民生用デジタルカメラによる顕微鏡写真撮影

民生用デジタルカメラを顕微鏡に取り付けての写真撮影は、デジタルカ メラの発達に伴い、研究者にとっても有益な手法となっている。もちろん、研究用のデジタルカメラシステムも販売されているが、民生用に比べて高価なのは当然としても、急速なCCDの発達に製品の改訂が間に合わずに、民生用デジタルカメラを使うのに比べて画素数が見劣りする場合すらある。

民生用デジタルカメラを顕微鏡に取り付ける市販のキットも存在する。一般的な単眼顕微鏡のJIS鏡筒用なら、ビクセンのアダプターでいくつかのデジタルカメラを装着することができる。研究用顕微鏡に関しても、いくつかのメーカーから商品が出されている(メーカーの変動がありうるので、ここではメーカー名をあげない。デジタルカメラ、顕微鏡、アダプターで検索をかけるといくつかのメーカーが引っ掛かるだろう)。これらのアダプターを購入すれば、さほどの苦労なしに民生用デジタルカメラを用いた顕微鏡撮影が行える。デジタルカメラアダプターの中には独自の光学系を用いるものもある。しかし、Web上のいくつかのリソース(例えば、http://www.microscopy-uk.org.uk/mag/indexmag.html より記事のバックナンバーを探せば役に立つ情報が得られる。また、The Royal Microscopical Society のサイトの中のRMS Proceedings の見本記事に非常に有益なものがあったのだけれど、それは現在は見られなくなっているようだ)を見る限りでは、通常の顕微鏡のハイアイポイント接眼レンズを用いれば、良好な画像が得られるようである。ということは、市販の接続アダプターを買ってくるのに比べれば苦労するかもしれないけれど、DIYでそこそこのデジタルカメラによる顕微鏡撮影ができるということだ。

民生用デジタルカメラを顕微鏡に接続するにあたって、まず問題となるのはデジタルカメラの選択である。デジタルカメラには、銀塩コンパクトカメラのように撮影レンズが取り付けられた物と、一眼レフ式でレンズ交換可能な物がある。後者を顕微鏡に取り付けるのは、普通の一眼レフを顕微鏡に取り付けるのと同じ手順を踏めばよいので、ここではそのやり方を記載しない。古の顕微鏡撮影マニュアルを参考にして頂きたい。レンズ固定カメラでの顕微鏡撮影は、原理的には銀塩カメラでも可能ではある。しかし、銀塩カメラではフィルムを現像するまではピントの確認ができない。それに対してデジタルカメラでは、モニター画面を使ってのピント確認が可能でまさに、デジタルカメラの出現により初めて実用的になった方法である。

デジタルカメラの選択には、いくつかのガイドラインがある。

1、ズーム操作やピント調整をしてもレンズの前面が動かないものの方が楽。
カメラをアダプターを通して顕微鏡に取り付けるときに、ズーム操作により前面が動くと、レンズがアダプターに当たったり、逆に離れすぎて撮影領域が狭くなったりする可能性がある。また、レンズ前面が動くタイプでレンズ前面のネジを用いてアダプターに装着すると可動部分に力がかかることにより故障につながる危険性が増す。
2、フィルターネジなどがついていて、アダプターをねじ込み装着できるものの方が楽
カメラとアダプターの連結は、カメラにあるフィルターネジを用いるのが一番楽である。それ故に、フィルターネジが切ってあるカメラの方が装着が楽である。ただし、フィルターネジは必ずしも強くはないので、装着は三脚ネジを使うべきだという主張もある。
3、顕微鏡につけた状態で画面を横から見られるように液晶画面が動かせるものの方が楽
普通のカメラは液晶画面はレンズの反対側、カメラの背面についている。この状態でデジカメを写真鏡筒に装着すると、液晶画面を上側から見なければならない。しかし、かなり背が高くなるために、上からのぞき込むことは困難である。この点、画面が回せるタイプなら横からそのまま見ることが出来るので操作性がよい。
4、CCDの画像をそのまま外部モニターに流せる機能があるものの方が楽
デジタルカメラについている液晶モニターは小さすぎてピントを精密に合わせることは出来ない。ピントをきちんと合わせるためには、より大きなモニターで観察する必要がある。そのために、外部モニターへの接続が可能な方がよい。
5、リモートコントロール(本体にふれなくてシャッターを押せる)機能があるものの方が楽
本体のシャッターボタンを押すと、どうしてもカメラが動いてぶれが生じる。低機能で構わないので、リモート(有線、無線を問わず)でのレリーズが可能である方がぶれに強くなる。
6、ACアダプターがあるものの方が楽
顕微鏡観察は、結構時間がかかるものである。電池で駆動していると肝心な時にバッテリー切れとなることがある。その点、AC電源なら安心して長時間使える。
7、露出固定があるほうが楽
偏光顕微鏡写真ではステージを回転して明暗が変化する状態を撮影することが多い。この時、露出固定ができないと、暗くなるべきものが暗くなくなってしまう。
8、ヒストグラム表示が出来る方が楽
露出が大丈夫か確認するのにはヒストグラム表示がある方が楽である。

