デジタルスチルカメラを用いたマクロ撮影

 ほとんどのデジタルカメラにはマクロ撮影モードがついていて、手軽にマクロ撮影が楽しめる。これは、従来の銀塩カメラでは考えられなかったことである。なにしろ、銀塩カメラでは、一眼レフでないかぎりは近接撮影時にはファインダー視野と実撮影領域に大きな差が生じて、現実的な意味でのフレーミングが不可能であるために、コンパクトカメラでのマクロ撮影など思いもよらないことであったのだ。デジタルカメラの中にはレンズの前面すれすれまでピントが合うものがある。こうしたカメラを用意すれば、かなりのマクロ撮影を容易に行える。しかし、等倍を越えるマクロ撮影や、また、被写体とのワーキングディスタンスをそこそこは取りたい場合などは、民生用(1眼レフでない)のデジタルカメラのマクロ能力といえども不満が生じる。ここでは、民生用デジタルカメラを用いながら、デジタルカメラを顕微鏡対物レンズや一眼レフ用のマクロレンズと組み合わせてデジタルカメラのスペックを越えてのマクロ撮影技法を紹介する。

無限系対物レンズを用いたマクロ撮影

 デジタルカメラでの超マクロ撮影プロジェクトは逆立ちした理由から始まった。ネットオークションで、オリンパスの無限遠補正系の長作動距離対物レンズを安価に入手したのだ。実は、本業の方で、無限系対物レンズと35mm1眼レフカメラのレンズを組み合わせて冷却CCD上に画像を形成する顕微イメージングをやっていた。無限系対物レンズは適当な収束レンズを必要とするのだけれど、それをカメラのレンズで代用するわけである。無限系対物レンズの場合には対物レンズの出射光は平行光線となる。従って、カメラレンズのピントを無限遠にしておけば、ピントを合わせた状態で、カメラのフィルム面に正確に結像するはずである。冷却CCDに接続する場合は、カメラマウントからCマウントへの変換アダプターを用いれば、フランジバックは正確に出ているので、Cマウントの冷却CCDを用いていれば、フランジバックの不適合を心配する必要はない。

撮影レンズの焦点距離の決定

 選択するカメラの焦点距離は、必要とする最終倍率と受光素子の対角サイズにより定まる。たとえば、オリンパスの無限遠系対物レンズでは、収束レンズの焦点距離180mm、視野数26.5mmが標準的スペックである。受光素子の対角サイズがLmmの場合、収束レンズの焦点距離fは180×L/26.5mm以上である必要がある。これ以下の焦点距離のレンズを用いると周辺部の画質が低下する。この時、受光素子面での拡大倍率は対物レンズの倍率×f/180となる。これは、対物レンズの拡大倍率が集束レンズの焦点距離を前提に定められているためである。ニコンの無限系対物レンズを用いる場合には、収束レンズの焦点距離が200mmの設計になっているので、上記の180を200に改める必要がある(ついでに、ニコンの場合は視野数が25mmなので、26.5を25に改める必要もある)。例えば、1/1.8型CCDの場合、対角サイズは9.04mmなので、必要とされる収束レンズの焦点距離は61.4mm以上となる。この時の拡大倍率は対物レンズに記している値を0.34倍したものとなる。

 カメラレンズの焦点距離が上記の基準を満たしていても拡大倍率が不十分な場合がある。それは、受光素子面での対物レンズの像に対して結像素子の分解能が負けてしまう場合である。対物レンズの分解能をdとすると、受光素子の分解能は拡大倍率×dより小さくなければならない。この条件が満たされていないと対物レンズにより拡大された画像の情報が完全には再現できなくなる。CCDの分解能は画素ピッチにより定まる。分解能は単純には画素ピッチの2倍以上を見ればよい。例えば、400万画素1/1.8インチCCDの画素ピッチは3ミクロン程度であり、CCD面の分解能は6~7ミクロン程度となる。このCCDとNA=0.2の10倍レンズの組み合わせを考えよう。NA値よりこのレンズの分解能は1.25~2.5ミクロン程度である。収束レンズの焦点距離が61.4mmの場合の拡大倍率は3.4倍なので、画像面での対物レンズ分解能に相当する画像は4.3~8.5ミクロンとなる。この状態では、CCDの分解能が少しばかり負けていて対物レンズの像を完全には再現できない危険性があることが分かる。集束レンズの焦点距離を1.5倍程度長くして100mmにすればCCD側の分解能が対物レンズに対して勝るようになり情報の欠落は無くなるだろう。

