2010年前半のガラスカッター事情 続々:ガラスカッターは角度が命

久しぶりにステンドグラスサプライさんのWebを見たら、大変なことになっていた。

多くの人にとっては、特段に変わりがないのだろうと思うのだけれど、ガラスカッターの三星のところに複数種類のペネットとさらにはAPIOまで並んでいたのである。

このシリーズの最初の記事をWebに載せたときにはWebで調べてもペネットカッターを市販している店はなく、その後、100度のカッターでステンドグラスサプライさんからメールを頂いたときに、ペネット販売を打診したのだけれど、難しとの返事を頂いたのだけれど、それがわずか1年の間に大きく変わってしまったのである。

変わったのはステンドグラスサプライさんの商品ラインアップだけでなく、三星ダイヤさんのWebもである。これまでは、どんなに探しても、ペネットを含むハンドカッターの型番などは掲載されていなかったのに、適合ガラス厚みも含めて型番が記されている。

実は、これまで使っているペネットカッターの素性をよく知らなかった。最初に注文するときに先方から「ペネットといっても種類があるんですが、どれですか」と言われて「とりあえず、スライドガラスを切るのがメインで」と答えたら「じゃあ、一本試しにおくります」と言われてやってきたものが具合が良かったので、それを使っていただけなのである。

ちなみに、三星さんのWebによるとペネット刃は2種類供給されていて薄板用のP-M1?Pと厚板用のP-M1?Hである。?には持ち手の種類と、直線用か曲線用かで別の数字が入る。M15・17・19の奇数番が直線用、でM16・18・20の偶数番が曲線用である。それにしてもペネットが薄板用と厚板用の2種類しかないなんて…、代理店の人の「ペネットといっても種類があるんですが、どれですか」という言葉は何だったのだろう。と思ったのだけれど、mdischottのドイツのサイトを見ると、ペネットの刃先は一周あたりのノッチ数と刃先角度で少なくとも11種類くらいはありそうだ。どうやら、Web掲載のペネット刃のガラスカッターはその中から、適当な守備範囲のものを選んで商品化しているように思える。最初に代理店の人に、どれにするかを尋ねられたということは、刃先のスペックを指定すれば標準品以外も出てくる可能性があるのかもしれない。

さて、三星さんのWebによると薄板用ペネットの適合範囲は0.4~3mmである。これは、スライドガラスを含む日常用途にはどんぴしゃりの範囲である。一方、カバーガラスや薄手の石英板を切るのが必ずしも容易ではなかったのも納得できた。薄板用ペネットと刃先100度の通常のカッターがあったら、カバーガラスなどには刃先100度を用いた方がよいわけである。

ところで、三星さんのWebには、これまでまったく出てこなかった商品が2点ある。1点目はAPIO(=all purpose in one) -wheelである。in one wheel という割には、厚さ事に複数の刃があるわけだけれど…それはともかく、特徴として切り口がきれいということになっている。ちなみに、昔に展示会で三星の方にAPIOの刃先について伺ったところ、ペネットよりは細かなギザギザ刃というご説明を頂いた記憶がある。ただし、これは三星さんの正式な説明ではなく、あくまでも個人的な記憶であり、APIOの刃先に関する正式な記述はWebにはない。まあ、ごたごた言うより、刃先を実際に顕微鏡で観察すれば良いのだけれど、三星さんがWeb上にAPIOの刃先を出していないので、ここでもこれ以上の話は控えることにする。ちなみに、上記のmdischottにはペネットのノッチが見える写真があるのだけれど、ノッチの数がどう考えても規格とあっていない。実際手元にあるペネットを見てみると、写真とはずいぶんと印象の異なるものである。

