ハンドツール入門 

-様々な工具の名称と使い方の簡単な紹介-

目次

ネジとボルトの規格・ネジを作る

ミリ・インチ規格・テーパー、アンカーボルト、石膏への取り付け

ネジを回す(1)ドライバー類

チップの種類・形状分類

ネジをなめた場合の対応 

ネジを回す(2) レンチ類

ラチェット、コンビネーション、モンキー、トルク

 

はさむ・つまむ・切る(1)(プライヤー)

ぺんち類・ニッパー・プライヤー類・万力等スナップリング

 

切る・削る・穴をあける

のこぎり(金・セラミックも)・ニブラー・ヤスリ・硝子切り・ドリルセンターポンチ、けがきるい・ハンマー・ダイスタップ

 

はかる

ノギス・マイクロ・曲尺・須子や・水準器類・巻き尺・ヘッドルーペ・温度

 

はさむ・つまむ(2)

ピンセット・ピックアップツール類

けみかる

潤滑剤・接着剤・テフロン・カプトンテープなど

電気

ストリッパー、圧着・はんだごて、第3の手

配管工具

チューブカッター・ベンダー・セージロック類

安全

手袋・ライト・メット・靴・物品の固定

 
上の階層へ

はじめに

 実験系研究室では、ドライバーやペンチといった工具のお世話にならないわけにはいかない。温調ブロックのネジを始めとして、工具を使わなければならない状況は日常的に出現する。さらに、真空機器をいじっていれば、レンチ類なしで作業は進まない。的確な工具を正しく使う知識があれば、作業がスムーズに行えるので、本来やるべきことにより多くの時間を割ける。そこで、研究室内で手にする機会が多い工具と、存在を知っていると便利かもしれない工具について紹介する。

 このWebの対象読者は、「2番のプラスドライバーを持ってきて」と言われて、何を持って行けばいいのか分からないレベルの人である。この程度が研究室に新しく入ってくる学生さんの平均的なレベルである。当然のように、工具の名前も知らないことが多いので、このWebでは工具の名前をきちんと示すようにしている。また、英語の表記も可能な限り行うようにしてある。

 このWebの想定読者は上記のような初心者であり、プラス2のドライバーのメーカー毎の使い勝手の違いを議論するような工具マニアは対象としていない。多くの大学の研究室では、工具を極限状態で使うことは少なく、よほどの安物でなければ工具の善し悪しが問題になることは少ない。経験的には研究室では工具が用途を守った使用により摩耗消耗する頻度より、不適切な使用により破損したり、装置に危害を加えたりする頻度の方が遥かに高い。また、管理の悪さにより方向不明になる頻度も決して低くはない。それ故、高価な工具を揃えることは決してよい選択ではない。入手性も考えに入れて、出入りの工具商が進めるメーカーの手頃な価格の品を使う方が現実的である。一般的には工具メーカーにこだわる必要はない。

 なお、取り上げる工具や使用法はあくまでも、個人の経験の範囲内のものであり一般的ではないであろうことがらもあることを予めお断りしておく。

ネジとボルト、工作材料

 工具の話の前提として、ネジ・ボルトなど工具が扱う対象について紹介する。ネジは、少なくとも日本に鉄砲が伝来する前に発明されていたはずである。一説によると、ネジとネジ回しは西暦1000年から2000年の間の最大の発明である。発明当時のネジは互換性がなく、組になっていない雄ねじと雌ねじとは組合わさらないのが普通であった。工作機械の発達と工業上の要請からネジの規格が、まずは個人によって、後には組織的に決定され現在に至っている。日本製の装置の場合には、基本的にJIS(あるいはISO)のミリ規格である。当然、別の店で買ったネジを組み合わせて使って差し支えない。

ミリネジとインチネジ

 ネジの互換性は、非常に広範囲に成立しており例外があることが認識されにくい。しかし、レーザーや光学部品などの米国製品では、通常はインチネジが使われている。また、ハードディスクなど米国で発達したコンピュータ部品などではインチ規格のネジを使っているものが多い。インチねじとミリねじは互換性がないので、インチねじ用のねじ穴にミリねじをねじ込むことはできないし、その逆も不可能である。無理にねじ込めばどちらか(あるいは両方)がだめになる。雌ねじの方は区別が付きにくいので、雄ねじをいれようとして気がつくことも多いが、とにかく、少し入れてみてスムーズに入らないようなら緩めてきちんと確認する必要がある。なお、ミリネジも一種類ではなく、標準品の他に細目ネジが使われていることもある。

 ミリネジは雄ねじの外径とネジのピッチで規定される。正確には、ネジ山の角度や形状にも規格がある。また、ネジの精度にも規格があるのだけれども、実際問題として気にする必要はない。ミリネジはネジの外径とピッチを用いて「 M外径」 という表記を用いる。ただし、M2~M4のネジはJIS規格の変更によりピッチが変わっているため、M3×0.5という具合に外径×ピッチという表記を用いていることもある。研究室ではM2~M6程度のネジを使うことが多い。M8以上のネジは真空装置に使われている部分がある。M2より小さなネジは、光学部品などで、一部の装置に使われているものがある。ネジは大体はミリ単位刻みであるが、小さいものでは端数があるものもある。なお、M1.7、M2.3、M2.6は標準的なJISには含まれていないが、歴史的にカメラや電子機器で多用されていたため、現在でもそれなりに流通している(と思う)。次にそれぞれのネジと標準ピッチを示す。

 ネジ呼び名 ピッチ(並目) ピッチ(細目1) 備考
M1 0.25 0.2  
M1.2 0.3 0.2  
M1.6 0.35 0.2  
M1.7 0.35   標準規格外:カメラに使われている
M2 0.4 0.25  
M2.3 0.4   標準規格外:電子部品に使われている
M2.5 0.45 0.35  
M2.6 0.45   標準規格外:電子部品に使われている
M3 0.5 0.35   
M3.5 0.6 0.35   
M4 0.7 0.5   
M5 0.8 0.5  
M6 1.0  0.75  

M8

1.25  1.0 細目 0.75もあり 
M10 1.5  1.25 細目 1,0.75もあり 

 インチネジも雄ねじの外径とネジのピッチで規定されている。インチネジのピッチはネジ一山の長さではなく、1インチあたりのネジ山数となっている。インチネジの呼び名は1/4(約6ミリ)以上の直径のものはミリネジと同じように直径が呼び名になっている。それより細いものについてはNo.0000からNo.12という番号付けがされている(らしい)。次にインチネジの規格を示す。ミリで示した値は概数である。なお、No表記のもののインチ径の中には小数表記がある。Web上で見つけた小数表記の表より元になったであろう分数を探し出そうとしたのだけれど、発見できなかったものである。インチネジにも並目と細目がある。通常は並目が流通している気がする。

呼び名 径(インチ) 径(ミリ) ピッチ(インチ) ピッチ(ミリ) ピッチ(細目)インチ ピッチ(細目)ミリ
No. 0000 0.021(1/48?) 0.53 160 0.16    
No.000 0.043(11/256?) 0.86 120 0.21    
No. 00 0.047(3/64) 1.19 90 0.28    
No. 0 0.060 1.52     80 0.32
No. 1 0.073 1.85 64 0.397 72 0.35
No. 2 0.086(11/128?) 2.18 56 0.45 64 0.397
No. 3 0.099 2.52 48 0.53 56 0.45
No. 4 0.112 2.85 40 0.64 48 0.53
No. 5 1/8 3.18 40 0.64 44 0.58
No. 6 0.138 3.51 32 0.79 40 0.64
No. 8 0.164 4.17 32 0.79 36 0.71
No. 10 0.190 4.83 24 1.06 32 0.79
No. 12 0.216 5.49 24 1.06 28 0.91
1/4 1/4 6.35 20 1.27 28 0.91
5/16 5/16 7.94 18 1.41 24 1.06
3/8 3/8 9.53 16 1.59 24 1.06
7/16 7/16 11.1 14 1.81 20 1.27
1/2 1/2 12.7 13 1.95 20 1.27

特に誤認しやすいインチネジとミリネジ

 ミリネジとインチネジでは、光学部品の固定によく用いられる6mmと1/4インチのネジが外径がほぼ等しいために誤認されることが多い。図に、6ミリねじと1/4インチねじを示す。ねじの直径は両者ともほぼ6mmである。両者を比べると、インチねじの方がピッチが少しばかり粗い、これが唯一の区別手段である。ピッチが違うので、間違えてねじ込もうとすると、すぐにスムーズに入らなくなる。この状態で、それなりに固定されているからといって、そのまま使うようなことは絶対に避けるべきである。

 なお、カメラ用の三脚ネジも1/4であり、光学機器メーカーの作る照度計などの固定穴も1/4になっていることが多い。 間違えても、三脚穴にM6をねじ込んで固定しないように注意すること。

テーパーネジ

 水道や流体の配管ではテーパーネジが使われていることがある。テーパーネジの番手の確認は、通常のネジよりも難しい。太さによっても場所によって異なるので、はかり方によっては、規格表のどちらなのか定かではないような値となってしまうことがある。テーパーネジの見分け方について出入りのガス屋さんに聞いたところ、一番よい方法は、テーパーネジの番手を一式揃えておいて、実際にそれをはめ込んで確認することだそうだ。一式を揃えるのは、それほどコストがかかることではないので一式用意しておくとよい。

