切断台とガラス管切り 又・ガラスカッターは角度が命

 

その1続編続々編あります。

2008年にペネットを入手して以来、研究室で切断に失敗したガラス片を見ることは少なくなった。くずガラス入れをみて切断に失敗したガラスが増えていたら、ペネットの刃先がだめになっているシグナルなので、チェックして新しいのに替えるようにしている。人というものは、連続した変化には気がつきにくいもので、ペネット刃で切断に失敗しても、刃先が劣化しているとはあんまり考えないらしい。

続々編では、APIO刃の話題を出したけれども、研究室ではペネットのみで、APIO刃は出していない。ペネットとAPIOを比べると、ペネットの方が切断面は汚いと思うけれども、APIOの方が失敗率が高めな気がしている。とりあえず、切断面は気にならないので、失敗率の低い方を標準としている。

では、研究室内のガラス切断でまったく問題が無くなったかというと、少なくとも2つほど大きな問題が残っていた。ガラスを切るサイズの正確さとガラス管の切断である。

ガラス切断台

ペネットのおかげで、ガラスカット自体の失敗率はものすごく低下したのだけれど、「切ったガラスの半分がちょっと大きすぎてホルダーに入りませんでした」なんて台詞を聞かされることがある。

研究室で多くの人が長らく使っていたのは、方眼紙に線を引いただけの代物だ。

昔の切断台

その上にガラスをおいて、ガラスの上に定規を直接おいて切り線を入れる。世の中には器用な人もいて、こんなものを使いながらもガラスを正確に切るのだけれども、器用さや注意力が足りない人間もいるわけで、上のような台詞を聞かされることになる。

私自身は、自分の注意力には自信がないので、その少ない注意力を方眼紙の上に正確にガラスをおいたり、定規の場所を決めるのに費やしてしまうのが嫌だから、アルミ板にスケールを貼り付けたものを自作して使っていた。ついでに記すと、定規をガラス板につけてしまうと余計な汚染が生じる可能性があるから、定規はガラス板に直接つかないような構造にしていた。それを人々が使える場所に転がしておいたこともあるのだけれども、誰も使おうとしなかったところを見ると、使うのにある程度の手間がかかる品物を使いこなすよりは、慣れたものを使い続けるのが楽であるらしい。人々に使ってもらえるようにするためには、分かりやすくて簡単な道具が必要となると感じていた。

必要は感じても、よい着想がなかったのだけれど、学会の展示会で見たアステラテックさんの硝子切りが刺激になって、その辺に転がっている板で、切断台2号を作ってみた。

切断台全体

カッティング定規には、ハンズで売っていた1cm×1cmの角アングル、それを2mm程度のスペーサーで浮かせて、切断する硝子板には直接触れないようにしている。

浮かす工夫

定規の方が固定で、ガラスの位置を動かして切断長を変える仕組みだ。下側に仮固定してある直尺は、定規のエッジのところで、100-2.5mmになるように調整している。

定規のセット

このため、100mmの位置から計測してガラスを切断したい長さのところに、ゴム磁石をおいて、そこまでガラス板を滑らせて接触させれば、切る長さがそのまま設定できる。

実際の作業は、まず四角のゴム磁石で切断長を決めて、その後で、1cm幅に切った磁石を直尺の横に置き、そのゴム磁石に切断するガラスを置く。その上で、ガラス板の反対側をもう一本のゴム磁石で固定する。こうすると、ガラスを切る時に端まで切って勢いあまっても、ゴム磁石の上にローラーが転がるので、刃先を直尺の上に直接ぶつけて痛めることがない。また、手前のゴム磁石のところからローラーを転がすのもOKだ。

とりあえず、それなりに使われているようなったところをみると、使い勝手はそんなに悪くないのだろうと思う。

アステラテックさんの製品ではガラスカッターは押しつければ装置の方で押しつけ強度は調整してくれるようになっている。しかし、この道具では、ガラスカッターは自分で押しつけなければならない。で、その強度については、秤を使って伝えるように準備はした……。といっても数キログラムはかれる秤の上にカッターマットを置いただけで、その上に適当なガラスをおいて0点リセットをしてからガラスにカッターを押しつければよい。

押しつけ力を伝えるための工夫

実は、ペネットの場合は、押す力は結構許容範囲があり、あんまり秤の出番がない。とはいえ、普通のカッターやAPIO刃(これはペネットより押す力がいると思う)の場合には、こんな工夫で、硝子切りのやり方が楽に伝えられるようになると思う。

ハンドカット用の道具はアステラテックさん以外にも三星さんでも作っている(すごく高いけど)。驚くべきことに両方ともステンドグラスサプライさんで扱っているのだけれど、誰が注文をするのかは、100°のカッター以上の謎だ……。また、理化学カタログにも別のメーカーの製品が掲載されている。こちらは、薄層クロマト(TLC)用の板を切るためのものらしい。確かに、薄層クロマト用の大きな板から細長い板を切り出すのには便利そうな品だ。でも、横幅の再現性のある調整機構が無さそうだから液晶セルや、蒸着装置に取り付ける基板を切るのには、使いにくい気もする。