注意して頂きたいのは、上のガイドラインのの全ては、記載した機能があった方が良いという程度で必然ではないことである。上の要請を全部満たしても、駄目なカメラもあるかもしれないし、いくつかを満たしていなくても、使えるカメラもあるかもしれない。実は、カメラ選択においてもっとも重要な点は

である。「画像がきちんと撮影できる」出来るとは、出来上がり画像で像のけられがなく(要するに、穴から外を眺めたように画面の真中に円状の画像があるけれども、その外側は黒くなってしまわないこと)、顕微鏡の視野のかなりの部分をカバーしている(顕微鏡をのぞいて見える画面の中心10%しか写真に写らないというのでは悲しすぎる)。さらに、画像が滲んだ入り歪んだりしていないことである。そして、残念なことに、この条件が満たされているかは、実際にカメラを顕微鏡につけてみなければ分からない…。このリスクがいやな場合には、市販のアダプターを購入すべきである。ちなみに、画像がきちんと撮影できるかどうかは、デジタルカメラだけでなく、用いる接眼レンズやデジタルカメラの取り付け方にも依存するので、ちょっと試して駄目だったからと言って、せっかく購入したデジタルカメラをうち捨てることはないかもしれない。 とりあえず、カメラ側の要素の議論をするために、顕微鏡アダプターにつけて撮影した写真を提示しよう。

さて、写真を見ると、左の写真は画像と暗黒部分の境界がはっきりしている。一方右側の写真では境界ははっきりしていない。さらに2枚の写真を比べてみると、横一列に見える数字は右の方が大きいものの、外周部に左側では写っているのに右側では写っていないであろう領域があることが分かる。これは、右側の写真においては、像の周辺部の光束が接眼レンズを出た後で、カメラの入射瞳に入らず、撮像素子(もしくはフィルム)へ到達していないためである。これだけでは、すこし分かりにくいかも知れないので、銀塩のレンズ交換可能なカメラを用いてこの事情をもう少し眺めてみることにしよう。

これは標準レンズを絞り開放にして正面から撮影したものである。レンズ全面が明るく見えている。明るく見ている領域(この場合はレンズ全面)を入射瞳という。入射瞳がレンズ全面に見えるということは、正面からレンズに入射した光が、レンズの場所によらずフィルム面に到達することを意味している。ついで、もう一つのレンズの画像を示す。

こちらの広角レンズでは、入射瞳はレンズの中央のみで、けっして全面にはなっていない。入射瞳に入った光はフィルム面に到達するが、それ以外の領域に入射した光は、フィルム面に到達することなくレンズの鏡筒やカメラの内部で遮られてしまう。

ついで、これら2つのレンズを斜めから見た写真を次ぎに見てみよう

左が標準レンズで、右が広角レンズである。標準レンズには入射瞳が見えていない。つまり、この角度は標準レンズの画角の外側であり、ここからの光線はフィルム面に到達しない。一方広角レンズでは入射瞳が見えており、この領域に入った光はフィルム面に到達する。広角レンズの入射瞳は中心より向かって左よりにずれている。広角レンズの最前面のレンズが大きいのは、このように広い角度からの光束を受け入れるためである。

 入射瞳の大きさはレンズの絞りにも依存する。標準レンズで絞り開放の場合と絞り込んだ場合の画像をならべてみよう。

見てのとおり絞りを絞れば入射瞳は減少する。実は、最初に出した2つの写真は接眼レンズにつけたデジタルカメラの絞りを開放で撮影したものと絞り込んで撮影したものである。絞り込んだ場合には入射瞳が小さくなり、画面外側の光束がケラレてしまって画像の欠落を生じたわけである。

