プラチナコガネ撮影メモ

金属光沢のあるものの撮影は難しい。ましてやプラチナコガネとなればなおさらだ!

 何故か仕事としてプラチナコガネを撮影することになった。それも、ぴかぴかの光沢をもったやつである。光沢がある物を不用意に撮影すると、回りの風景が写り込んでしまうので、見苦しい写真になる。その一つの例として金属球を地面において撮影した写真をお目にかけよう。

ご覧のように、回りの風景が移し込まれてしまっている。もちろん、写り込みを積極的に使う芸もあるのだけれども、科学写真では、そのような芸のでる幕はなく、いかに、写り込みをなくして、さらに金属表面の細かい傷などがはっきりと見えるように撮影するかが重要である。写り込みを少なくするためには、照明と対象物周辺の環境の2つが重要である。つまり、カメラの性能の違いによる影響は少ない。素人さんが玄人が用いる高級カメラを買い込んだとしても、それだけでは玄人に太刀打ちできない所である。玄人は全面が半透明の材料で覆われた撮影台などを用いたり、出張先ではトレーシングペーパーなどを張りめぐらせて照明の調節を行うらしい。一方、素人さんは照明にはさほど注意を払わないのが常で、撮影前の段階で素人さんの敗北は決まったようなものである。私自身も、昔、ナイフの撮影をしたことがあるのだけれども、ライティング機材の不足もあり、苦労のわりに結果は今ひとつだった。

 ところが、最近になって、いくつかのメーカーから簡易型の撮影台(ディフューズボックス)が販売されるようになった。価格も1万円程度以下で、これなら素人さんでも手が出せる。このような撮影台は、デジタルカメラの普及に伴って需要が出てきたようで、カタログには用途としてオークション出品物の撮影なども記されていたりする。ディフューズボックスは大きく分けて、立方体の一面が空いているタイプと、床をのぞいて全空間を覆うようになっていて、撮影用に取り外し可能な窓が上方と側面に2つついているタイプがある。光沢がない物の撮影で、光の回りを均一にしたいのなら、一面が明いているタイプの方が操作性がよい。しかし、上方から撮影する標本写真や今回のように全方向に写り込みが生じるような試料の場合には全空間を覆うタイプの方がよい。

 さて、そうして撮影したのが次の写真である。

何故か、頭と背中で色合いが違っているのだけれど(そのうち改訂予定。)、背中の真中に黒い領域がある。これは、カメラのレンズ部分の写り込みである。

 ところで、この手の標本撮影の場合にはリングライトによる照明がよく用いられている。リングライトによる同軸照明がよく用いられている。業務用のリングライトは、あまり安価な物ではないが、最近ではデジタルカメラ用にかなり安価なリングライトも販売されている。また、一眼レフカメラ用アクセサリーとしてリングフラッシュライトを用意しているメーカーもある。


ニコンマクロクールライト。近接撮影時には結構便利な光源である。中には、改造してLEDの数を倍に増やして使っている人もいる。

オリンパスのリングフラッシュ2種類。左は通常の落射照明型である。右は外側の傘により間接照明をするタイプで、より無影に近い撮影が可能になる。撮影範囲に応じて、2種類の大きさの傘が用意されている。

ついでに、リングフラッシュと同様の照明効果を出せる、リーベルキューン鏡。オリンパスの38mm、20mmマクロレンズ用で、右の写真は20mmマクロレンズに装着したところである。これは、試料側からリング状態のスリットを通して照明を行い、リーベルキューン鏡で反射させて試料を照らす。かなり古くから用いられているものである。


さて、クールランプでの撮影と行きたいところなのだが、後で述べるアクセサリーの都合上、オリンパスの通常のリングフラッシュを用いた写真をお目にかけよう。

この写真は、オリンパスのリングライトを用いて真鍮の円筒を真上から撮影したものである。ご覧のように正面からの反射で全面が光ってしまい、表面形状がよく分からなくなってしまっている。つまり、表面の反射が強い物をリングライトで直接撮影すると、リングライトの反射が強烈に写ってしまい好ましくないのである。このため、このような場合に用いるアクセサリーとしてリングクロスポーラライザーが用意されていた。

この写真がリングクロスポーラライザーである。リングクロスポーラライザーリングの内側、外側とも偏光子であるが、偏光方向が90度異なっている。このため、外側の発光部分から出た光が光沢表面で単純に反射して偏光方向が変わらない場合には内側の偏光板でカットされてレンズには入らないようになる。なお、オリンパスのリングクロスポーラライザーはカメラ側の要請で円偏光板が使われている(円偏光はカメラ側)のだが、物によってはリングの内側が右円偏光場、外側が左円偏光板となっている。物体に照射される光は直線偏光なので、左右逆の円偏光板を使う必要はないようにも思えるのだが、どうしてなのだろう……。

