100度のガラスカッターを試してみる 続:ガラスカッターは角度が命

前略…表によると、刃先が100度くらいのカッターなら、カバーガラスの切断には困らなそうである。ただし、Webをさがした範囲で100度のカッターの入手先は見付かっていない。…後略

こんなことを記してから半年ほど経ったある日、「刃先114度のガラスカッター」というタイトルのメールがやってきた。送り主さんは120度のカッターを売っているステンドグラスサプライさん。その時点での114度カッターの在庫は鋼のローラーのもののみで、114度カッターの超硬のものは3月入荷という話なので、超硬が入荷したら買いに行く旨の返事などをしていたら、なんと「刃先100度のカッター」というメールがやってきた。メーカーさんに特注して刃先角100度のカッターを作るというのだ。

正直、かなり驚いてしまった。なにしろ、100度のカッターに適合するガラスの厚さは、ホイールの径にもよるけれども、0.1mmのオーダーなのである。もちろん、そんなカッターがあったら、(ペネット刃のカッターを持っているけれども)飛びつくには違いないのだけれど、私の他にそんな物に飛びつく人が国内に、そんなに沢山いるとは思えない。買いに来るのは、カバーガラスなどの薄めのガラスの切断に困っている人々だろうけれど、そういう研究者がわざわざガラスカッターの刃先角度と厚さの関係を調べて、100度のカッターを指定して買いに来る可能性は極めて低い。何しろ、私だって、ローラータイプで上手く切れないのに不審は抱いていたけれど、理由を調べようとは長らく思ってもいなかったし、ペネットを学会に持っていった時も、知っていた人は1人しかいなかった。大抵の人は、ガラスの切断が上手くいかなくても、「そんなもの」と思って不適合なガラスカッターを使い続けているのだろうから、100度カッターが世に出たところで、それを実際には必要とする人々が飛びつくとは思えないのだ。

カバーガラスを切らなければいけない人以外に誰がそんなカッターを必要としているのかと思ったら、万華鏡屋さんらしい。万華鏡に使う鏡は、少し高級なものでは、表面側に反射面があるものを使う。表面側に金属をつける手法は、古典的な銀鏡反応や、真空蒸着があるが、万華鏡屋さんが好んでいるのはスパッタリングという手法で金属をつけた鏡のようで、スパッタリングミラーと呼ばれている。これは、真空蒸着で作れる銀色の鏡の材料はアルミか銀で、両方とも空気中で長時間の後には曇ってしまうので、それが嫌われているためだろうと思う。さて、そのスパッタリングミラーであるが、通常は1mm程度の基板上につけられている。そして、基板のガラスはそれなりに硬いものを使っていると思う。確かに、硬めのガラスの1mm程度以下の板は、120度カッターでも少しばかり切りにくいかなと感じることもある。また、ペネットは、どうやら法人格を持った組織のしかるべき(研究)部署でないと入手しにくいようなので、より角度のきついカッターへの要望はあり得ると思う。実際、それなりの予約が入ったそうだ。

100度のガラスカッターが手に入ったので、他の角度のカッターとの比較を行ってみた。ちなみに、使っているカッターは、すべて私物。さすがに、この手の半分趣味のことに、研究費を使うわけにはいかない。比較に使ったのは国立科学博物館のミュージアムショップで50枚420円なりで買ったSGMのスライドガラスとレタースケール代わりのデジタル秤。デジタル秤の上にスライドガラスを置いて、カッターに加える力を秤のメモリとして読んで、その値が大きく異ならないように気をつけながら、ガラスの上を刃を転がす。気をつけているけれど、±20%程度の誤差は当たり前という、いい加減な世界である。

その、いい加減な比較の結果は、なかなか衝撃的であった。100度のカッターは120度クラスのカッターに比べて、むちゃくちゃ弱い力でスコアーがはいる。逆に言うと、ちょっと力を入れすぎると横方向のクラックがはいってしまう。極めてデリケートなカッターだ。ちなみに、使ったガラス材で、スコアーと横割れの境目は500gぐらい。通常のローラーだと、キズがはいらないんじゃないかという気がする程度の力である。

参考までに、いくつかのガラスカッターで、妥当そうと思われる押しつけ力と刃先の角度の関係をまとめてみた。力は、ガラスの種類によるけれど、相対的な値は、ある程度参考になるのではないかと思う。

型名 C-pTC-30(100) pCT-30(120) PTC-10(138) TC-41V TC-600 M17-PNT
妥当な力(kg) 0.4 1.1 1.7 1.7以上 1.9以上 0.7
クラックがはいる力 0.6 1.6 2以上 未計測 未計測 1.5以上
(以上)はその値までで、まだスコアやクラックが入っておらず、もっと力が必要なことを示す。未計測はスコアさえ入っていないので、調べていない意味。

では、実際に使っての感想はというと、100度のカッターは1mmのスライドガラスを切るのには角度がきつすぎるようだけれども、0.17mmのカバーガラスを切るのには安心感がある。力を入れずに切れるので押し割る心配なく、しかしローラーを転がすと、ガラスが切り口のところで微妙に折れ曲がるのが見えるようになる。カバーガラス(やもう少し薄いもの)の切断にお困りの場合は、買い込んでみる価値はあるだろう。

ところで、上のM17PNTはペネット刃である。ペネットも、実はかなり力が少なくスコアを入れられる。そして、1mm程度のガラスも問題なく切ることができる。値段的には100度のカッターの3倍程度はしてしまうけれども、これ1本の気軽さならペネットも選択肢に入るのではないかと思う。(2009年8月β)

2010年2月追記1:研究室の共用のペネットのカッターは1年半弱で切れ味が落ちて交換した。カッティングオイルは一切使わない(基板の汚れを嫌うため)し、また使い方が丁寧とは言い難い環境だけれど、寿命の一つの目安として記しておく。

2010年2月追記2:厚さ0.2mmの石英ガラスの切断に関しては、ペネットより100度のカッターの方が使い勝手がよいように感じている。また、切断面も100度のカッターの方がきれいな気がする。上の表を見ていただければおわかりのように、100度カッターの方が、スコアを入れるのに必要な力が少なくてすむ。これが、薄いガラスにスコアーを入れる時の使い勝手の良さにつながっていると思う。0.5mm厚の石英ガラスに関してはペネットでOKであった。

2014年10月追記3:100度のカッターの初代は品切れになって、メーカーた再発注に応じてくれないため、異なるメーカーで焼結ダイヤモンド(初代は超硬合金)で100°刃のカッターを用意したそうだ。刃先が超硬から焼結ダイヤになっているので、価格が高くなってしまっているけれども、多分(原理的に)耐久性は向上しているだろうと思う。使い勝手は、初代と変わらないと思う。。

この項、前編続々編もあります。

 

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