ネジと工具の接続、ネジの頭の形状

 ネジの頭には、通常は何らかの工具で回すための構造が取り付けてある。M3程度のネジの場合にはプラス(Philips)かマイナス(Slotted)の溝(JIS用語だと「すりわり」と言うようだ)がついていることが多い。ある程度以上太いネジでは頭の部分は六角形でスパナを使って扱うようになっている。このようなネジをボルト(hexagon headed bolt, Hex Head (Cap) Screw)と呼ぶ。ボルトの頭の大きさは平行な2つの面の間の距離(二面幅:Width across flats)で規定されている。プラスやマイナスのネジとボルト以外に、頭に六角の穴が開いたボルトやトルクス用の加工がされているネジもある。これらは六角キャップスクリュー(Hexagon Socket (Head) Cap Screws, hexagon socket head bolt)とか、トルクスネジ(Torx screw)とか呼ばれている。単価は通常のネジに比べて高くなるが、ネジを締めたり緩めたりするときに、プラスやマイナスと比べてネジの頭を破損しにくいので、頻繁に開け閉めを繰り返す時には用いる価値がある。六角にはミリサイズとインチサイズがある。大きさは両者とも平行な2面間の距離で規定される。トルクスは、頭の形状によりネジ側に穴が開いているT型と、ネジ側に工具を被せて使うE型がある。トルクスの大きさは曲線の最外部間の距離で規定されている。もとの設計がインチであるために、ミリ単位では非常に半端な数字になっている。また、距離の計測に誤差が入りやすいので、トルクスネジのサイズチェック用の工具が販売されている。六角穴とT型トルクスでは、穴の中央に棒状の出っ張りがあり、通常の六角レンチやトルクスドライバーを差し込めないようになっているものがある。これはいじり止め(tamper proof,tamper resistantと呼ばれる機構で、このようなネジに対応した、六角レンチやトルクスドライバー(棒に対応した凹みが中心部に存在する)を用いる必要がある。

 上記の5種類が研究室でお目に掛かることが多い4種(マイナス・プラス・六角・Tトルクス)+1種(Eトルクス)のソケット(工具とカップルする部分)形状である。それ以外にも、色々な規格が提唱され、それなりには使われている。これらの多くは、通常のプラスドライバに比べて浮き上がりが少なく、締結が容易であるような設計や、締めることは出来てもゆるめることが出来ない(航空機用)作りになっていたりする。それらの中のいくつかを次ぎに示す。

 ネジの頭は、形状によりいくつかの種類に分けられている。代表的なものは頭が丸く頭頂が平らな「鍋ネジ、鍋ビス(pan head screw)」、と頭が平で下が円錐状の「皿ネジ、皿ビス(flat head screw)」である。ビスという言葉はフランス語由来であるらしい。鍋ネジで、六角レンチ用の穴があいているものはSocket Button Headと呼ばれることがある。鍋ネジはネジの頭が上に出っ張る形状なのでネジで押さえつける部品にネジの外径の穴をあけるだけでよい。このため、薄板でも止めることが出来る。一方、皿ネジはネジの頭が部材の中に隠れて表面の出っ張りがなくなるという利点があるが、部材にネジの頭を入れるための加工をしなければならないので、手がかかるし、また加工できるほどの厚みがない薄板を止めるのには適さない。鍋ネジにも皿ネジにもプラスドライバに適合する溝を切ったものとマイナスドライバに適合する溝を切ったものがある。丸ネジと形状が似ているが、頭の大きさが大きいのがトラスネジ(trus head screw)である。トラスネジは、電気機器の外装の固定などによく用いられてきたものである。

 頭のないネジもある。これは「イモネジ」((headless) set screw, grub screw) と呼ばれており、機器のボリューム調整のつまみを軸に固定するために使われていたりする。頭を使って部材を押さえつける代わりに、ネジの先端でボリュームの軸を押しつけて固定する。イモネジの頭はマイナス形状の溝が掘ってあるものと、六角レンチの穴が作ってあるものがある(こちらをホロースクリュー(hollow set screw)ということがある)。六角レンチタイプの方が作業性がよく、新たに取り付ける場合は六角タイプを用いる方がよい(小さい物では六角穴が小さくなりすぎるので、マイナスの方が強度が出るという話もある)。

 こうした頭の形状の区分とは別に、木ねじではネジの構造による名称の違いもある。しかし、研究室で木工をすることは少ないのでここでは割愛する。

日本で売られているいくつかのネジの頭の形状と標準的なサイズ(直径×頭の厚みmm)

  サラ ナベ トラス バインド
M2 4×1.2 3.5×1.3 4.5×1.2 4.3×0.85
M3 6.0×1.75 5.5×2.0 6.9×1.9 6.3×1.3
M4 8.0×2.3 7.0×2.6 9.4×2.5 8.3×1.7
M5 10.0×2.8 9.0×3.3 11.8×3.1 10.3×2.1
M6 12×3.4 10.5×3.9 14.0×3.7 12.4×2.4

東日技術資料より

ナベと丸はほとんどサイズは変わらないので、ここではナベの値のみを記している。

 

ネジのサイズとドライバの番手・ボルトの二面幅等の関係

 小さなネジの頭のドライバの溝は小さく、ネジが大きくなれば頭の溝のサイズも大きくなる。ネジのサイズと溝の間には一応は関係が定められている。

 ネジの呼び径とボルトとナットの二面幅(相対する辺の間の距離)は国内ではJIS B 1002で、国際的にはISO 272で規定されている。JISとISOは当然のことながら大部分は一致しているが、一部に食い違いがある。これは現在のISO規格の前のバージョンであったISO/R861:1968に基づき制定されたJIS B 1176-1974で制定されて規格が国内で普及しており、その規格との互換性を考慮したためである。M10ネジの二面幅はISOでは16mmだが、国内では現在販売されているものも含めて旧来の規格である17mmのものがほとんどである。二面幅には小形系列、並系列及び大形系列がある。小形系列はISOにはないが、自動車業界で普及しており自動車用の工具を主に扱っている工具店では並系列よりも幅を利かせている。

呼び名 二面幅 六角キャップ 六角イモ ドライバ(+)

ドライバ
(-)幅

トルクス小ネジ Tトルクスキャップ Eトルクス
                 
M2

1.5   +1 0.6 T5,T6    
            T7,T8    
M3 5.5 2.5 1.5 +2(+1) 0.8 T9, T10 T10 E4
M4

+2 T20 T25 E5
M5 2.5 +2 1.2 T25 T27 E6
M6 10(12) +3 1.2 T30 T30 E8
M8 13 +3 1.6 T40   E10
M10 17(16)     T50   E12

※M10はISOもJISも二面幅は16だが実際には旧規格である17が流通している。M6の12はフランジ付のもので、アングルの固定によく用いられている。M3のフィリップスドライバーサイズは通常は2番だが、トラスネジは1番であるようだ。真空機器はICFフランジは70がM6で114から203まではM8なので、10mmと13mmに対応出れば大体のところはどうにかなる。ICF-34はM4だが、六角ボルトよりキャップスクリューになることが多い。JISフランジではM10もよく使われている。

 

呼び名 ボルト2面幅(インチ) ボルト2面幅(ミリ)
No. 0000    
No.000 3/32"  
No. 00 3/32  
No. 0 5/32"  
No. 1 5/32"  
No. 2 3/16"  
No. 3 3/16"  
No. 4 1/4"  
No. 5 1/4  
No. 6 5/16 or 1/4  
No. 8 11/32  
No. 10 3/8 or 5/16  
No. 12 7/16 or 5/16  
1/4 7/16 or 3/8  
5/16 1/2  
3/8 9/16  
7/16 5/8  
1/2 3/4 (7/8)(重作業用)  

 

ナット類とワッシャー

 装置部品にネジが切ってあればネジを直接ねじ込んで固定できる。装置には単なる貫通穴(バカ穴)しか開いていない場合には、ネジを通して反対側をナットで締める必要がある。ナットの大きさは、同じネジのボルトと基本的には同じであるが、フランジがついている場合などは異なっている。また、手締め用の蝶ネジ(ウイングナット)や、四角い形状のものなどもある。ネジの頭を隠したい場合には、袋ナットを用いいる。もちろん、ネジの長さに気をつけないと、まともに締まらなくなる。 

 ネジを実際に締める時には、ネジの頭のところにワッシャーやスプリングワッシャーを入れるのが普通である。スプリングワッシャーは緩み止めのためのものである。スプリングワッシャーと装置が直接接触するとネジを締めるときに装置の表面に傷がつくので、スプリングワッシャーと装置の間に普通のワッシャーを入れておく。ネジとナットで板を締める場合には、通常はナット側にスプリングワッシャーを入れる。この場合も傷を防ぐためにワッシャーを入れるようにする。

ネジの長さと長さの調整・潰れかけたネジやねじ穴の補修

 ネジのサイズは、ネジの外径と頭の下から先端までの長さ(あご下)で規定される。同じM4のネジでもあご下の種類は多く、適当な種類を揃えておく必要がある。あご下の長いものになかには、途中まではネジの切っていない棒で、先端の適当な長さ領域のみネジを切ってあるものもある。

 ネジのあご下が長すぎる場合には適当な場所でネジを切断する。ネジを金鋸やニッパで切断すると切断面付近のネジが潰れて、ねじ込めなくなることがある。その場合はヤスリで切断部分を削って、ネジが潰れている部分を取り去るか、ネジヤスリやダイスなどでネジを整形する。M4程度以下のネジの場合は簡易圧着工具についているねじ切りを使えば後処理の必要がない。

図:ねじ切りのついた圧着ペンチ。右のほうにM2.6~M5のねじ切りがついている。ねじ切り部分は片方のみネジがついていて、そちら側から使う側のネジをねじ込んで切断する。ネジが切ってある部分でネジが保護されるので、ニッパで切った時のように山が潰れることはない。

 変なネジをねじ込むなどして、ナットなどが潰れかかっている場合には、ダイスを使って成型する。本式のダイスではなくて、修正専用の簡易ダイスもある。

ネジをねじ込む時の注意、潤滑剤の使用について

 ネジを入れて、ほとんど最初から抵抗がある場合には何か問題がある。インチネジとミリネジを間違えている場合もある。ネジが痛んでいる場合もある。あるいは止めようとしている部品がずれていて、ネジを削っているような場合もある。いずれにせよ、抵抗の原因を確認して対処するべきである。

 貫通したねじ穴にネジを入れる時に、ネジが長すぎると穴の向こう側で他の部品にぶつかって問題を引き起こすことがある。特に、パーソナルコンピュータの部品の取り付け時に長すぎるネジを使うと装置を壊すことがるので注意が必要である。貫通していないネジ穴にネジを入れている場合も別の意味で注意が必要である。ねじ穴よりネジが長すぎるとネジが長くて途中で回せなくなり固定できなくなることもあるし、ねじ穴の底が弱い場合には、ねじ穴の底が変形したり抜けたりして、装置を壊すことがある。特に、カメラの三脚穴は注意しなければならない。
 