収束レンズの焦点距離を長くすれば倍率は上がりCCD側の分解能にも余裕ができるが撮影領域が狭くなる。収束レンズの焦点距離は画像周辺部とCCD分解能の条件を満たす限りで、なるべく短くした方がよい。

実装(あるいは失敗した試み)

 手元にはニコンのE4500があった。E4500は400万画素1/1.8インチCCDのデジタルカメラである。これまでの議論より、オリンパスの無限系対物レンズと組み合わせる場合には最低でも61.4mmの撮影レンズ、望ましくは100mm程度の撮影レンズが必要となる。しかしながら、E4500のズームレンズは7.85~32mの4倍レンズで、長焦点側の焦点距離は上記の条件に足りていない。とはいえ、安直に取り付ける手法があるので、まずは試してみることにした。

用意したものはケンコーのフィールドスコープアダプターとCマウント両メスリング、Cマウント-RMSマウントアダプターである。ケンコーのフィールドスコープアダプターは28mmフィルターネジに装着してアイピースに装着するものである。アイピースの替わりにCマウント両メスリングを固定してRMSアダプターにつなげば顕微対物レンズを取り付けられる。

ケンコーのアダプターを介して、オリンパスの対物レンズをE4500に装着したところ。コンパクトの取り付けられる。これで、きちんと撮影できれば、言うことがなかったのだが…。

上記の組み合わせでの撮影。方眼紙を撮影している撮影倍率はCCD面で1~2倍程度になっている。

デジタルズームを活用して中心部だけ取り出せば、これでも、そこそこ実用になる。この場合は2mm程度の領域を拡大することができる。しかし、デジタルズームを動かすと有効画素数が低下する。つまり、この組み合わせではカメラの性能を生かしたまま全画面の画像を得ることはできない。

もちろん、こうなることは予想の範疇であった。むしろ、この状態で、中央部にのみ画像があることから、撮影レンズの焦点距離を倍になれば、全画面の画像が得られるはずである。幸い、E4500にはテレコンバータが用意されている。これを買ってきてカメラと対物レンズの間に入れ込めばよいはずである。E4500のテレコンバータには2倍のものと3倍のものがある。CCDの分解能まで考えると3倍の方が良さそうであるが、価格的な問題などで2倍のものを用意した。コンバータのフィルター径は62mmである。ここから、RMSへの変換には少しばかり芸が必要である。

これが変換アダプターである。まず、62mmネジを52mmネジに変換している。これは、変換アダプターが無かったので、角型フィルター取り付けアダプターの52mm用と62mm用をエポキシで接着して固定している。ついで、ケンコーの52mmメスメスリングを使って、52mmのメスに変換している。それから、52mmから49mmにステップダウンリングで変換し、それから、OM用の49mmリバースアダプターでOMオスマウントに変換し、OM-CマウントアダプターでCマウントオスに変換し、それから、Cマウント両メスアダプターを介してCマウントRMS変換マウントにつないでいる。これで、撮影した写真を示す。

左がズームを最望遠にしたもので、右は最広角側にしたものである。悲しむべきことに、最望遠状態でも、画像の周辺に黒い領域が残っている。これは、カメラレンズ側の入射瞳と対物レンズの出射光のマッチングを真面目に考えていなかったたたりである…。(入射瞳についてはデジカメを用いた顕微鏡撮影を参照されたい)

おそらく、入射瞳がレンズ全面にわたっているような望遠系の単レンズでないと、無限系対物レンズの組み合わせはうまくいかないのではないかと思う。また、可能な限り対物レンズとカメラレンズの間隔は短い方がよいだろう。この点からは、現在のアダプターの改造を試みる価値があるように思っている。

接眼レンズを介したマクロ撮影

 ある日、ネットの顕微鏡がらみのサイトをあさっていたら、デジタルカメラに、接眼レンズを介してマクロレンズを取り付ける技法を紹介している記事があった。かなり目から鱗が落ちた。顕微鏡撮影については、対物レンズ像を接眼レンズを通してデジカメに送り込む光学系を使っているにもかかわらず、それ以外のレンズの画像も接眼レンズを通してデジタルカメラにつなぐことができるという発想が無かったからである。これなら、手元にある35mmカメラ用のマクロレンズをデジタルカメラで活用できる。

 ネット上の記事ではフィルター取り付け枠を用いて接眼レンズやマクロレンズを接続すると重量的な問題があるので、カメラの三脚穴を用いてシステムを固定するようにした方がよいと記されていた。しかし、そのためには、しっかりした工作が必要となる。この記事のコンセプトは、普通の人が普通に購入できる範囲でのシステム構築なので、三脚穴を使うことは諦めて、フィルター取り付け枠を用いたシステム構築を考えることにする。

