単色ライトボックスを作る

 スライドフィルム用の白色光源ライトボックスを使って水晶玉の観察をしていたら、単色光源が欲しくなった。波長によって旋光度の分散があるために、直線偏光子をどのように組み合わせても球の中心が暗くなることがないのだ。また、円偏光子を使った観察でも、色が出てしまうと渦巻きのつながりなどを理解しにくい。その点、単色光源なら、明と暗だけになるから、現象を単純に理解できる。

 理科実験器具として緑色の単色光のライトボックスを販売はしている。大体3万円程度だ。まあ、本業の方でも使えるものなので、実験器具として購入しても良いのだけれど当面の目的が趣味の水晶玉観察では(それを授業のネタにするつもりがあったとしても)公費を投入するのは憚られる。さて、どうしたものかと考えているうちに、世の中には殺菌等があったことを思い出した。

 単色光のライトボックスは、その波長と外観からして、光源に螢光体のついていない蛍光灯、すなわち、低圧ていどの水銀灯を使っているのに違いないという気がしてきた。低圧の水銀灯からは紫外、可視領域に何本かの輝線が出ているのだけれども、それを適当なフィルターで必要なものだけ取り出せば、単色光源となるはずだ。

 余談になるけれども、安価なブラックライト作製が数年前に仲間内で流行ったことがある。螢光性のある鉱物を光らせて遊ぶのに理科器具として販売されているブラックライトが高いので4Wの蛍光灯の懐中電灯(単三3本程度で動くやつ)を4Wのブラックライト蛍光灯を買ってきて、付け替えると、非常に安価に(もとの懐中電灯さえ安く購入できれば千円台で)長波(365nm)のブラックライトとなる。短波(250nm)のブラックライトは、残念ながら、この方法では作れない。殺菌等を買ってくれば短波紫外線は出ているのだけれども、それ以外の可視の光も出ており、紫外線のみを透過するフィルターを買ってこないと行けないのだけれども、残念ながらそれは安くないのだ(自作は不可能ではないのだけれども、多層膜を正確につくれる蒸着装置がないので、石英ガラスに適当なアルカリ金属を蒸着して、もう一枚の石英ガラスで挟んで、大気にふれないように密閉シールするくらいしか方法がなく、あまり現実的ではない。)。

 と言うわけで、単色光ライトボックスを作るのに必要なものは、以下のとおりである。

適当なライトボックス
ライトボックスを自作しても構わない。要は入手可能な殺菌灯と交換可能な大きさの蛍光灯を使っている拡散光源の箱があればよい。今回は、写真用のライトボックスを使った。最近の写真用ライトボックスは薄型で高価になっているが、昔ながらの普通の蛍光灯を使う物は定価で1万円以下、実売で5000円台である。今回は某カメラ量販店オリジナルの3980円の8W蛍光灯×1の品を買ったけれども、性能としては5000円台のFフィルムのにした方がよかったかもしれない(Fフィルムのは在庫がなかった)。それ以外に4Wの蛍光灯を使うライトボックスもあり、これなどは電池でも動くので持ち運びに便利で悪くはない。
緑の輝線(546.07nm、e線)が出ている蛍光灯
 蛍光灯は低圧の水銀灯であり、励起された水銀蒸気から発生する光で蛍光体を励起して可視領域の光を放出している。蛍光体で変換された光は、ある程度拡がった分布をもっているので単色光源には使えないが、水銀蒸気から出ている輝線がそのまま出てくる場合には、その光をフィルターで選べば単色光源として使える。実際に、どのような蛍光灯を使えばよいかと言えば…、メーカーのカタログ灯からスペクトルの分布をしらべて546nm付近の緑の輝線がきれいに抜け出ているものを探せばよい。それが、分からない場合には…、ある程度の危険と非効率を代償として殺菌灯を使えばよい。殺菌灯は蛍光体をいっさい塗布していない(かつ、管に紫外線透過材料をつかった)蛍光灯で、非常に強力な250nm付近の紫外線とそれに比べるとはるかに弱い可視域の光を放出している。今回は秋葉原で1080円で8Wの殺菌灯を購入した。(ロムの消去用に売っていたりする
適当なフィルター
緑色のプラスチックのシートがあれば、それでよい。今回は東急ハンズで380円の塩ビの緑色のシートを買っている。

図:単色ライトボックスの材料。手前から、普通のライトボックス(3980円、殺菌灯(1080円)、緑の塩ビ板(380円)


※注意事項…今回は、光源として殺菌灯も利用している。殺菌灯からは強力は紫外線が出ているので、点灯した殺菌灯を直接見ると目に障碍が生じる可能性がある。また、殺菌灯の光を皮膚にあてると皮膚がんを誘発する可能性がある。さらに殺菌灯の光を有機物(衣服灯)にあてると、劣化する可能性がある。殺菌灯からの光は危険であることをよく認識して注意すること。殺菌灯により被害を受けても、責任はとらないので、読者の責任により作業をおこなうこと。


 作業手順は簡単だ。まず、ライトボックスをあける。あけてみると、中には蛍光灯と銀色の紙があるだけの非常に安直な作りであることがわかる。ここについている蛍光灯を、購入した適当な蛍光灯(今の場合は殺菌灯)に換える。


図:ライトボックスの内側。蛍光灯が1本と銀色の紙製の反射板があるだけ。蛍光灯を殺菌灯に換えたところ。


 続いて、緑のシートをライトボックスのサイズに切断する。そして、ライトボックスの散光板の下にそれを取り付ける。

図:0.2ミリの塩ビ板は鋏で切断可能だった。白い散光板の上に重ねておいてあるところ。


 あとは、もとのように組み立てる。以上である。


図:緑に光るライトボックス。中央部のみ明るくなっているのは… もとのライトボックスの性能が悪かったため。もうすこしまっとうなライトボックスを買うのだった…。


補遺

 アサヒカメラの2002年2月号を見ていたら、幾つかのメーカーのライトボックスの発光スペクトル測定結果が掲載されていた。幾つかのライトボックスは、何故か546nmの水銀の輝線を結構放出している。ということは、これらのライトボックスと適当な緑フィルターを組み合わせれば擬似的な(裾が完全に切れていないので、フィルター幅だけ弱いバックグラウンドが必ず重なる)単色光源を安直に作れる可能性がある。これらなら、紫外線の心配はない。自分で持っていたライトボックスが幸か不幸か(何しろ、色調的にはちょっと問題があることになる)このタイプだったので、緑フィルターをかぶせてみたところ、目視では結構単色光源として使えそうである。


参考

 東急ハンズで買った塩ビ板の可視から紫外の透過スペクトルを測定した。紫外領域はかなり不透明なようである。


その後(2003年6月)

研究室のUSB接続分光器を使って、ライトボックスのスペクトルを実測した。赤が殺菌灯を用いた単色ライトボックス。そして、青はハクバのライトボックスに上記の緑フィルターを組み合わせたものである。ハクバのライトボックスの方が緑のスペクトルも太く、短波長側に余計な線も見えている。単色ライトボックスとしては殺菌灯を用いたものが性能がよい。

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