 ネジが締まってきてからの抵抗は、ネジに働いた張力による力と、張力によって生じる雄ねじと雌ねじの摩擦、さらにネジの頭やナットと装置部材との摩擦によって生じている。これらの抵抗のうち、実際にネジを締め付けるのに使われているのは張力による力のみで摩擦力は締結には直接結びつかない。ネジに油や固体潤滑剤で潤滑を施すと、摩擦が減少するので、同じ力でネジを回しても、より強くネジを締めることができる。ネジを締めるときに油なんかをさすと、ネジが緩みやすくなりそうな気がするが実際には逆なのである。200℃以上に加熱する装置では締結時に通常の機械油で潤滑をしておくと、ネジがとれなくなることがある。某真空メーカーの人は焼き付くといっていたが、温度により潤滑油が固化したのではなく蒸発してしまい潤滑が効かなくなって摩擦が大きくなった可能性もあるかもしれない。理由はいずれにせよ、このような場合には高温に耐える硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を用いる。
 ネジの最大締め付け力はネジの材質と大きさにより規定されている。規定値通りにしめるには締め付けトルクが管理できる工具を用いるべきである。

ネジの材質(何をえらぶか)

 多くの材質のネジがある。通常市販されているのは鉄に防錆処理を施したもの、真鍮、ステンレス、プラスチックなどがある。

ネジの締め付けトルク

 ネジには本来適正な締め付けトルクがある。とはいえ、研究室において締め付けトルクを気にするのは、コンフラットフランジを締め付ける時ぐらいで、それ以外の時にトルクを気にすることはまずない。締め付けトルクの値は、ネジの材質と潤滑状況に依存する。次ぎに、標準的な値を使って計算して標準締め付けトルクを示す。値はN・mで示してある。kgf・cmにするには表の値を10倍にすればよい。

  M2 M3 M4 M5 M6 M8 M10 M12
標準 0.176 0.63 1.5 3 5.2 12.5 24.5 42
アルミ等 0.088 0.315 0.75 1.5 2.6 6.2 12.2 21

単位 N・m トルク係数K=0.2として計算。標準締め付けトルク表(東日技術資料より) 標準は4.6~6.6の強度のネジ

 

ネジを締めるのに使う道具 その1、ドライバー類

 いわゆるネジ回しである。英語ではscrewdriverでdriverと言っても通じないらしい。日本語の場合でも「細長くてプラスとマイナスがあるやつ」というと単三電池を持ってこられることがあるので、きちんと「ネジ回し」、もしくは「ドライバー」という言葉を覚えておく必要がある。先端(tip)には幾つかの形状と大きさがある。人によっては(私のことだが)「ドライバーを貸して下さい」と言われると「どの形状の何番が欲しいのだ?」などと言うことがあるので、形状の他にサイズもきちんと認識している必要がある(こともある)。少なくとも日常的に目にするのはプラスとマイナスについては、きちんと規格を知っていて欲しい。
 ドライバは先端形状だけでなく、全体の形状にも色々なバラエティがある。研究室では、通常のドライバーか精密用途のドライバーを使うことがほとんどだが、それ以外の変な形や特殊用途のドライバの存在を知っていると、一生のうちには、何度かは良かったと思えることがあるかもしれない。

プラスドライバ(Phillips screwdriver)

 先端が十字型になっている普通のドライバーである。プラスというのは日本での呼び名であり、多くの国では通じない。一般には「フィリップス(Phillips)」といえば通じると思う。プラスの先端形状はアメリカ人のHenry F.Phillips 氏の発明品である。Phillips以外の名称として、ドイツの某地方では「クロス」といえば通じるそうだ。実際、ドイツの工具カタログでは    と記述してある場合もある。
 Phillips氏がこの形のドライバーを開発した意図の一つに、当時の非熟練工がネジ締結時に過剰トルクをかけてネジ山や部品を破壊する事故が多かったのを防ぐ目的があったらしい。Phillipsネジでは、トルクが大きくなると、ドライバーとネジの頭(socket)の間がすべって、十字の穴がつぶれて、それ以上のトルクをかけられなくなり、ネジ山をつぶさないようになっている。

 プラスドライバの先端はJIS規格では4種類ある。小さい方から1番、2番、3番、4番である。4番のプラスドライバを目にすることはめったにない。ちなみにJISではプラスドライバではなく十字と称している。JISではドライバーの規格は4種であるが、ドイツ工業規格では00,0,1,2,3の5種類のようである。JISでは小型のドライバーは時計用として別途規格をたてている。

写真:No0から3程度のドライバーの先端

 ネジの項目の表で示したように、ドライバーの番手により、適用できるネジの範囲が定まっている。本来の適用範囲以外のネジにドライバーを使うといろいろな問題が生じる。もっとも、ネジの頭が2番サイズの場合に3番のドライバを使おうとしても入らないので問題は少ない。別のドライバーを捜しに行くことになるだけである。ところが、1番のドライバーはゆるゆるだけれども2番サイズのネジの頭に入ってしまう。ネジが緩い内は、1番のドライバーでも締めることはできる。が、きつくなってくると空回りして、ネジの頭を舐めてしまう可能性が適合するドライバーを用いるより遥かに高くなる。指で回して止まる程度以上に締めなければならないのなら、面倒でも適合するサイズのドライバーを用いなければいけない。(逆に言えば、その程度の締め付けて良い場合には適合するドライバーを捜す手間を惜しんで、適合していないドライバーで作業してしまうこともある。こうした行為は、やっている本人が何をしているか認識しているのなら許容される面も有るのだけれど、注意しないと悪いお手本になっている危険性がある)
 JIS規格以外の小さいものも含めてプラスのドライバについては、とにかく使うネジの頭に適応する全てのサイズをそろえておくべきである。通常は0、1、2、3の4種類を用意しておけばよいだろう。この中で、通常の研究室では2番を使うことが一番多いだろうと思う。それ故に、2番は他のものよりも数を揃えておいて良い。
 プラスドライバを買うときの注意事項は、あまりにも安いセット物のドライバは買わないことぐらいである。安物は先端の硬度が不足しており、すぐに使い物にならなくなったり、先端の工作が悪くてネジの頭を舐めやすかったりすることがある。ドライバーは価格が1本数百円から千円台ていどのものである。実験で使う器具の値段は遙かに高い。それらを支障なく使い続けるための費用としては安価なものである。また、ドライバの先端は使用により摩耗したり変形したりする。先端が変形してくるとネジの締結にも支障を来すようになるので、時々先端をチェックして形状がかわってしまっている場合には買い換えるべきである。

写真:新品とだいぶ使ったドライバー


 通常のプラスドライバと互換性があって、浮き上がりを防止する機構を備えたシステムがアメリカのPhillips-screw社からACR Philips IIとして発表されている。本来はネジの頭の部分にもパターンがついており、ドライバと合わせてのセットではあるが、ドライバのみでも通常のドライバよりはネジの頭を舐めにくいとされている。浮き上がり防止策はPhillips-screw社以外でも研究されており、先端に適当さ大きさの硬質粒子をつけたものが日本のBESSEL社やドイツWERA社から販売されている。スイスPB社の製品も上記の2社よりは細かい滑り止め用に微粒子がついているという。また、日本のANEXやWERA社からは先端に滑り止めの溝を付けたドライバーも販売されている。ただし、ACRにしても滑り止め粒子にしても、それらの工夫があるから絶対にネジの頭を舐めないというものではない。通常のドライバの中にもネジの頭をきっちりと押さえて、十分にトルクがかけられるものがあるし、工夫がしてあるドライバーの中にも、必ずしもネジとの相性がよくないものもある。

写真:いろいろなメーカーのNo2のドライバ

写真:ACRビット、Weraのレーザーカットビット、その他工夫されたもの(とーコマも入れるか)

 自分の使っているドライバが使っているネジに対して相性がよい品かを確かめたかったら、そのドライバにネジの頭を入れてみるとよい。それで遊びがあるようだと、ネジを締めている途中で頭が滑る可能性が高いであろう。きっちりと入る組み合わせの場合には、ネジを手から離しても摩擦でドライバの先端にとどまっている。

写真:磁石はなくてもネジはおちない

 もう一つの確認方法は、実際にネジをしめてネジの頭が潰れる前にネジをねじ切れるか確かめることである。M3程度のネジとナットを用意し、ナットを固定してネジを回す。ドライバとネジの頭がフィットしていると、頭を潰すことなくネジをねじ切ることができる。一度ネジをねじ切ってみると、どの程度の力でネジが完全に駄目になるのか分かるので、実際の作業時の力加減ができるようになると思う。

写真:ネジをねじ切る

 プラスドライバは単純な工具であるが、システム開発時のPhillips氏の工夫故に使い方に難しさがある。油断をしていると、ネジを保護するための機構が働きすぎて、十分に締結されていなくてもネジの頭を舐めて(ドライバーとネジの頭が滑って頭の溝が変形してネジが使えなくなること。ネジの他に、ナットの角がまるまることも舐めるという。)しまうことがある。あるいは、逆に締まっているネジをゆるめようとした時に、ネジが緩まらずにネジの頭を舐めてしまうこともある。特にゆるめるときに頭を舐めてしまうと、ネジははずれなくなり、どうしようもなくなってしまう。プラスドライバを使うのにコツがいる。もっとも、コツといっても単純なものだ。垂直にドライバを立てて、浮き上がらないように必死に押しながら回すのだ。そして、一瞬でも浮き上がってネジの頭をつぶしかけたら、締めている時だったら、そのネジは緩めて捨てて、新しい別のネジを使って締め直す。二度と外す予定がないとか、他に換えのネジがないなら話は別だけれども、それ以外の場合には、後のトラブルを避けるためにも新品に交換すべきである。一方、緩めるときにネジの頭を舐めかけたら…。その時は、頭を舐めかけたときの対応法を試して、それでもだめなら非常手段に訴えるか、そのネジを外す必要などなかった顔をして、そのままにしておくことになる。

マイナスドライバ(flat head or slotted screwdriver)

