有効拡大倍率

目視による観察の有効拡大倍率

まずは、2枚の顕微鏡写真を見て頂きたい。両方とも拡大倍率は同じで、同じサンプルの同じ部分を撮影したものである。

左の写真では、はっきりと格子が見えているが右のの写真は目をこらすと、一部分に淡く格子が見えてはいるものの鮮明ではない。2つの写真では撮影した対物レンズのNA値が異なっており左の写真の方が大きなNAで撮影されている。画面上で格子がはっきり見える大きさになっていることから、右の写真をさらに拡大したところで、格子が見えるようになるわけではないことがご理解頂けると思う。つまり、右の写真をさらに大きく拡大したところで、さらに細部が見えて新しい情報が得られるわけではないのである。一方、左の画像を縮小していくと(コンピュータ上で縮小するとモアレが出て不気味なことになるので、ここではやらないけれども)、存在する格子模様が小さくなって最後には人間の目によっては格子の存在が分からなくなることもご理解頂けると思う。

この簡単な例から、顕微鏡でものを拡大するときに、対物レンズによってできた像には、対物レンズの性質で定まる分解能の限界があるために、無闇に拡大倍率を上げても、より細部が見えるわけではないこと。そして、対物レンズの像に有用な情報が含まれていても、拡大倍率が小さすぎると、今度は人間の目の分解能の限界により、画像から有効な情報を引き出せなくなることが分かる。

拡大倍率が低い方が一度に見られる領域が広くなる。それ故に、人間の目の分解能によって対物レンズの画像が見分けられなくなるような状況が出現しない限りは、なるべく拡大倍率が低い方が顕微鏡観察の効率はよくなる。ここに、顕微鏡の最適観察倍率に関する基本的なアイデアがある。

視力は分単位の識別できる最小視角の逆数として定義されている(そうだ)。tan(1/60度)=3×10-4であり、これより、視力1の目は1m先の0.3ミリを区別できることが分かる。とは言え、これは、見ているもののコントラストが高い場合の話であり、コントラストが低いと、より大きなものでないと識別できなくなる。

顕微鏡の拡大倍率は対物レンズの倍率×接眼レンズの倍率である。対物レンズの倍率は実像を形成するので正確に定まるものである。一方、接眼レンズの倍率は虚像の倍率なので、実際には観察条件により少しばかり変動する。しかし、ここでは細かい議論は抜きにして、顕微鏡により作られる虚像が明視の距離(25cm)にあるとして話を進めよう。明視の距離にける人間の目の最小識別距離は0.075ミリ程度である。一方、顕微鏡の分解能Dは対物レンズのNA値と観察波長λに依存し、大体、D=λ/2NAという関係がある。拡大倍率Mとすると、MD≒0.075において、対物レンズの分解能と目の分解がだいたい釣り合うことになるので、これより、M≒0.15NA/λとなる、観察波長を可視領域の真中より少し短波長の500nmとし、これをλに代入するとM≒300NAとなる。ただし、この計算はコントラストがきわめて高いものを観察する場合であり、コントラストが高くない場合には目の実質的な分解能が低下するため、経験的には、この2~3倍程度の値が妥当とされている。すなわち、M≒600~1000NAであり、NAの最大値が(液浸でなければ)1であるので、光学顕微鏡の最大倍率は1000倍程度とされているのである。

もし、10倍の接眼レンズを使っているなら、バランスのよい拡大率を与える対物レンズでは、倍率とNAとの間には100NA=倍率という簡単な式が成立する。確かに100倍程度のレンズは1程度のNAを持つものが多い。ところが、5倍から10倍程度の低倍率の対物レンズのNAを調べてみると、この計算から予想されるよりも大きなNAであることが多い。これは、決して、低倍率の対物レンズにおいて分解能から要求される程度のNAにしてしまうと、画像が暗くなってしまうためである。特に螢光観察用に設計された対物レンズの中には倍率から要求されるのよりもはるかに大きなNA値のものもある。また、IC検査用の対物レンズの中にはNAが1未満であるにもかかわらず200倍程度の倍率のものもある。上記の考察からすれば、拡大率が大きすぎることにはなる。しかしこれは、検査員は終日顕微鏡観察を行うために、目の分解能ぎりぎりで組み合わせだと疲れが大きくなるためであるらしい。実際、一度に大きな範囲を見る必要がなく、特定の狭い領域のみでよいのだとしたら、高めの倍率にした方が観察は楽になる。

顕微鏡写真の有効拡大倍率(銀塩)

顕微鏡写真においては、目視にくらべて考慮すべき要素が少し多くなる。一つは、フィルムへの記録の時にフィルムの解像度が対物レンズの拡大像に比べて余裕があるか、そして、もう一つはプリントした画像を観察するときに、目の分解能が印画に含まれる細かい構造を認識できるかである。

