レーザー水準器は光学調整の秘密兵器となるか

 自分で光学系を組むときの実際の作業の第1歩は光学部品の高さを揃えることである。もちろん、実際の作業を始める前に、組もうとしている光学系を組み立てるのに必要充分な光学部品を揃えておく必要があり、その時点で密かに躓いていることもあるのだけれど、それは別の問題である。さて、レンズにしろ、凹面ミラーにしろ中心に垂直に光を通すのが光学系を組み立てていく上での基本であり、基本からのずれが大きくなると像の収差は大きくなってしまう。ミラーの場合には垂直入射にしてしまうと、出射光と入射光の軸が重なってしまい光学系が組めないので、ある程度の斜入射にせざるは得ないのだけれど、なるべく垂直入射に近くなるような努力はする。

 左右方向の位置調整に関しては、レールなどを使うのではなければ、光学系を組みながら設定していくわけだけれど、上下方向の調整に関しては、組み立てに先立ち、全てを揃えておく方が効率がよい。

 光学系の高さの調整にはマグネットベースにけがき針を取り付けたものを使うことがある。これは、日本の光学系研究室で標準的な方法であるのかはしらないけれど、昔お世話になっていた、光物性の研究室では標準的な方法で、おそらくは、光物性研究のある一派ではよく使われていた方法なのではないかと思う。

 光学機器の中には、少し奥まったとろろにあるスリットなどがあるから、けがき針を使うのは、確かに簡便で効率的な方法である。とはいえ、硬い針をつかうわけだから、不注意によりそのあたりのものに傷を付ける事故は起こりうるわけで、その研究室にも、けがき針の傷跡があるプリズム偏光子やら、赤外用のレンズなどが存在していた。

 けがき針に替わる高さ合わせ用具の探索は緊急性は高くはないが、一つの課題として頭の中に留まっていた。でも、適当なものが見付からないままに、ほとんど忘れ去っていたある日のこと、ホームセンターでDIYレベルのレーザー水準器を発見して、高さ調整に使えるのではないかと、発作的に購入してしまった。

 レーザーレベラーは本職用のは数万円するのだけれど、これは定価でも1万円しない。たぶん、その半分ぐらいで手に入ると思う。本体には水準器がついていて、また、調整用のミニ三脚(これは、実験室的には実用品とは言いがたい気もする)もついているので、傾いた場所でも水平を取ることもできる。

 上部の外装はプラスチックだけれど、本体はアルミ系のダイキャストになっていて、レーザや水準器はダイキャストに取り付けてある。レーザー光は本体下面と平行に出てくると期待していいだろうと思う。レーザー光は赤色の半導体レーザーで次の写真に示すように拡がって放射されるので、光学ベンチにレーザーレベラーを水平に本体を設置して、レーザーを飛ばせば、複数の光学部品の高さを調整する基準が一瞬にして得られることになる。

 レベラーの実際の扱いは、まだまだ研究中である。本体の下には1/4のねじ穴があいているので、それを利用してポストに取り付けることができる。こうすれば、マグネットベースに装着して、自由に動かして、またポストにより高さ調整もできて、使い勝手が良くなるのだけれど、現時点で重大な問題が発覚している。それは、この方法だと本体の水平が出ていないのである。

 もちろん、本体をポストに固定するために、1/4-M6変換アダプターを使ってちゃんと奥までねじ込めるようにしている。それでも、本体の水準器で見ると水平は出ていないし、確かに出射されたビームも傾いている。そんなわけで、現状では精密ラボジャッキを使って高さを定めた上に本体を置かないと、高さ調整の基準としては問題が残る状況になっている。

 まだまだ、実際の使いこなしに工夫が必要そうなのだけれど、けがき針を用いての高さ調整では、目視で針とレンズの高さの中心を合わせるだけなのに対し、レーザーレベラーを使うと、光が走っているのでレンズを透過した後や、ミラーによって反射した光の角度変化をチェックできるなど、けがき針に比べて利点がある。今のところ、レベラーを使い始めたばかりなので、単純な使い方しかしていない。しかし、考えれば、もう少しいろいろな使い方ができるのではないかと思う。光学測定をやっている研究室にはおすすめの一品である。

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