 マイナスドライバはプラスに比べると形状が単純な、古い歴史をもつネジ回しである。英語ではマイナスではなく「flat head」とか「slotted」と表記されるようだ。もっとも、某アメリカ人によると「フィリップスでない方」という表現で済ませることも多いとのことであり、上記の2つの表現にしても「多分通じると思うよ」というレベルである。カタログによっては、単にドライバーと記してある場合もある。つまり、ドライバーと言えばマイナス型を指すもので、それ以外はフィリップスドライバーのように、先端形状を含めた表記にしているわけだ。これは、マイナスドライバーが、もっとも歴史が古いドライバーであることを反映したものであろう。

 マイナスドライバの先端サイズは幅と厚みで指定されている。現在は、一応はネジのサイズに合わせて溝の幅も定まっているのだけれど、-ネジを使っている装置は古いものが多く、現在とは異なる規格で作られていたりする。このためか、プラスドライバ以上に規格がいい加減であるという印象が強い。対象となるネジの頭より大きなドライバ(特に厚みが)は入らないので使えないが、より小さなドライバは一応は使えてしまうという状況はマイナスドライバについても成立している。

写真:マイナスドライバーの先のサイズ

 プラスドライバでは、ネジ回しを当てればネジの中心にドライバは自動的に当たるようになるが、マイナスドライバの場合には人間が注意していないと、ドライバの中心とネジの中止は一致しない。あまりにはずれた状態で回そうとすると、容易にネジの頭を舐めてしまうことになる。
 通常のマイナスドライバの先端はテーパーが掛かっていて先端ほど薄くなっていく。しかし、スイスVSM 35 601規格のものは段付きで先端が平行になっているし、また、内側に凸な曲線で先端が薄くなり先端部分はほぼ平行になっているような形状のものもある。テーパーがついていれば回す力が加わった時に浮き上がる成分が生じるが平らなら浮き上がる力は生じない。段付きや曲線形状がネジの頭を舐めなくするのに、どのくらい有効なのかの実感はないが精神的には非常に有効そうに思える。VSM規格の形状の先端はPB社、ドイツHazet社、日本のKTC社から商品が出されている。マイナスで浮き上がり防止用に溝を付けたものがAnexとWERAから、硬質微粒子をつけたものが。BESSEL社、WERA社から販売されている。
 マイナスドライバはプラスドライバに比べると出番が少ない、最近の機器はほとんどプラスネジを使っているので、よほど古いものをいじるときなどでないとマイナスの出番はないのである。そして、そういう古い機器のマイナスネジは妙な規格になっていることが多く、どのマイナスドライバを持ってきても完全にフィットしなかったりする。フィットが悪い場合には、作業をなるべく慎重に行うようにする。

写真:マイナスドライバの工夫されたチップ計上(ギザギザ付き、ダイヤ付き、あの形状)

 マイナスドライバーの先端は通常は一旦拡がってから狭くなっている。それに対して、拡がらすに、軸の径のまま細くなっていくものはCabinet Tipと呼ばれる。また、Machine Screwは先端が凹面形状で、刃先が通常のドライバーに比べて短い長さで厚くなるようになっている。

六角レンチ(HexKey)

 断面が正六角形の形状のレンチで、ドライバに比べると頭を潰すことが少なく安心してトルクをかけられる。工具全体の形状には、ドライバ、L字型、T字型、ソケットレンチのコマ、フォールディングタイプなどがある。光学部品を扱うときには必須の工具である。英語では と表記されることが多い。英語では「AllenKey」ということもあるが、これは六角レンチの(かつての)代表的なメーカー名から来ている名称である。

 六角レンチにはミリ規格とインチ規格があり、ミリ規格を用意するのは当然として、アメリカ製の光学部品を用いているときにはインチ規格のものも一式揃えておく必要がある。いくつかある形状の中で、まずはL字型のものを一式揃えるのがよい。その後、必要があればドライバー型のものやT字型、ソケットレンチのコマを揃える。フォールディングタイプは、使い勝手がよくないので購入する必要はない(と個人的には思っている。でも結構売っているところをみると便利な面もあるのかもしれない)。

写真:アレンキー、ドライバータイプ、T字型など

 六角レンチの頭が、多少は斜めからレンチをあてても大丈夫なように球状になっているものがある。英語では と表記されている。L字型の場合にはトルクをかけない長い方の先端が球状になっており、短い方は普通の形状をしている。通常のレンチと比べて球状部の強度は落ちるが、使い勝手ははるかによいので特に理由がなければ片側が球状のL型レンチを購入するとよい。頭が球状でなくても、2mm以下の細い六角は使っていると結構しなるので使用に注意した方がよい。WERAやDenkoには、先端部分のみ細くて本体は一回り太い部材を使って剛性を高めている商品もある。最近、六角レンチの短い方をさらに短くした製品がいくつかのメーカーからスタッビと称して出ている。通常の品よりは高いのだけれど、分光器のグレーティング交換のときなどにあると便利である(一部はばら売りもされているので必要なものだけ買うのでもよい)。

写真:通常のヘッドと、丸形ヘッド。通常のL型とスタビL型

 L字型のセットには、ビニールのケースに入ったもの、リングにスプリングで止めてあるもの、プラスチックのレンチサイズの穴があいた所に挿してあるものがある。これら3つのうちで必ず最後のプラスチックホルダーに挿してあるものがよい。六角レンチは結構なくなりやすい工具である。それを防ぐには、どのレンチが不足しているかが一目で分かるようなシステムが必要である。リングにとめてあるものは全体を見ないと足りないものが分からないしビニールのケースも、違うサイズのレンチが入っていても確認しにくい。その点プラスチックホルダーはサイズが適合していないと、スカスカか入らないかで確実にサイズをチェックできる。プラスチックホルダーもメーカーによって使い勝手の善し悪しがあるので、購入前に実際に手にとって眺めた方がよいかもしれない。

写真;ボンダス社のミリとインチ

 クラス3B以上のレーザーやレーザーを光源とする光学系の調整に用いる六角レンチが金属光沢を持っていると、レンチが光線をまたいだときにレーザー光が思わぬ方向に反射するので望ましくない。光学系の調整用には黒色の品を用意すべきである。

 光学系の調整に限らず、研究室では特定のサイズの六角レンチを使うことが多い。そして、研究室など複数の人間が使う状況下ではよく使われる物ほど無くなりやすい。それ故、セット販売とは別に、単品でも購入できる製品である必要がある。東京近郊の方なら、BONDHUS社の製品は秋葉原に行けば単品がすぐに手に入るし黒色で(金属光沢の品もあるが、黒色のより値段が高い)プラスチックホルダーの作りもよく、ボールヘッドで、ミリもインチも揃っているのでおすすめである。

 六角レンチを使う上で注意することが2つある。1番目はきちんと奥まで差し込んで使うことである。特にネジの頭の六角穴にごみが溜まっていたり、錆が出ていたりすると奥まで差し込めないことがある。そのまま回そうとするとはずれてネジの頭を痛めたり、工具が飛んで他に損傷を与えたりすることがる。
 2番目はミリサイズとインチサイズを間違えないことである。1/8インチは3mmと1/4インチは6mmと間違えやすいミリの六角を差し込んで緩いと感じたらインチを試みるべきである。そのまま使うと滑ってしまって、六角の穴を丸くしてしまうことがある。(1/4インチのキャップスクリューの穴は である。これは mmでそこそこ回すことが出来る。インチとミリの違いを認識した上で応急的に使っているのを見たことがある。)

 なお、ボールヘッドの六角レンチは上述したように、通常の六角レンチより強度が弱いので、過剰な力を加えてはいけない。もし、奥まった場所で六角レンチの短い方が届かないようなネジを強く締めたり、あるいは強くしまっているのをゆるめる必要がある時には、六角のビットと適当なエクステンションを使う方がよいだろう。また、通常以上にきついネジを扱うときには、六角レンチを面接触にしてトルク伝達をよくしたものがWera社により開発され、Hex-Plusという名称でいくつかのメーカーではラインナップされている(最近ではHex-Pulsとは異なった形状の面接触六角を売っているメーカーもある)。

 なお、六角ボルトやトルクスネジは簡単に力が加わるので、油断をしているとネジをねじ切ってしまうことがある。M3以下の細いネジの場合は、特に注意が必要である。

 いじり止めネジ用に、レンチの中心がくぼんだ品もある。ただし、中心が空洞になっている分だけ強度が落ちているので、いじり止め用の六角で通常の六角ボルトを締めるときは、工具(とボルト)を傷めないようにトルクをかけすぎないように注意した方がよいと言われている(いじり止めネジなら、工具の中央の穴にボルトの棒が入るので強度低下が防げる)。

ナットドライバー

頭がボルト状になっているネジを締めるためのドライバーである。後述するレンチ類に比べると、締め付ける力はかけられないが、素早くしめられるので便利かもしれない。とはいえ、研究室でナット類をそんなに数多くしめることは(アングルと組むとき以外は)あまりなく、なくて困らない品である。ソケットレンチの部品のドライバーとソケットの組合せで代用できる。

トルクス(ヘックスローブ)

 アメリカのCamcar Textron社で開発された締結システム。六角形をベースとした形状だが、曲線形状で応力集中を避け、トルクをかけられるようにしてある。マッキントッシュ使いの人には馴染みのある品だと思う。日本国内では2005年夏現在、あまり使われていない(2000年頃に比べると扱い店舗は少しは増えているように思う。ただし、ホームセンターで見ることはまずない。秋葉原で数件件おいてある他、東急ハンズにも少しある。RSコンポーネンツでは比較的バリエーションをそろえて妥当な値段で販売している。これ以外にネット上で見つかるネジ専門店で扱っていると思う)が、欧米ではコンピュータの他、自動車などにも多用されるようになっているようだ。
 T型トルクス工具には、基本的には六角レンチと同じ程度のバリエーションがある。球状のヘッドの商品があるのも同様である。一方のE型トルクスはボルトの頭に相当するので、ナットドライバーやレンチに相当する工具のバリエーションがある。
 2005年現在では、トルクス工具は必要が生じた時点で適合するサイズを購入する程度で、一式を常備するほど国内では普及してない。経験的にはT8以下の小さいサイズが必要になることが多いように思う。ドライバ本体としてではなく、差し替えドライバのチップとして揃えておく方がコストが低くて済むし、また、場所もとらないので良いかもしれない。E型トルクスは自動車などでは使われているのを見ることもあるが、実験室で使われているような機器では見たことはない。当面は、必要が生じた時点で適合するソケットを購入して対応するので十分ではないかと思う。