この後の議論で頻繁に使うことになる数値をここで導入しよう。それは対物レンズの拡大率と開口数の比RM/NAである。RM/NAは対物レンズにより作られた実像における、対物レンズの分解能に相当する間隔の距離に比例する数値である。インコヒーレント照明で観察波長が500nmという条件下でRM/NA=100の場合、この距離は25μmとなる。倍率に比較してNA値が大きい(分解能が高い)ほど、RM/NAは小さくなる。RM/NAが小さな対物レンズほど、接眼レンズやトランスファーレンズの拡大率を高くしないと、対物レンズによっては結像されている細部の情報が失われることになる。液晶観察でよく用いられる、ノンカバーガラスの長作動距離対物レンズでRM/NAは50~100程度の値となる。

フィルム面上での拡大倍率は対物レンズの倍率×トランスファーレンズの倍率となる(これは、業務用の顕微鏡で倍率の定まったトランスファーレンズを使う場合である。単眼の顕微鏡で通常の接眼レンズを用いて写真撮影を行う場合には、接眼レンズからフィルム面までの距離により異なる。)。トランスファーレンズとしては2倍から5倍程度が一般的である。通常の35mmレンズの対角線長は43.3mmであり、普通の顕微鏡の視野数は20~26mm程度である。視野数が20mmの場合はトランスファーレンズの倍率が43.3/20=2.17倍以上ないと、周辺部の画質が悪くなる。最近の対物レンズには視野数が25~26程度あるものがあり、これらの対物レンズなら2倍程度のトランスファーレンズでも35mmフィルム全域で良好な画像が得られる。メーカーにもよるが、35mmフィルム撮影用の一番低倍率のトランスファーレンズは2倍もしくは2.5倍となっている。

トランスファーレンズの倍率が低いほどフィルムに要求される解像度は高くなる。そこで、一番厳しい条件となる最低倍率の2倍のトランスファーレンズについて検討することにしよう。対物レンズの倍率がMの時に、フィルム面での撮影倍率は2Mとなる。対物レンズの開口数をNAとすると、分解能に相当する距離はフィルム面で2Mλ/2NA=λRM/NAとなる。ここで、λ=500nmを用いると、距離はフィルム面で0.5-3*RM/NAmmである。これはRM/NA=100の対物レンズでは、0.05ミリとなり、1mmあたり20本の縞模様に相当する。一方、通常のカラーフィルムはコントラスト比が低くても(1.6:1)、ミリ50本程度の解像度があるので、2倍以上の余裕をもって記録できることになる。フィルムの解像度から来る限界を考えると、2倍のトランスファーレンズを使う場合に、RM/NAが50程度以上なら、フィルムの解像度には余裕があることになる。通常は、この条件は満たされており、フィルムの解像度を気にすることなく撮影を行って大丈夫なことが分かる。つまり、フィルムの解像度からのみ考えると、2倍以上ならなるべく低倍率のトランスファーレンズを用いた方が、より広い範囲を一度に撮影でき、また画像情報の欠落もないので有利であることになる。

撮影されたフィルムには必要な情報が含まれているとして、それを印画にして観察するときに目の分解能が対応できるかを続けて調べてみよう。多くの場合、サービス判の引き伸しをみることになる。最近では大きめのサービス判もあるが、ここでは、古典的なL判(127×89mm)で考えてみよう。35mmフィルムからL判への拡大倍率は3.7倍程度である。フィルム面上での0.05ミリは印画上では0.185ミリになる。明視の距離での人間の目の識別能力は0.075ミリなので、これは、一応は分解できる値ではあるが、それはあくまでもコントラストがはっきりしている場合で、コントラストが弱い場合には、少しばかり厳しい値になっている。この時、2倍ではなく4倍のトランスファーレンズを用いれば、印画上のサイズは0.37ミリになり、余裕を持って観察できることになる。

ここでは、引き伸しが旧来の光学的なシステムにより行われるとして話をすすめた。しかし、最近のサービス判はデジタル出力装置の使用が普通になっている。そのため、上記の議論が必ずしも成立しない場合がある。例えば、300dpiの印画は、大凡、ミリ5本程度の解像度であり、デジタル処理時に画像情報の詳細が失われる危険性がある。

ポジフィルムで最終的にスライド映写を行う場合にも同様に観察条件から要求される画像サイズを元に考察を進めればよい。例えば、映写された画像を10m離れて見る場合に、画面上で分解能に相当する長さは3ミリ以上、コントラストを考えると1㎝程度以上でなければならない。RM/NAが100程度の対物レンズと2倍のトランスファーレンズの組み合わせの場合、フィルムを200倍程度は拡大しなければならない。従ってスクリーンサイズは4.8×7.2m必要である。これは、通常の講義室にあるスクリーンに比べると一辺が倍程度となっている。この考察より、ポジフィルムを使ってスクリーンに映写する場合には4倍以上のトランスファーレンズを用いた方がよいことが分かる。