 デジタルカメラを接眼レンズを介して他の光学システムに接続するためのいくつかのアダプターがある。例えばビクセンからは顕微鏡用・フィールドスコープ用・望遠鏡用の3種類のアダプターがあるし、他のメーカーにもいくつかのアダプターがある。しかし、いずれのアダプターも、それぞれのシステムへの取り付けを目的に作られているもので、顕微鏡レンズやら35mmカメラのマクロレンズに接続することは正面からは考えられていない。そこで、まず第1に汎用性のあるフランジ規格、M42システム、への接続を考えることにする。M42はいわゆるプラクチカマウントで、最近ではBORGからヘリコイドを含めたシステムが販売されている。M42に接続すれば、最低限プラクチカマウントやLマウントのレンズを用いてのマクロ撮影が可能になる。また、M42から他のカメラマウントへの接続ができれば、いろいろなレンズの利用が可能となるのである。M42への変換というと、ボーグが天体望遠鏡メーカーであるだけに、天体望遠鏡用のデジタルカメラアダプターを用いるのが筋がよい話になる。M42への接続には少なくとも次の2つの方法がある。

  1. ボーグのSD1-Xアダプターを介する接続。
    SD1-Xは31.7mmアイピース汎用のデジタルカメラ接続アダプターである。望遠鏡側はM57になっているが、同じくボーグのM57-M42変換アダプター(7524)でM42システムへの変換する。
  2. ビクセンの望遠鏡撮影用デジカメアダプター(DG-LV)を介する接続。
    ビクセンのアダプターはビクセンのLVアイピース専用である。LVシリーズは31.7mm径なので、これにボーグの31.7mmアイピースホルダーとM36.4とM57変換アダプター(7364または7522)によるM57にした後で7524でM42に戻す。

1と2ではフランジバックの長さが異なる。2の方がフランジバックを短くできる。これは、カメラレンズで無限遠撮影をしたい場合には重要になる。ちなみに、DG-LVアダプターを用いて、焦点距離20mmの接眼レンズを用いると、フランジバックの出たLマウントアダプターを使えばカメラレンズを通した無限遠撮影が可能である(実際には、無限遠より遠くまでピント合わせが出来るようになる)。

 M42からカメラレンズ等への変換にもいくつかの方法がある。CマウントやLマウントへの変換はボーグからアダプターが販売されているので、それを購入すればよい。顕微鏡対物マウントへは、Cマウントから対物マウントへのアダプターを買ってくれば作業は完了である。C-RMSアダプターは、杉藤もしくはエドモンドから発売されている。一般の一眼レフ用カメラマウントへの変換はCマウントもしくはLマウントを介して行う。Cマウントに関してはケンコーから、Lマウントは近代インターナショナルや近江屋からいくつかのマウントのアダプターが販売されている。プラクチカマウントのカメラレンズは、これらのアダプターを介することなく、直接M42システムへ取り付け可能である。なお、LマウントとCマウントではCマウントの方がフランジバックが短いためにアダプターの光学長が長くなる。このため、無限遠までピントを合わせたい場合にはLマウントを介しての接続を考えた方がよいだろう。

 ここまでの話を整理して図1に示す。

図1.デジタルカメラから各種撮影レンズへの変換

 図の中で接眼レンズの型式を記していないが、ここではビクセンのLV20mmを用いている。LVシリーズはアイレリーフが20mmあり、デジタルカメラとの相性がよい。現時点で、これ以外の接眼レンズは試してはいない。

写真:接続例。右側にデジタルカメラ。左側にオリンパスレンズを装着する。右側から、ビクセンのDG-LVアダプター(LV20mm接眼レンズ)、ボーグ7314-7522(もしくは7364か7523)-7524-7844をへて、OM-Lアダプターとなっている。この組合せでOMレンズの無限遠撮影が可能である(もう少し光学長が長くてもよい。)

ストロボを用いた照明

 接写においては照明が問題になる。拡大撮影ではレンズの有効F値が小さくなるため、それなりの照明をしないとシャッター速度が長くなりCCDのノイズが増えるなどの問題が起こる。カメラ撮影レンズを用いる場合に、カメラのマクロシステムのストロボを用いると楽に照明が行える。デジタルカメラから、直接外部ストロボが同調できると工夫はいらないが、できない場合には…、スレーブ発光ユニットを買ってくれば工作なしに外部ストロボが使える(機種によっては無限遠モードにするとストロボが発光禁止になる。この場合は手動フォーカスにして無限遠に持っていくと問題を回避できることがある。)。

TOP私家版実験講座 - デジカメを用いたマクロ撮影