写真:トルクスの計測用の道具。トルクスはノギスなどでサイズを測っても、半端な数字であることと、計測がやりにくいために、このような道具が用意されている。

 トルクスは登録商標で、名称を使うためにはライセンス契約が必要である。その契約を嫌ってか、トルクス互換の工具をヘックスローブなどという名称で販売しているメーカーもある。これらの工具を用いても、一応はトルクスビスを回すことはできる。

ドライバ類の用途による分類

通常

 ごく普通のプラスチックか木の柄がついたドライバーである。最近では柄の形状や材質に工夫を凝らした製品も多くなっている。とはいえ、研究室レベルではドライバーで回せるようなネジで、大荷重をささえるような用途はまれであり、普通のドライバーで手が滑って困るようなことはまずない。柄にはこだわる必要はない。

長柄

 通常のドライバーにくらべて、遥かに柄が長いものがラインアップされていることがある。普段は使う物ではないが、柄が長いものがどうしても必要になる場合もある。必要な状況が出現することが分かっているのなら、購入しておくと良いだろう。そうじゃなかったら、投げ売りの時に安く出ていたら入手しても良い程度であろう。

差し替え・軸付セット物

 差し替えドライバーは柄から軸が抜けて、軸を逆向きに差し込み直すと別の刃として使えるものである。作りのいい加減な商品も出回っているので、購入にあたっては、きちんとした作りの安心して使える品を選ぶように注意した方がよい。差し替えドライバーの中には、軸の部分だけが別売で、単品で購入できる物がある。

 差し替えドライバーではないが、小さなドライバーとそれを入れる太めの軸がセットになったドライバーもある。この手の品もドライバーの先端の作りが今ひとつであるものがあるし、よく使うドライバーが消耗した時に単品だけ交換できないので、ドライバーを多用する場所での使用はおすすめしない。

精密(時計)

 小型の精密作業用のドライバである。通常のドライバよりも出番が多いかもしれない。全体が小型でも、先端が小型である必然は必ずしもなく、先端が2番のものも存在する。もちろん、普通のドライバより小さな先端の物が揃っており、プラスも0番とか00番、000番などがある。0の数が増えるほど小さくなっていく。マイナスドライバーは先端の幅(と厚み)で規定されている。

 古典的な精密ドライバは金属製の時計ドライバで、刃と逆の末端が回転する構造になっていて、人差し指をここにあてて、親指と中指で軸を回すようにする。(あるいは、人差し指と中指の付け根の間くらいに回転する部分をあてて、親指と中指で回してもよい。)

 最近では、形態に工夫を凝らした精密ドライバーも多く、選択の幅は広がっている。なお、マイナスドライバーに関して言えば、 Bergeon社の製品は、刃先の幅の種類が非常に豊富である。どうしても、ある刃先幅である必要があるときには検討する価値があるだろう。

写真:古典的な時計ドライバー

写真:最近の精密ドライバー

写真:Bergeon社の時計用ドライバー。刃先が0.1mm単位ぐらいで揃っている。先端のチップの換えがついていて、交換可能である。また、自分で研ぎ直すこともできる。

 PB社のラインアップには差し替え精密ドライバーがある。これは、(取り寄せになるだろうけれど)刃先の交換部品も供給されており、結構使える道具である。

スタビ stubby

 柄の短いドライバーで、スペースの限られた場所で有効である。これは、いざという時に大活躍するので、主要な刃先のものを一式持っていて損はない。スタビドライバーは柄が小さく力をかけにくいが、柄がT字になって、気合いをこめて力をかけられるタイプもある。

スタビドライバー。狭い空間などで重宝するので持っていると便利である。スタビドライバーも、普通のドライバーと同様にプラスは1と2は揃えておくべきである。

 

貫通 (?through-going blade)

 柄の部分を金属製のシャフトが貫通しているものである。柄の末端は金属製のキャップになっていて、そこをハンマーでひっぱたくことができる(ひっぱたくと何がよいかと言えば、固着しているネジを振動でゆるめることができる場合がある。)。基本的には重作業用のものであり、大きな機械(自動車等を含む)を扱っていなければ、あまり縁はない。電気作業には、柄の端でも感電する可能性があるので望ましくない。貫通ドライバでは、トルクをかけやすいように、握り手の下の部分の形状が六角になっていてスパナを差し込めるようになっているものもある。

貫通ドライバー。グリップの頭にたたくためのキャップがついているのが見える。このドライバーは軸が6角になるとともに、グリップ直下に太めの6角がついており、ここを用いて回すこともできる。

アタック(インパクト)

どうしても、はずれない。あるいは、はすれないほどきつく締めたい場合に用いる。本体の中にカムがあり、末端をハンマーで叩くと、押しつける力と回す力を同時に与えることができる。先端はビットで交換可能となっているのが普通である。基本的には重作業用であり、研究室で使う必要が生じる場面は滅多にはない。

インパクトドライバー。左側はビットホルダーで、ここに適当なビットをつける。対象とするネジに押しつけて、右側の頭をたたくと先端が1/4回転程度回る。

ラチェット

 ラチェット機構(一方向のみ容易に回転する)を具えたもので、先端はビットホルダーになっている場合が多い。ラチェット機構は、どうしても反対側に回すときにある程度の引っかかりはあるので、ネジが緩い場合には、ラチェットがうまく作動しないこともある。 ラチェットドライバには、通常のドライバ形状のものの他にピストル型グリップのものやL型のものもある。

自動

軸に螺旋状の溝がきってあり、柄を押しつけると先端が回転するものである。多数のネジを連続して扱う時にはよい。どちらかと言えば木ねじを多数締めるなどの時に使われる印象が強い。というわけで研究室での出番は少ない。

自動ドライバー。どちらかというと電動ドライバーにとって代わられており出番は少ない。

オフセット

 クランク型に折れ曲がったドライバーで入り組んだ奥まった場所のネジを扱うときに重宝する。ただし、形状から押す力をかけにく使い勝手はあまりよくない。単体のオフセットドライバーよりはラチェットハンドルとビットを組み合わせる方が使い勝手はいい。

写真:オフセット、1本程度でよい。オフセットラチェットもついでに出しておく

オフセットドライバー。両側で、刃先は同じサイズであるが、角度が異なっている(プラスの方も45度ずれている)。なかなか、力が入りにくい(使い方が分かっていないのかもしれない)。

ビットホルダー

ドライバの先端部分で、ビットホルダーを通してラチェット柄や電動工具と合わせて用いる。ビットの径は1/4インチと5/8インチが主流である。色々な種類のビットをセットにした商品もあり、特殊ネジに関しては、専用のドライバーをそろえるよりはコストが有利である。ビットは消耗品であるので、一流メーカーの品でも高くはない。コンパクトなケースにビットとホルダーを収めた携帯用ドライバセットもある。

※小さなビットホルダーを示す。セットは出さない。

ドリルドライバー

 数多くのネジを締めたりゆるめたりする必要が生じた場合には電動ドライバーの使用を考えてもよい。最近では充電式のドリルドライバーの性能も向上しており、使い勝手はよくなっている。アングルを組み立てる機会が有る程度あるのなから、購入しても悪くないだろう。

検電

柄の部分に抵抗とネオン管が入っていて、AC100Vのアクティブ側をチェックするのに用いる。一応、マイナスの刃先はついているが、ドライバーとしての機能は期待しない方がよいかもしれない。一本工具箱に入っていると何かの時には便利である。最近は電子回路を組み込んで電線の被覆の外からチェックが可能な商品もある。

ネジ押さえつき

奥まった場所などで、ネジを手で押さえておけないような場所のネジを締めなければならないことがある。このようなときには、ドライバーの先にネジが仮固定できると作業性がよい。ネジが鉄製の場合にはドライバー本体を着磁させると、ネジがとまるので作業が楽になる。しかし、ステンレスなど非磁性のネジの場合には磁石の助けを借りることはできない。ネジの数が少ない場合にはセロファンテープ(スコッチテープ)などで仮固定をするのだけれど、あまり格好良いものではない。世の中には、このような時のために、ネジをドライバーの先に押さえつける補助具が付いたドライバーもある。買って持っている必要はないが、あった方がかなり幸せになれる状況に陥ったら買いに行っても悪くはないだろう。

 

頭を舐めかけたとき、舐めたときに

注意深くやっているつもりでも、ネジが回っていないのに、ドライバーの先が浮き上がるように回りかけて焦ることがある。こうなると、ネジの溝(socket)は潰れかけていて、注意して対応しないと、ネジを締めもゆるめもできない状態に陥ることになりかねない。そんな時にどうするかを紹介する。

よりよいドライバーを使う

 ネジにより適合したドライバーを使うと舐めかけたネジを回せることがある。 もし、他の、よさそうなドライバーが付近にあるのなら、違ったドライバーで試してみるのは一つの手である。 実際、あるドライバーで殆ど潰してしまったネジを、別のドライバーで回したところ、うまくはずせたことがある。

 ただし、どのドライバーがよりよいかは、実際に手持ちのドライバーを使った感触で決定するしかない。適合性はネジの頭とドライバーの両方で決まっているので、一般的な回答は存在しない。

摩擦増強剤

 ネジが舐めかけた時、あるいは予防手段としてネジの頭に滴下してネジの頭とドライバー先端間の摩擦を増やす液体がある。金剛砂の水溶液のようなもので、ネジの頭に食い込んで空回りを防止する。能書きによれば、ドライバの先端を痛めることがない。使った感じでは、舐めかけたネジにも効果はあり、通常だったらお手上げ状態が回せることもある。滴下しすぎると、ネジの溝に固体粒子が溜まってドライバーを奥まで差し込めなくなり効果が低下する。

特殊ドライバー

 貫通ドライバーの中に、先端が特殊な形状になっており、舐めかけたネジのあたまにあててお尻をたたくと、ネジの頭に食い込んで新たに溝を切り直せるとされているものがTokomaより(その後類似品がANEXより出ている)出されている。もちろん、通常のドライバーとしても使えるので、工具箱に入っていると安心感はある。場合によっては役に立つであろう。

バイスグリップ(ロッキンググリッププライヤー)