テレビ画面による観察の場合の有効倍率

テレビ画面による観察の倍率Mは、対物レンズの倍率MO、トランスファーレンズの倍率MT、撮像素子とテレビ画面の大きさの比で定まるテレビ倍率TよりMF=MO×MT×Tで定まる。次に、撮像素子のサイズと、画面サイズから定まるテレビ倍率を示す。

  10インチ(198×140) 14インチ(270×211) 21インチ(406×305)
1(12.7×9.5) 16 21 32
2/3(8.8×6.6) 23 31 46
1/2(6.4×4.8) 31 42 63
1/3(4.8×3.6) 41 56 85

通常のテレビの走査線は525本でインターレーススキャンの場合には縦方向の解像度は約350本である。横方向の解像度は信号系の周波数特性で定まっており(とはいえ、縦に比べて大きく離れた値にすることは現実的でないので)大体、350~700本程度である。

 テレビ画像を観測する場合は(ホールなどで多数の人間に見せる場合は除いて)、画面の観察は最適な条件(すなわち、テレビ画面が目から離れすぎていて詳細が見分けられないことがないような状況)で行われていると仮定してよいだろう。この場合、対物レンズの性能を生かし切れるかどうかは、撮像素子のサイズとRM/NAおよびMの関係によって決定される。

CCDの画面サイズは公称サイズと必ずしも比例しないので、正確な定式化はできないが、1インチCCDのサイズを基準として、その他のサイズは公称サイズに比例すると近似する。また、ここでは縦方向の解像度に話を限ることにしよう(横方向はシステムの帯域によって変化するゆえ)。この時、CCD上でのテレビの解像度に対応する距離は0.05×CCDフォーマットmmとなる。一方RM/NA=100の対物レンズで結像面の分解能相当距離が0.025mmなので、これより1/2インチ以下のCCDでないとRM/NA=100クラスのレンズの性能を発揮できないことがわかる。この時の最終倍率は、14インチディスプレイで観察するとして100×42=4200倍である。これが、テレビ画面で観察するタイプの顕微鏡の倍率が数千~1万倍程度に設定される理由である。

上記の倍率設定にすれば、対物レンズの性能を無駄にすることはない。しかし、その結果として観察できる領域が狭くなってしまう。1/2撮像素子の短辺の長さは4.8mmである。これと、35mmフィルムの短辺長24mmを比べると、その比は5であり、等倍映写のCCDで撮影される領域は5倍のトランスファーレンズをつけた35mmカメラで撮影される領域程度であることになる。35mmカメラでは5倍以下の2.5倍、2倍のトランスファーレンズも用意されており、上述の議論のようにそれらを用いても対物レンズの分解能を活かした撮影が可能である。つまり、35mmカメラの方が、CCDカメラよりも面積比にして4~5倍程度の領域を一度に撮影できるのである。

1/2CCDカメラ用に0.5倍程度のリレーレンズが用意されているシステムもある。このトランスファーレンズを用いると、35mmカメラによる撮影と同程度の領域を一度に観察できる。しかし、通常のテレビカメラシステムではシステムの解像度が対物レンズの解像度に及ばない状況となり、試料の細部を議論する場合には不適である。

ハイビジョンシステムは現行のテレビジョンシステムに比較して倍程度(面積比にすれば4倍)の分解能である。それ故、上記の0.5倍のトランスファーレンズをつけたCCDをハイビジョンシステムと組み合わせれば、分解能の劣化を引き起こすことなく、広い領域を同時に観察できる。

CRTを用いた観察の場合には、上記の議論とは別に、画素ピッチ由来の必要倍率も存在する。コンピュータ用のディスプレイは、ドットはミリあたり4本~5本程度である。従って、画面上の最低分解能は0.4~0.5mmとなる。分解能が1μmのレンズを用いている場合には、それ故に、最低でも400~500倍の倍率には拡大しないといけないはずである。この倍率制限は、通常はテレビの解像度から生じる制限よりは緩くはなる。しかし、モニター用画面が小さい場合には、こちらの制限が重要になることもある。

ここまでの議論では、テレビを前提にして話をすすめているが、コンピュータ等の画面表示でも基本的には同じような考え方で整理できる。とはいえ、コンピュータ画面上の解像度が高くても、撮影に用いたCCDの解像度がテレビ仕様の場合には、コンピュータ画面の解像度は無視して、上記のテレビ計算で話を進めなければならない。

TOP私家版実験講座 - 有効拡大倍率