これらの画像を眺めると、「顕微鏡に取り付けた場合に、画像がきちんと撮影できること」という条件をなるべく満たすためにカメラに要求される機能は

1、入射瞳がなるべく大きいこと
入射瞳が大きいほど、接眼レンズからの光束が撮像素子に到達しやすくなる。入射瞳の大きさはカタログスペックにはないので、店頭で実物をしげしげと眺めるしかない。たいていのデジタルカメラは撮影準備状態でCCDに光を送る(だから液晶画面に像が見える)ので、正面からレンズをのぞき込めばCCDへと通じる区域(すなわち入射瞳)が見える。ズームレンズでは入射瞳の大きさは焦点距離により異なるので、ズームをして入射瞳の変化を見た方がよい。物差しをレンズの前におけば、入射瞳径を大体ははかることができるので、機種間の比較も可能である。
2、絞り優先自動露出、もしくはマニュアル露出が出来ること
絞りを絞り込むと入射瞳が小さくなり画像がケラレることがある。それを防ぐためには絞りを開放に固定することが望ましい。シャッター優先やプログラム自動露出では勝手に絞りが絞り込まれることがあるので、絞りを明示的に開放にして使える絞り優先露光や、絞りもシャッター速度も調整できるマニュアル露光が使える必要がある。

である。さて、カメラを選択したとして、続いての問題は接眼レンズとのマッチング、及び取り付け方の影響である。接眼レンズの影響を見るために、そのあたりに転がっていたいくつかの接眼レンズを用いて写真撮影を行った。いずれも、カメラレンズを接眼レンズに密着させて(自分のカメラだから傷をおそれずにこんなことができる)いる。

それぞれの接眼レンズがどこのメーカーのどの商品であるかはここでは紹介しない。一般的なことだけいうと、前の3つは接眼レンズは設計が古いもので、後の3つは設計がより新しく、ハイアイポイント仕様になっているものである。これだけ、記せば、大体は、どんな接眼レンズを組合わせたほうがよい結果になるのか、おわかり頂けると思う。

さて、ハイアイポイントの接眼レンズを使ったとしても、取り付け方が悪いと、視野が狭くなる。次の2枚の写真をご覧頂きたい。

これら2枚の写真は、いずれも同じ接眼レンズを用いて撮影したものである。また、カメラ側の絞りも両方とも同じにしている。それにも関わらず、左(上)の写真は接眼レンズの視野枠がくっきり見えているのに、下の物はぼやけており、さらに、比較すると中央部しか見えていないことが分かる。左の写真はカメラのレンズをなるべく接眼レンズにくっつけて撮影しているのに対し、右の写真は5mm程度離して取り付けている。

接眼レンズから出てくる光束はある広がりを持っている。接眼レンズとカメラレンズの距離が離れてしまうと拡がった光束の中央部しかカメラレンズに入らなくなるために上の写真のように中央部しか見えなくなるのである。接眼レンズとカメラレンズの最適距離は接眼レンズのアイポイントの位置と、カメラレンズの絞りの位置との関係で定まるのですべての系に当てはまるような理論的な最適位置は存在しないが、一般的にはなるべく近くした方がよい結果が得られるようである。

補足…周辺の収差・カメラレンズの歪曲収差などについて

顕微鏡写真を撮影する立場からすれば、なるべく広い領域が一度に撮影できる方が効率がよい。しかし、一方で、視野の周辺部では、画質が悪くなっているおそれがある。そこで、画面の中央と周辺の画像を拡大して比較してみた。

左が中心部で右が右下の画像である。2枚を比較すると、周辺部の方が光量が少ないこと、また、多少は色のにじみが生じていることが分かる。光量の低下はカメラと接眼レンズのマッチングの問題から生じている可能性がある。色のにじみは、おそらくは接眼レンズから来ているのではないかと思う。この問題を避けるためには、撮影領域が狭まるにしてみ、カメラレンズをズームアップして中央部の画像のみを撮影すればよいのだが、実は、その場合も多少の問題が残っている。

左側の写真はカメラのレンズをもっとも広角にして撮影したもので、右側がもっとも望遠にして撮影したものである。絞り値は左側が2.6、右側が5.1でシャッター速度は右側が2段遅くしている。2枚を比較すると、右側の写真では、本来は直線であるはずの縦の線が画面の端で内側に凸になるように写っている。一方、右側ではそのような傾向は顕著ではない(端が写っていないせいかもしれない)。ちゃんと、原因の確認を行わなければならないが、カメラの撮影レンズが望遠側で糸巻き形の歪曲収差を持っている可能性がある。次の問題は右側の画像の方が暗いことである。ズームによって開放F値が大きくなった分はシャッター速度を伸ばして補正したはずなのに暗くなったということは、望遠側では広角側より接眼レンズとカメラレンズのマッチングが悪くて、接眼レンズからの光のある部分が撮像素子面に到達していないことを示している。その結果、撮影に長時間必要となるとともに、カメラレンズ系の内面反射により画像が劣化する可能性があるだろう。

TOP私家版実験講座 - 民生用デジタルカメラによる顕微鏡撮影