 ネジの頭が潰れた場合でも、丸ネジならネジの頭の外側を掴んで強引に回すという手段がある。回すのは、ペンチでもプライヤーでも、とにかくしっかり押さえられるものなら良いのだけれど、力を入れながら回すのは結構難しいので、挟み込む方は工具に任せた方がよい。具体的にはロック機構のあるプライヤー(詳しくはプライヤーの部分で)を使う。これは、あくまでもネジを緩める場合の話である。

 最近、いくつかのメーカーから、ネジ外し用プライヤーが販売されている。普通のプライヤーとしても使えるので一つは持っていても良いかも知れない。

 ネジプライヤー先端の部分も(正面から見ると)ネジを掴みやすいように凹になっている。他のメーカーからも類似の製品が出ている(どのメーカーがオリジナルかは確認していない)。

ドリルで落とす

 皿ネジの場合には、出っ張りがないので、プライヤーでつまんで強引に回すという手段はとれない。こうなると、残された手段は皿の頭をドリルで落とすしかなくなる。ネジが太い場合には、次に述べるエクストラクターを使えば、ネジを取り外せるはずであるが、研究室で使っているネジはM4以下が大半で、エクストラクタオーを使えない場合が多い。また、ネジが太くても、相手が精密機械の場合はエクストラクターをたたき込むなどということは無理である。
 そんな時は…、ネジ径程度のドリルを使って皿の部分の中心に穴をあける。ネジ部までドリルの先端が到達すると、皿部は脱落して、取りあえず、ネジで固定してあった部品ははずれるようになる。
 その後は…、ネジの頭が落ちればネジ部は力が掛からなくなるので、運が良ければポンチ等で回せることがある。また、ネジより2回り細いドリルでネジの中心に穴をあけて、ネジをくずして除去する方法もあると書籍には記されているが、実際の機器についたネジに手持ちのドリルで正確に穴をあけることは実質不可能だと思う。

エクストラクター

頭のとれた、あるいは完全に舐めたネジを取り外すための工具。指定の太さのドリルでネジに中心に穴をあけたあとに、打ち込む。そして回す。有る程度の強度が必要なので、そこそこ太いネジにしか使えない。このため、研究室で使えることはまずない。

 

ネジを締めるのに使う道具 その2、レンチ・スパナ類

 ボルト・ナットを回すための工具類である。自動車をはじめとする機械いじりには必需品だけれども、研究室内では真空機器のメンテナンスの時ぐらいしか使う機会がない。スパナ(spanner)は英語でレンチ(wrench)は米語のようである。外国工具のカタログを見るとwrenchで表記してあるものの方が多い。

使用頻度の多いサイズ

 ボルトナットの2面幅は上述したようにミリ規格とインチ規格がある。ミリ規格はさらにISOとJIS規格がある。研究室では、二面幅が8(M6)、12(アングル用のつば付M6)、13(M8),17(M10)を揃えておけば大体の用は足りる。インチ規格については、存在する機器に合わせて用意する。

色々なレンチ

ソケットレンチ

 ラチェット機構のあるハンドルを中心に、種々のソケットのコマや拡張棒などで構成されるシステム工具である。集め出すときりがないので、適当なセットを買って済ませるのがよいかもしれない。アメリカで開発されたため、ソケットの差込はインチ規格になっている。小さな方から1/4、3/8、1/2、1、2インチとあるが、研究室で使うのは1/4と3/8程度で、それ以上の物の出番はない。差込のサイズを言うときに何故か差込角という言葉を使う。何で角なのかは私には分からない。
 ソケットのコマはそれぞれの差し込み角に対してトルクに無理がかからない範囲のものが揃っている。1/4に対しては17mmなどという大きなサイズのソケットは用意されていないし、逆に3/8に対して3.5mmという小さなサイズのソケットも用意されていない。バリエーションの中で小さなコマを使うときは力を入れすぎでネジをねじ切らないように注意する必要がある。特にM3程度以下のネジは用意にねじ切れてしまう。一方、大きめのコマの場合はトルク不足から緩みを生じたりすることがあるので、その面の注意が必要である。

 ソケットレンチのコマには六角のものと12角のものがある。12角のものの方がコマをナットやボルトに当てるときにすんなりと収まる。しかし、六角のものの方がかけられるトルクは高い。日常的な使用の範囲では12角のものの方が便利である。六角、12角のいずれも面接触タイプが普通になりつつある。

 ラチェットハンドルは小判型のものと丸形のものがある。小判型の物はラチェットの方向切り替えノブの位置で締める方向になっているか緩める方向になっているかが一目で分かる(ただし、メーカーによって向きが違うので違うメーカーの品を使う時は注意が必要。)のに対し、丸形のものは普通はどちらにセットされているかが見た目では判断できない。一方、丸形の方がラチェットギアの歯がが多い(小判型の2から3倍)ので、ラチェットハンドルを動かすスペースが少ない時の作業性がよい。ギアがなく最小角度制限がないラチェットハンドルもある。

 ソケットレンチはラチェットハンドルとコマが基本セットだが、いろいろな状況に対して利便性を発揮する付属品が揃っている。まず、最低限あった方がよいのが延長棒()で、奥まった部分にあるナットをはずすのに必要である。ユニバーサルジョイント()があると、角度が異なった方向からナットを回すことができる。T字ハンドルやスピードハンドルは早回しに便利だし、ヒンジハンドルは馴れれば早回しと本締めを連続して出来る。スライドバーも一本あるとちょっとしたときに便利である。スライドハンドルにラチェットアダプターを組み合わせると、使える状況に広がりができる。ラチェットハンドル自体も、普通の品の他に小さめのものを用意しておくと、空間のない場所での作業に楽である。また、小判型や丸型でラチェット角が異なっており、使い勝手が違うし、首振りタイプなどのバリエーションもある。

オープンエンドレンチ(スパナ

2面幅に適合するアゴのある普通のスパナである。片側だけに口(くち)アゴのある片口スパナと両側に(多くは異なったサイズの口がある)両口スパナがある。 両口スパナには、両方の口のサイズが同じでスパナの軸に対して異なった角度でついているものがある。まっすぐなスパナでは作業しにくい場所のナットを扱うのに便利である。

写真:片口、両口、オフセット両口スパナ

 スパナは端があいているので、ナットを回すときに、めがねレンチのように一々スパナを上に上げなくても同じ平面内で動かすだけで作業を継続できるので、作業性がよい。しかし、その一方でナットを回すときにナットの2つの頂点部分のみでトルク伝達を行うために力が集中し、めがねレンチに較べてナットの頭を潰しやすい。また、めがねレンチに比べて外れやすい。力を入れている状態で、スパナがボルトから滑って外れると、ボルトの頭を痛めるだけでなく、手が思わぬところにぶつかって怪我をすることがあるので、スパナでボルトを締める時は、特に力がいるようになってからは慎重に行わなければならない。なおSnap-on社の製品にはフランクドライブといって、六角ボルトに接触する部分に独特の溝があって、通常のスパナよりトルクがかけられるタイプがある。

写真:フランクドライブ

 ナットに適合するサイズがなく(ミリ、インチの関係などで)大きめのスパナを使うと頭を潰しやすくなる。本によっては、そのような場合には適当な薄板を挟んで隙間を極力少なくするように書いてある。確かに、応急処置として有効な手法であるかもしれない。しかし、研究室の実験器具の価格を考えると、そんなことをせずに正しいサイズのスパナを買って作業すべきである。

 いくつかのメーカーからは、薄口のスパナが出されている。スタビレー社からは電気用として一連の両口レンチが販売されている。これらは、BNCのコネクターをしめるときなどに威力を発揮する。昔、薄口スパナの存在を知らずに、通常のスパナを削って薄くしたことがあるけれども、その時の労力を考えると、薄口スパナを買う方が遥かに合理的である。

メガネレンチ

オープンエンドレンチと異なり、末端がリング状になったスパナである。リングの中は六角のものと12角の物がある。ネジを締める作業の時には一回し毎に上に上げてナットにはめ直さないといけないので、スパナに較べると作業性は悪いが、ナットのすべての頂点を用いてトルク伝達を行うので安心感がある。また、スパナに較べて斜めがけになりにくいので、その点からも安心感がある。同じサイズのスパナと比べて一般に長さが長く大きなトルクがかけられるようになっている。

下が通常のリングレンチ。上はリングタイプだがリングの中心から軸がずれたタイプで、トルクをかけるより回しにくい部分を回すのに使う。

コンビネーションレンチ

 片側が通常のスパナで、もう一方の端が同じサイズのメガネレンチになっているレンチである。スパナで素早くしめて、レンチを反転してメガネ部分で強く締め上げることができる。現在の標準的なレンチである。このレンチ一式とメガネレンチ一式があれば、たいていの場合は不自由はしない。

写真:どこのでもいいからコンビネーションを1つ。早回しは掲載しない。

 

 スパナの先端形状にはフランクドライブの他にもいろいろな工夫がなされた物がある。スタビレー社にはソフトグリップと称する形状のスパナがあり、奥まできちんと差し込むと、両側だけでなく奥まで使ってトルク伝達が行われるので、より強い力で締められるようになっている。また、ファコム者ではナットの掛け替えがより簡単に行えるような形状になったものがある。

写真・ソフトグリップと早回し

オフセットレンチ

メガネレンチやスパナは素直にはレンチ部分が柄と同一面にあるが、装置のある面に複数のボルトが突き出ていたりすると、レンチと柄が同一面だと柄が他のボルトに当たって作業性が悪くなる。そのような場合に、レンチ部分と柄の部分がずれた構造になっているレンチの方が使い勝手がよい。レンチ部分は普通はメガネになっている。これはスパナ型だと通常の形状より角度が保てずにはずれやすいためであろう。オフセットレンチにはオフセットの角や構造によって、かなりのバリエーションがある。特に揃える必要はないが、実験器具などで、これがあると作業性がよくなるネジがあったら専用のつもりで揃えてよいと思う。