ガラス管カッター

研究室では有機物を自作の炉で昇華精製している。その時に使う昇華管は、パイレックスの長い管を半分に切ったものだ。そして、昇華作業後に精製された試料を取り出すときにも、試料のそばで管を切る必要がある。これが、あまり楽ではない作業なのだ。ガラス細工になれた人にとっては、なんてことない作業なのだろうとおもうけれど、普段はガラス細工をやらない身にとって、直径26mmのガラス管を切るのは難儀な作業だ。特に、最初に半分に切るときは切口が悪いと昇華装置に取り付けられなくなるので、きれいに切断する技術が求められる。

細いガラス管は目立てやすりなどで1箇所に傷をいれて広げるように曲げればパキンと折れる。しかし、ある程度以上太いガラス管は、回りに一回りの傷をいれて焼きダマなどでヒビを入れる必要がある。古典的には目立てやすりで傷を入れるのだけれど、不慣れだと、一回り回すと元に戻らないこともある。また、やすりがへたっていると結構な労働量になる。一頃は、ガラス管を固定して回すようなジグを作って、ペネット刃を押しつけて切断することを試みてみた。巧く同じ場所にきれいに傷が入ると、ガラス管を軽くたたくと2つ割れるなんて芸はできるけれども、習熟していないと成功率が低すぎて普及するには至らなかった。傷をいれるのも、やすりの他に、超硬の刃先のスクレーパーなんかも用意したのだけれど、使われないところを見ると、使い勝手が悪いのか、意味を理解されていないのかという状況だった。

理化学用品のカタログを見ると、ガラス管切りという道具は売ってはいる。ローラータイプの硝子切りがついていて、ガラス管を押さえるように挟み込んで管を一回り回せば傷がつくという品物なのだけれど、手元にあったやつ(今は方向不明だ)は管を一回り回しても傷もつかない謎の品だった。ほとんど、ホームセンターで売っている硝子切りで、薄手の無アルカリガラスの切断を試みるぐらいに巧くいかない品なのである。

改めてカタログを見てみたら、「硬質硝子には使用できません」ときっぱりと記してあるのを発見して傷がつかない理由が納得いった。何しろ、硬質硝子の代表的な存在は、ホウケイ酸ガラスなのだけれど、それよりはパイレックスと言った方が通りがよいと思う。昇華精製のガラス管もパイレックス管を使っている。傷がついたら、むしろ驚くべきことだったようだ。それにしても、普通の研究機関でガラス管といえばパイレックスだと思う。研究機関向けのはずのカタログに、パイレックスに使えない硝子切りが掲載されているのは大きな謎だ。

ある日、ステンドグラスサプライさんからメールがやってきた。メール自体は、100°のカッターについてだったけれど、そのついでに、90°の刃角のガラスカッターがあったので取り寄せてみたという文言があった。100°刃で対応ガラス厚が0.1mmだとすると、90°の場合はどうなるのかと一瞬思ったのだけれど、ガラス管切り用と伺って俄然興味がわき試させて頂くことにした。

届いた品は、確かに刃先角は鋭く、そしてローラー径が10mmもあるという品物だった。

使えるガラス管切り

このシリーズの最初で、適合ガラス厚は刃先角とローラー径に依存すると記したけれど、普通のカッターはローラー径がほぼ同じなので、これまで刃先角だけで話がついていたけれど、ローラー径が大きいと状況は一変する。三星さんのカタログを引っ張り出してみると、90°のカッターはないのだけれど、125°刃先で、ローラー径が2mmだと適合ガラスが0.55mmなのに対して、5ミリになると3mmになる。関係に直線性はないし、そもそも90°の初期値が分からないから、推測出来ないのだけれども、刃先角が90°だからといって、対応厚みが0.1mm程度でないのは確かだろうと思う。

この品でパイレックスのガラス管に傷をいれてみた結果はというと、非常に楽に一周の傷を入れることが出来た。ペネットのような高浸透刃ではないので、そのままガラス管が真っ二つとは行かないのだけれど、その後にバーナーであぶって濡らした雑巾で急冷してやれば、あっさりと二つに分かれる。硬質硝子には使えないと記してある国内の理化学屋さんのカタログにある安全ガラス管切りとは雲泥の差である。それにしても理化学屋さんのカタログには、普通の硝子切りも、スライドガラス(やましてはカバーガラス)には適さない厚板用のものが掲載されていること合わせて、手間賃の取れる作業を残しておきたいのではないかとさえ思いたくなる状況だ。

なお、この品は

使えるガラス管切り先端

のように刃先の交換が出来るようになっている。これは安心なところだ。

 

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