閑話休題。AOPI刃の存在は知っていたけれど、型番などが一切分かっていなかったし価格も不明だったので入手を試みていなかったのだけれど、入手できるなら試したくなるのが人情である。何しろ、APIOの英文カタログを見ると No cracks at starting zones or cross points という文言がある。スタートはともかく、クロスポイントでクラックが生じないと記してあることは、ガラスに縦横に切り線を入れてからガラスを割れるということを意味していそうだ。ダイヤモンドチップのカッターは、衝撃に弱く切り線を横切って切り線を入れるのは御法度である。このため、ガラスを一旦細長く切って、それをさらに細分していく必要があるのだけれど、縦横に切り線を入れられるなら、カットの回数をかなり減らすことができる。

また、マイクロペネットは、ガラス厚み0.05~0.4mmに対応すると記してある。これは、まさにカバーガラスや薄手の石英基板、さらにX線用の50μmガラス板にもぴったりの品である。確かに100°のカッターで100ミクロン程度のガラスの切断には困っていないけれど、1mm厚のガラス用のペネットの切れ味を知ってしまうと、もはや普通のガラスカッターには戻りにくく、薄板でも100°より安心して切れるのだろうなと想像が膨らんでしまうのである。

と言うわけで、続編と同じように、それぞれのカッターで必要な力を計測しようかとも考えたのだけれど、時間と気力の余裕がなく、今回はそれはパスして、定性的な感想を記すなら、APIO刃はペネットに比べると、クラックの入りは浅いけれども、1mm程度のスライドガラスは、まず失敗なく切断できる。また、スコアをクロスに入れて折るのもOKであった。また、μペネットは、カバーガラスの切断はまったく問題なくOKであった。ただし、薄手に石英については、セルを作る予定がないので試していない。

今回は、カットに必要な力を出さない代わりに、ガラスの断面をお見せしようと思う。APIOの売りが、きれいな切断面なので、それが本当かを自分で確認したく、ガラスの切断面の拡大写真を撮影した次第である。断面は、上からペネット、APIO、そして125°の通常のカッターである。

Penett切断面

ペネットによる切断面

APIO切断面

APIOによる切断面

普通のカッター切断面

普通のガラスカッターの切断面

比べてみると、確かにAPIOはクラックが浅く均一に入っていて、割れた面もスムーズである。まあ、ほとんど1回ずつの試行でしかないので、どの程度一般性があるかは分からないけれども、一つの参考としてあげておく。

ところで、このサイトには、業務としてガラス切りをする方の他に、趣味の工作でガラス切りをする方もいらっしゃるだろうと思う。そういう方にとっては、ペネット系のカッターは気軽に使うのには少しばかり高価な品であるように思う。(業務で、石英ガラスや透明電極などを頻繁に切る場合には、失敗率を考えると、トータルコストですごく安いものだけれど。) そこで、以下に、薄板ガラスにしぼって、ざっくりと用途別におすすめのカッターを記しておこうと思う。

1mm程度が主
ガラスの種類にもよるけれども、120°程度の刃先のカッターで用は足りると思う。一番安価なのはフレッチャーの114°カッターの鋼タイプで1000円以下で買える。続いて、フレッチャー114°のタングステンカーバイドタイプが2000円台である。後は、ステンドグラスサプライさんにあるトーヨーや三星の薄板用の120~125°のカッターを用いるのでよいと思う。万華鏡屋さんでスパッタリングミラーを切断する方には、APIOがおすすめかもしれない。自分でスパッタリングミラーを切ってみていないので、無責任ではあるけれども、スライドガラスを切断した限りではAPIO刃の断面は美しく、万華鏡の仕上がりのプラスになるように思える。この点では、ペネット刃よりおすすめである気がする。
0.1mm程度が主
カバーガラス程度のものが主になる場合は、選択肢はステンドグラスサプライさんで売っている、刃先100°のカッターか、μペネットにほぼ限られる。μペネットは、多分、普通のペネットよりも高価なので、通常の安価なカバーガラス等の切断のみなら、あえてμペネットにする必要はないだろうと思う。

その1続編があります。

 

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