オフセットレンチ。これでは分かりにくいが輪っかの部分は持ち手よりつきだしている。

写真:上面と側面から

通常の意味ではオフセットレンチではないが、S字型とか円弧状とか、軸外しとか、通常とは異なった形状のものもあり、それなりの場所では便利するはずである。

妙な格好のレンチの一つ。使ったことは……ない…………。

フレアナットレンチ

先割れ形状のメガネレンチである。自動車のブレーキパイプの押さえなど管を止めているネジに対してもちいる。通常のスパナでも良さそうな気がするかもしれないが、この手のネジは高トルクが必要なためスパナでは問題が生じることが多く、専用の工具が用意されている。
特殊な工具だから実験室で役に立たないかというと、スウェージロックを使った配管やBNCのコネクタをしめるのに有用なはずである。

フレアナットレンチ。オープンレンチに似ているが、それよりはきっちりとトルクをかけられる。

モンキーレンチ

 可動のアゴがついていてサイズを調整できるスパナである。サイズが調整できるということは、調整が悪いとサイズの適合しないスパナを使用するのと同様なことになりナットを痛めやすくなるので注意が必要である。また、がたがあるモンキーレンチは適合したサイズに調整したつもりでも力を入れると2面幅が狂うので本締めには使わない方がよい。
 モンキーレンチを使う上で注意することは、回す方向に決まりがあるということである。可動するアゴがある方向に回さなければならない。逆方向に回すと可動アゴを上に押し上げながら開く力が働き、長期間の内には可動アゴにがたが生じるようになる。
 モンキーレンチという名前の由来については頭の形状が猿に似ているからという説と、通常のレンチ以下の間に合わせ工具的なセンスでモンキーがついたという説が流布していた。本によっては、モンキーレンチというのは日本に入ってきたときに上記の理由で日本で命名されたローカルな名称であるような記述もあるが、Monkey wrenchという単語は英英辞書にも載っている立派な英語であり、英語の俗称が日本に入ってきたものと考えられる。最近では幅が調整可能なレンチを発明したMoncky氏の名前に由来し、その後Monkeyに変化したとする説が有力であるように思う。ただし、Moncky氏の発明した工具は、現在のモーターレンチに近い形状のものであり、現在のモンキーレンチの直接の先祖はスウェーデンのバーコ社により発明されたものであると信じられている。バーコ社からは現在もモンキーレンチが販売されており、工具のブランドの一つになっている。
 モンキーレンチという言い方は今日の米国では少数であり、工具店でも通じないことが多いようだ。また、米国由来の名称であるので、欧州の工具カタログでも使われていない。欧米の工具カタログを見るとajustable wrenchとかuniversal wrenchといった名称がよく使われている。とはいえ、コロラド出身のアメリカ人に実物を見せたら、crescent(三日月) wrenchと言ったので、地方による方言的な名称もあるのではないかと思う。

 モンキーレンチがあれば、いろいろなサイズのナットに対応できる。とはいえ、モンキーレンチが対応できる最大サイズには、モンキーレンチ毎に制限がある。逆に、巨大なモンキーレンチを使って小さなナットを回すのも効率が悪いし、オーバートルクになりやすいので、適当なサイズのモンキーを2~3種類揃えておくとよい。光学ベンチを使っている研究室では、ベンチの高さ調整用のボルトを回すのに、かなり大きなモンキーレンチを必要とする。通常のモンキーレンチを使おうとすると、15インチクラス(375mm)が必要になるのだけれど、光学ベンチの高さ調整では、ネジを締め付けるわけではないのでトルクは必要なく、長さの短い開口の大きなモンキーを用意した方が楽であろう。

 TOP社やエンジニアブランドのモンキーレンチには薄手のものがあり、BNCコネクタとケーブルを接続する時にコネクタ本体を回らないように押さえるのに便利である。

 

トップ社の薄手のモンキーレンチ。先が曲がっていおり、まっすぐでは使いにくい時にも便利。

※BCNケーブル(非圧着タイプ)の固定とスパナ

頭が潰れたボルトを回す・ナットを外す

研究室では、ボルトの頭やナットが丸くなって回せなくなるようなことはまずない。真空機器に使うネジは通常はステンレス製のものを使うのでさび付いて固着することはない。というわけで

 

トルクレンチ

 締め付けトルクの値を管理するための道具である。アーム型とプリセット型がある。真空装置のバルブなどのトルク管理にはアーム型が便利だが(どの位のトルクで締めているかを連続して見られるので加減をやりやすい。)、多くのナットを同一トルクで締めるにはプリセット型が便利である。

 プリセット型のトルクレンチは、トルク値を設定する機構がある以外は、通常のソケットレンチのハンドルと似ている。しかし、トルクレンチをソケットレンチの代用として使っては絶対にいけない。両者は、形態は似ており代用はできてしまうのだけれども、トルクレンチは計測器具であり、荒い使用によりトルク値が狂うと、本来の機能が果たせなくなる。トルクレンチは大切に保管して、必要な時のみ使用するべきである。また、可能なら定期的にトルクチェックをすることが望ましい。

トルクレンチは高真空機器を扱う時には必須の道具である。

メモ

ICF34 M4*6   直径(ガスケット)14./21.2 3。53 2.33

ICF70 M6*6  37/48.1   8。01 6.16

ICF114 M8*8 64/82.4  10。3 8.0

ICF152 M8*16 102/120.5  7。53  6.375

ICF203 M8*20 153/171.3 8.56 7.65

ICF253 M8*24 204/222.1 9.25 8.5

ICF305 M8*32 256/273.3 8.54 8.0

 

 

はさむ工具類(1) ペンチ・プライヤー類

ペンチ(コンビネーションプライヤー)

 そこら辺に転がっているペンチである。英語では上に書いたようにコンビネーションプライヤーという。なぜコンビネーションかと言えば、挟む機能の他に線を切断する機能が加わっているからである。それ以外の言い方として、サイドカッティング、ラインマン(電気工)プライヤーという言い方も目にすることがある。

 プライヤーという言葉の守備範囲は非常に広く、ニッパも含めて握り物はすべてプライヤーといって通るのではないか思う。では、ペンチという日本語名がどうして発生したかというと謎に包まれている。これらの工具は、最初は輸入機械のメンテナンス用に付属していたらしく、工具単体として輸入されたわけではないために正式名称ではなく、俗称などが流入して、さらに、それがなまったりしたためらしい。ペンチについてはピンチカッターが訛ったものという説があるが、ピンチカッターという英語工具名は見あたらないので疑わしい(紹介している本でも断定を避けている。)。それよりは挟むという意味のpinchが訛ったためではないかと思う。おそらく

八:ジョンさん、この道具はなんだやね。」
ジョン:This is a tool to pinch things.
八:ペンチ?
ジョン:Yes, pinch
八:おー、ペンチ、ペンチ、デスイズペンチ

などという会話を経て、ペンチという日本語名が確定したに違いない(根拠が全くない推測)。もちろん、はさむ物というpincherやpincersがなまったのという可能性も考えられるのだけれど、何れにせよ日本語のペンチの語源は現時点では定かではない。

 ペンチには刃がついているので、針金などを切断することができる。切断に当たっては、それぞれの製品で限界サイズが定められているので、それを守るようにしたい。限界サイズは切断したい線の材質により異なっている。銅やアルミなどの柔らかいものでは太く、鉄などでは、より細くなる。ピアノ線のように焼き入れしてあるものや、ワイヤーロープなどは、それらに対応した表示のあるカッターで切断するようにして汎用品で切断しない方が賢明である。
 太めのものを切断する時は、なるべく軸に近い部分で切断するようにする。また、一度で切断できない場合は切断しようとする線に垂直な面内でペンチをスイングさせるとよい。間違えても面内からはずれるようにペンチをこじってはいけない。ペンチやニッパの刃は圧縮には、そこそこ強いが横からの力には弱く刃こぼれを起こしやすい。

ラジオペンチ

 先端が細長くのびたペンチで、一般に先端部の内側には、ギザギザがあり、そして、ケーブルなどを切断するための刃が付いている。欧米の工具のカタログを見ると、longnose plierという表記されている場合が多い。ただし、longnose plierには機械工用の先長ペンチも含まれる。機械工用のものは、一般に刃がついていない。そして、先端の内側にギザギザがないこともある。従って、lognnose plierと注文を出すと、ラジオペンチが出てこない可能性もあり得る。それ故、ラジオペンチに相当するものを入手したかったら、  などと言ってみる必要があるのではないかと思う。なお、カタログによっては、radio and telephone plier という名称も使われている。

 日本語のラジオペンチの語源には定説がないようである。「ラジオ用のペンチ」が縮まってラジオペンチになったという説もあるけれど、そうだとすると、少なくとも工具商の間ではラジオペンチ以前の名称があったはずなのだけれど、そのような名称があったという話を聞いたことはない。Googleで"radio plier"で検索をかけると、「もしかして: "radio player" 」などと言われながらも、1600件近いヒットがあり、英国ではradio plierという言葉がそれなりに流通していることが分かる。おそらくは、この名称の前半部分と日本語のペンチがくっついて、ラジオペンチという言葉になったのではないかと思う。

プライヤー類

スリップジョイントプライヤー

 日本で普通にプライヤーと呼ばれる工具で、軸のところが2段に調整できて、ある程度の幅の範囲のものを掴むことができる。英語でslipjoint conbination plierと表記されることが多い。コンビネーションという文字が入っているのはアゴの根本のところが剪断型の切断刃になっていて、針金などを切断できるためである。とはいえ、ジョイントに遊びがあるので、なれないと(そして、きちんとした工具でないと)切断は楽ではない。特に細いものの切断は苦手である。スリップジョイントプライヤーは米国系の工具で欧州の工具メーカーではラインナップに入れていない場合もある。ものをつかむのに使うものであるが、次に述べる、ウォーターポンププライヤーの小振りのものの方が使い勝手が良いことが多く、なくても困らない工具であるかもしれない。ただし、ウォーターポンププライヤーには切断機能がないので、針金を多用し時には普通のペンチでは挟めないようなものを挟む場合にはプライヤーの方が便利かもしれない。要するに、スリップジョイントプライヤーは、多機能であるのだけれど、それぞれの機能に関して言えば、より使い勝手のよい工具があるために、自動車の車載工具のように、数が限られている状況では使える工具であるけれど、工具数に制限がない状況では、中途半端な感じがしてしまう工具なのである。

