを試料の厚さで規格化することにより求められる。つまり、リタデーション測定が複屈折測定の第1歩である。リタデーション測定には

  1. コンペンセータによる補償
  2. セナルモン法
  3. 透過光強度の絶対値よりの算出
  4. 透過光強度の波長依存性からのフィッティング
  5. 回転検光子(偏光子)・回転位相子法
  6. 光弾性モジュレータを用いる方法

といったような種々の方法がある。リタデーション測定は基本的には楕円偏光解析であり、上記の2と5と6はエリプソメトリーでも用いられているものである。

コンペンセータによる補償はリタデーションが既知で可変の補償板を用いて、試料のリタデーションを打ち消し、その時の補償板のリタデーションをもって試料のリタデーションとする方法である。補償板としては楔型検板もしくはベレック型コンペンセータを用いる。楔型検板では半定量的な測定のみが可能である。一方、ベレック型コンペンセータでは、定量的な測定が可能である。(測定精度の確認) しかし、通常の有機物は大きな屈折率分散を持つために、ある程度以上の厚い試料だと、ベレック型コンペンセータにより消光位置を確認することができなくなる。単色光を用いれば、その波長についてのリタデーションは求められるが、完全な消光の位置を決定するのは時には容易ではない。このあたりの、実際の様子については、コンペンセータの補償限界をながめて、自分で試して頂きたい。

セナルモン法は1/4波長板と偏光子を組み合わせて、試料透過後の楕円変更を直線偏光に戻して、楕円率と楕円主軸の方向を決定する手法である。原理的に、測定には単色光を用いる必要がある。セナルモン法はきちんとした偏光子と波長板を用いると感度よく複屈折を測定できると文献に記されている。市販されていた装置の中には検出感度のカタログスペックが0.05度のものもあったという(これは500nmで0.07nm程度のリタデーションに相当する)。ただし、これが、すべてのリタデーション値での分解能なのかどうかなどは定かではない。セナルモン法では位相差が2πの整数倍だけ異なっている状態間の区別はつけられない。このため、時には別の手法により複屈折のだいたいの値を調べる必要がある。なお、セナルモン法は、反射楕円偏光解析(エリプソメトリー)において、古典的に用いられてきた消光法と同じ手法である。

クロスニコル間に、光学軸を偏光子から45度に設定したリタデーションRの複屈折物質を入れると透過光強度は

という関係がある。この式よりある波長での透過光強度を測定すれば、リタデーションを計算できる。ただし、この方法でもある程度の位相差が分かっていないと、位相差の値を誤る可能性がある。また、強度測定に問題があると必然的に計算された値の確度は低くなる。この方法は位相差が0,π、2π…において感度が悪くなる。この場合は他の波長で測定するか、適当な値の既知の位相差板を入れて位相差を変化させるとよさそうである。

強度測定は、参照光測定と透過光測定の条件をいかに揃えるかが勝負となる。参照光は試料を入れて試料の光軸を偏光子もしくは検光子と揃えた上で偏光子と検光子の軸を平行にして測定すれのがよいであろう。ただし、この際に検出器や光源の偏光特性に注意する必要がある。

スペクトルから測定する方法は、手頃な分光器と偏光板があれば比較的簡単に実行できる。リタデーションがそこそこに大きければ(大体600nm以上)、可視領域のスペクトルデータに極大や極小が現れる。極小と極大の間では位相差がπ/2なので、長波長側の極値をλ1、短波長側をλ2とすると、リタデーションRは

R=λ1・λ2/(2(λ1-λ2))

となる。この解析手法は、スペクトルデータのうちの極値しか用いていない。そして、極値の読みに誤差が含まれ易いため、注意しないと誤差が大きくなる。また、短波長側で散乱などの影響で極大の位置がずれることもあり注意が必要である。この問題を回避するにはスペクトルデータ全体を用いてのカーブフィッティングを行えばよい。ただし、有機物では複屈折の波長分散が大きいので、分散も含めてのフィッティングを行う必要がある。複屈折の分散データがある場合にはよいが、それがない場合には適当な分散式を仮定してフィッティングを行う必要がある。

複屈折が小さくて、測定範囲に極大や極小が一切現れないと、ピークの位置からリタデーションを求められなくなる。また、フィッティングもきびしくなる。このような状況においては、かなり大きなリタデーションを持つ位相差板を重ねて測定をすればよさそうである(詳細別途)。

回転検光子を用いる方法から、光弾性モジュレータを用いる手法はエリプソメトリーの解説書に詳しいので、とりあえず、そちらを参照されたい。

TOP私家版実験講座 - 複屈折測定メモ