ここのところ、干渉色図表を作り出すのに、少しばかりはまっていた。いろいろな干渉色図表を作って、さらに、そのjpegファイルをネットプリントに投げれば、そのあたりのカラープリンタよりは手間がかからずに綺麗な画像が得られることが分かり楽しんでいた。一人で楽しむのはもったいないから出来上がった図を見せびらかしていたら、鋭敏色の外側の緑色が淡すぎないかという意見が出てきてしまった。
そこで、書籍に掲載されている干渉色図表を調べてみた。著作権の関係で、ここでは書籍に掲載されている図表自体を載っけるわけにはいかないけれど、あたってみると「偏光顕微鏡」(坪井誠太郎;岩波書店)の干渉色図表では800nmあたりは綺麗な黄緑に塗られていて、その色調は1350nmあたりのみどりよりも鮮やかになっている。続いて眺めてみた「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(粟屋裕:アグネ技術センター)には、「ニコン作製の図をアレンジ」というキャプションとともに干渉色図表が掲載されているのだけれど、こちらも800nm台はけっこう深い緑色である。その色調は1350nmの緑と同じ程度か少し濃いめになっている。
これは、しくじったかなぁと思って、ベレック型コンペンセータを顕微鏡にさして目を見開いて色調変化を調べてみた。ところが、観察した限りでは800nm付近はほとんど緑とは言えないような淡い色調で、上記の本の干渉色図表の色づけには誤りがあるのではないかという気がしてきた。そこで、さらに、他の本を調べてみると、「偏光顕微鏡と岩石鉱物」(黒田吉益、諏訪兼位;共立出版)の干渉色図表の800nmあたりは非常に薄い、黄色がかった黄緑になっている。1350nmあたりは、それよりは乞いが、かなり薄い緑になっていた。そういう意味では、全ての書籍が鋭敏色の外側に緑を書き込んでいるわけではないと、多少は安心し、さらに「Qualitative Polarized-Light Microscopy」(P. C. Robinson and S. Bradbury, Oxford Science Publications)には、写真撮影による干渉色図表が掲載されており、これによると800nmあたいには淡い緑の線があるのみで、一方1350nmあたりはべったりした緑になっている。ただし、本の中の表によれば、700nm台に干渉の結果としてgreenが見えることになっている。
実際の色を見ずにがたがた言っていてもしょうがないので、ここで、ベレック型コンペンセータを使ってデジカメで写した写真を掲載しよう。


多少のずれはあるが、上が実際に撮影された写真。下が、650nmから950nmの範囲の計算された干渉色である。まあ、そこそこは一致していて、いずれもあまり緑ははっきりしないことがおわかり頂けると思う。
つづいて、2番目に出てくる緑の実写と計算をならべてみよう。


うえが実写。下は1200nmから1450nmの範囲で計算した干渉色である。色調の変化の傾向はそれほど悪くない。いずれにせよ、最初の緑は緑とは言えないような淡い色で、2番目の緑の方はしっかりした緑になっている。もちろん、デジタルカメラの色再現は完璧でもないし、ディスプレイ上で表現される色の正確さも、かなり怪しいものがある。しかしながら、目視の印象もふくめて、干渉色の鋭敏色の外側は、殆ど緑色はなく、そして2回目の赤紫の外側の緑は、はっきりした緑系の色であると結論づけてよい。
そうなると、市販の本の中の干渉色図表では鋭敏色の外側の緑がはっきりした緑になってしまっていたり、最初の緑と二番目の緑で同じ程度の色調か、最初の緑の方が濃い色調になってしまっているのが何故かが問題となる。真相は、著者に聞かないと分からないけれど、少しばかり可能性を推理してみよう。まず、第1の可能性は実際に鋭敏色の外側に緑が見えたことである。例えば、複屈折に分散があると鋭敏色の外側に緑が出現することがある。

上の図は5CBという液晶の分散をもとに作製した干渉色図表であるが、通常の干渉色図表に比べて鋭敏色の外側の緑が鮮やかに出ている。とは言え、実際の干渉色図表の色調は水晶などの無機物の位相板で観察されている。そして、無機物の複屈折分散は有機物に比べて小さく、上図のように緑がはっきりと出てくることはないと思う。
次の可能性は、光源の特性により緑が出てしまうことである。顕微鏡では通常はタングステンランプ(ハロゲンランプを含めて)を用いるが、時には高圧水銀灯を用いることもある(螢光顕微鏡の光源として水銀灯を用いることがある)。そこで、高圧水銀灯のスペクトルをもとに干渉色図表を作ってみた。

通常の光源とは随分と異なった色調になっているが、それにしても鋭敏色の外側は黄色味を帯びた黄緑程度で緑にはなっていない。こうしてみると、実際に緑が見えていたという説は断念せずを得ない。
そうなると、残る可能性は実際にありもしない緑を図に書き込んでしまったということになる。どうして、ありもしない緑が、本の中に堂々と掲載されるようになったのかには2つの事情が絡んでいるように思う。一つ目は、最初にこの図表を記した研究者が鋭敏色の外側にgreenがあると記したこと。2番目は干渉色図表では一般に低次の干渉色の方が色が鮮やかであることである。これらに引きずられて最初の緑が二番目の緑よりも色濃く記されるようになったのではないかと思う。
それにしても、鋭敏色の外側に緑の部分がある干渉色図表を20年異常も疑いもなく眺めていたのだから、間抜けなものである。