リングクロスポーラライザーを装着しての写真。上の写真と比べて周囲は明るくなっているにSも拘わらず、金属部分が黒くなり表面の傷がよく見えるようになっている。このように、リングクロスポーラライザーは平滑な表面からの単純な反射の除去に効果がある。その効果をもう一例お見せしよう。

写真はガラス定規を通してコルクを撮影したものである。リングクロスポーラライザーなしでは、リングライトが強く反射してコルクの組織が見づらいが、リングクロスポーラライザー付きではかなり反射が押さえられている。

 それでは、リンググロスポーラライザーを使って虫の撮影を行うとどうなるかを次ぎにお見せしよう。

これはコガネムシ(円偏光反射タイプ)。フィルターなし(左)に比べてフィルター付きの方は背中の強い反射が押さえられて細部まではっきりと写った写真になっている。リングクロスポーラライザーが有効に働いている。

次はカナブン系で非円偏光タイプである。フィルター無しだと背中に反射がでてしまう。一方、フィルターをつけると……、黒くなってしまう。つまり、カナブンの反射は偏光をきわめてよく保っており、直交した偏光板により遮られてしまうのだ。これは、非偏光タイプの昆虫を確実に確認するのによい手法であるが、標本写真撮影としては、流石に都合が悪い。

これはオプティマプラチナコガネである。本来は白銀色なのに、妙に暗い写真になっている。標本写真としては不可である。何故こうなっているかを明らかにするために、金属球を同様な条件で撮影した写真をお見せしよう。

写真の白色の物体はアクリル球、そして右側が真鍮の球である。フィルターを使ったものは使っていないものに比べてリングライトの直接の反射が弱くなっている(右)ものの、リングライトの写り込み自体は中央の小さな部分で、その周囲は光源ではない暗い天井が写り込んで暗くなり、周囲はリングライトによって照らされた背景が写り込んで明るくなっている。

金属球と同様にオプティマの場合もリングライトの周辺部は暗い部分が写り込んで暗くなっていることが分かる。また、オプティマの場合は反射により偏光状態が変わるのでフィルターを装着しても装着していない場合と写り方はほとんど変わらないことが分かる。

こうしてみると、オプティマのきれいな標本写真を撮影するのには均等な背景が全面に写り込むような手法を用いなければならないことが結論づけられる。そのための一つの方法は非常に焦点距離の長いレンズを使って、背中の黒い部分が十分に小さくなるくらい遠くから撮影することである。もちろん、カメラ部分以外は均一な背景になるようにしておかなければならない。もう一つの手法は、黒く写っている領域に何らかの手法でそのほかの部分と同じ程度の明るさになるような照明方法を導入することである。

その手法とは落射同軸照明である。落射同軸照明とはハーフミラーを使って、レンズの光軸と同じ方向から照明する手法である。残念ながら手持ちのデジタルカメラ用の落射照明装置は販売されていない。いや、正確には落射同軸照明装置がアクセサリーとして用意されている民生用デジタルカメラなど存在していない。どうしても落射照明を行いたい場合には自作するか、エドモンドサイエンティフィックより販売されている汎用の落射同軸照明装置を購入する必要がある。もっとも、エドモンド製品は個人で買うには少し趣味の領域を逸脱する価格になっている。幸い、自作やエドモンドの製品を購入しなくてもオリンパスの80mmマクロレンズ用落射照明ユニットを持っているので、それを取り付けることにした。

写真はオリンパスの20mmマクロと20mmマクロ用の落射同軸照明装置。レンズの先端に取り付けて横から光を当てれば落射同軸照明ができる。今回の撮影では20mm用ではなく80mm用の落射同軸照明装置を用いている。

 落射正味を取り付けて、とりあえず撮影したのが次の写真である。

これは、落射照明が強すぎて黒い領域はなくなったものの背中に光点が出ている。おそらく、金属球の撮影なら、このような光点が出ても、それほど文句はないのではないかと思う。でも、プラチナコガネではそうも言ってはいられない。そこで、落射照明装置の入射部分を適当にティッシュで覆って光を弱めたのが次の写真である。

左が落射照明をつかったもの、右が最初の写真である。まだ、最適化からはほど遠いが、暗い部分の写り込みを減らせることは分かる。それにしても金属光沢のある凸面を持ったものの撮影は難しい。ましてやプラチナコガネとなればなおさらだ!

補足:上の写真はオリンパスの135ベローズマクロの先に手持ちで80ベローズマクロ用の落射装置をおいて、反対の手でハロゲンのスポットランプを持って撮影している。このため、まだ光点が強く出ている。「コガネムシは円偏光」のベーツプラチナコガネは、ニコンE4500にアダプターを介して上記の落射装置を取り付けて、より微妙な調整をして撮影しているので上の写真より光点が目立たないものになっている。また、落射聡明装置の裏面に白い紙を貼り付けて落射照明装置の黒い枠の写り込みを防いでいる。でも、その部分の明るさが足りずに少しばかり他とは違った写りになっている。

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