ウォーターポンププライヤー

 ウォーターポンププライヤーは、調整の段数が多く、かなり大きな物までつかめる品である。握り手も長いので、より強い力でものを掴むことができる。非常時の代用品(大きなナットを回す、パイプを回す)も含めて一本あると便利な工具である。アゴの形状や軸の部分の構造には各社工夫があり見ていて楽しい。

 ウォーターポンププライヤーはものを回すことに関して、研究室の最終兵器の一つである。本来なら、スパナやレンチで回すべきナットを、適合する品がなく、モンキースパナでも挟めない場合に、ナットが傷つくことを覚悟の上でウォーターポンププライヤーを持ち出すことがある。もちろん、それ以外の、外れなくなった光学ホルダーの支柱などを抜くときにも出番がやってくる。光学ホルダーの支柱など、傷を付けたくない部品をつかむ場合には、まずはゴムシートを介してはさむといった工夫をしないといけない。そうしないと、支柱に傷が付き、さらにホルダーにスムーズに入らなくなったりする。

 ウォーターポンププライヤーは、ものをはさむことにおいて、ペンチやスリップジョイントプライヤーより操作性がよい。ペンチに比べると、あごを開くことができるので、ものを平行に近い状態ではさめるので、滑りにくい。また、スリップジョイントプライヤーに比べるとあごの開きの調整範囲が遥かに広い。とはいえ、ウォーターポンププライヤーは、一般に大柄で携帯性が低かったのだけれど、最近では小型でもしっかりしたウォーターポンププライヤーが出てきている。 

写真:

ウオーターポンププライヤーは便利な道具だが、挟む物の厚みに合わせて予め軸を合わせなければならない。この点を改善したのが、ロボグリップは柄を握るだけで自動的に軸の設定ができるようになっている。ホームセンターも割とよく見かける工具である。

 

パイププライヤー・ソフトジョープライヤー

 機構的にはウオーターポンププライヤーと類似しているが、丸い管をつかむのに特化したプライヤーもあり、パイププライヤーなどと呼ばれている。

 また、掴むあいてを傷つけないように、アゴの部分にプラスチックが取り付けられたプライヤーも市販されている。プラスチック部分は替え部品としても扱われており、取り替え可能である。通常のスリップジョイントプライヤータイプ・ウオーターポンププライヤータイプ・パイププライヤータイプが市販されている。

ロッキングプライヤー

 バイスグリップとも言う。挟んだ状態をそのまま固定するこができる。使える範囲が多く、工具箱に一つといわずと二つくらいは(サイズや顎の形状を変えて)入れておいてよいと思う。米国ピーターセン社が開祖で代表的なメーカーである。定価で買うと結構高いが、工具専門店では結構安く売っていることがある。ロックの外し方がメーカーにより多少異なっている。

ロッキングプライヤーの一種。割と小振りのものである。右上のネジで締めたときの顎の隙間を調整する。ロックをかけると手を離しても掴んだままとなる。

 ロッキングプライヤーは非常に便利な工具である。ものを回すことにかけて、ウォーターポンププライヤーが研究室の最終兵器と記したけれど、直径が1cm程度以下のものを回す必要に迫られた時にはロッキングプライヤーの方がウォーターポンププライヤーより強力な道具である。一つは、てこの原理を使って締め付けを行うので、対象物を強力に押さえることができる(その結果、深く傷が入る)。次に、押さえた状態でロックされるので、人力は回すことにだけ集中できる。ウォーターポンププライヤーにも、形状が工夫され、回すとロックが強くなるような品もあるけれど、それは、特定の方向に対してでしかない。それに対して、ロッキングプライヤーの場合は、先端でものをはさんでいる場合でも、そのまま固定できるのである。

 ロッキングプライヤーはものの仮留めに使える。例えば、2枚の板を接着する間の固定のロッキングプライヤーを使える。この時には、固定するものに傷を付けないように、適当なクッションをはさむとともに、固定対象を破損しないように、締め付けを調整する必要がある。

 ロッキングプライヤーと同じ機構で、ナットなどを締めるためにギザギザの付いていないヘッドの工具もある。これは、工具本来の目的ではなく上述の仮留めのためには結構便利なものである。

万力類

 

はさむ工具類(2)ピンセット、ピックアップツールなど

液晶セルや試料など、小さく、そして壊れやすいものを扱うための道具も広い意味では、ものをはさむ道具の範疇に入れられるのではないかと思う。ここで、いわゆる工作用の工具ではない机上であつかうようなつまむための道具類を紹介する。

ピンセット

 ピンセットには工業用でさえ様々な形状のものがある。医学用に至っては、それこそ星の数ほどの種類があるのではないかと思う。同じような形状でも、丁寧に作ってあるものから、板を曲げただけのような安直なものまで、商品の幅は広い。使われている材質にしても、ステンレスの他に、特殊鋼、チタン、ジュラルミン、セラミック、プラスチック、竹とバラエティーが多い。

 もちろん、それら全てを揃えることは現実的でも実用的でもないわけで、基本的な何種類かのピンセットを揃えた上で、それぞれの必要に応じて、特殊な形状のピンセットを追加するようにすればよい。

 研究室におけるピンセットの用途を思い出してみると

などである。通常は、

の3種類程度揃っていれば大丈夫である。材質はステンレス(できれば非磁性)のものを選べば問題が生じることは少ないだろう。

 

 

鉗子(あるいはロッキング何とか)

 光学系の誘電多層ミラーの清掃に欠かせないのがロックホルダーである。工業用にはロックホルダー、医生物学系では鉗子と呼ばれている。

 

バキュームピック

 

マグネットピック

 

ピックアップツール

 

切断する工具類

ニッパー類

ニッパー

ごく普通に見られるニッパーである。刃が斜めについているものとまっすぐについているものがある。斜めのものは平面からつきだした線を切るときに便利である。
通常のニッパーは銅やアルミ、軟鉄線用に設計されている。ピアノ線などの硬線を切ろうとすると刃が欠けることがある。メーカーによっては切れる線の種類、太さの上限を示しているものがあるので、それを守るようにすべきである。太い線はなるべく根本に近い方で切断する方が楽である。
ニッパーによっては刃の一部分が円形に切り欠いてあるものがある。これは被覆線の皮むき用だが、剥きたい線に適合するとは限らないものである。また、根本に近い部分の使い勝手が悪くなるので個人的にはお勧めしない。

弱電用ニッパー

液晶セルの電線の切断など、細かい作業用には小型のニッパーの方が作業性がよい。

 

 

強力ニッパー

普通のニッパーよりも幅が広く丈夫な作りになっている。刃先も強くつくってあり、ピアノ線にも対応できる(太さに限度はあるが)。一方、刃先の角度が大きいため、切り口は普通のニッパーより悪くなる。切り口を気にしないなら、切断工具としてニッパーの代わりに強力ニッパーにしておく手はある。通常のニッパーよりは割高である。

強力ニッパー。普通のニッパーにくらべて、刃先の部分の幅が広い。

ケーブル・ワイヤーカッター

ニッパーは2つの刃で押しつぶすように切断を行うので、どうしても切り口が汚くなる。それに対して鋏のように切断すると切り口は綺麗になる。より銅線の切り口をきれいに切りたい場合(特に太めの銅線)にはニッパーよりケーブルカッターの方がよい。ただし、ケーブルカッターはきれいな切り口を実現するために、刃が薄目になっており強度は高くないので、ワイヤーロープのように鉄やステンレスの線を切断しようとすると刃にダメージが生じる。ワイヤーロープの切断には専用のワイヤーカッターを用いなければならない。

ケーブルカッター。薄目の刃できれいな切断面が得られる

ワイヤーカッター。ケーブルカッターに比べて、厚手の刃となっている。

ボルトクリッパー

太めの針金やピアノ線を切断するための切断工具。刃は丈夫につくってあるが、切断面のきれいさは期待しない方がよい。

ボルトクリッパー。梃子の原理で普通のニッパより弱い力での切断が可能。

 

金鋸

金工用糸鋸

ヤスリ(通常)

ヤスリ(精密)

ドリル

センターポンチ

 

 

 

 

 

圧着工具

 圧着端子を押しつけるための工具。

※圧着端子の規格について(通常のだけでよいだろう)

単純に押しつぶすだけのものの他にラチェットがついていて、必用なレベルまで確実に押しつぶせるものもある。圧着されるものの形状に応じて顎の形が定まるので基本的に専用工具である。指定された形状以外のものを使うと圧着が正確に行われないので指定をきっちりと守る必用がある。電源ケーブルに関しては個人レベルでは1.25と2の圧着工具を持っていれば、まず困ることはない。研究室レベルでは3.5とか5(あるいはそれ以上)が時には必用になる。それ以外にネットの10baseTやBNC用のものもある。

圧着工具。上は金属部分がむき出しになった端子用、下はプラスチックのカバーがついた端子用である。この圧着工具はラチェット機構がついており、締め始めると規定の締め量になるまでは緩められない。また、梃子の原理で比較的小さな力で圧着できる。上に、ねじ切りとして示した工具も圧着工具であるがラチェットがないために力が足りないと圧着不足で故障の原因となる。圧着工具はラチェット付きのものがよい。また、電線の規格は国によって違うようで外国製の工具は日本の端子とはかならずしもうまく適合しない場合があるので国産品を使う方がよいだろう。

ワイヤーストリッパー

被覆銅線の被覆のみを切断するための工具。被覆銅線には中が単線のものと撚り線のものがあり、さらに様々な太さがある。それぞれの線に対応したストリッパーがある。より細い線用のストリッパーを使ってしまうと、撚り線を部分的に切断してしまい具合がよくない。一方、より太い線ようのものだと被覆がきれいに剥けない。サイズを自動調整するものもあるので、設定が面倒な場合には、調整機能を有するものを購入すればよい。

ワイヤーストリッパー。上が単線用で、数字は電線の太さ。下は寄り線用で数字は電線の断面積。下のストリッパーは根本に傷が見える。これは…100V電線を通電したまま切断した時に生じたものである(^_^;)。火花がとんで目が覚めた。

 

切る・削る・穴をあける

のこぎり(金・セラミックも)・ニブラー・ヤスリ・硝子切り・ドリルセンターポンチ、けがきるい・ハンマー・ダイスタップ

 

はかる

巻き尺(メジャー)

 光学ベンチのサイズから、光学系の焦点までの位置を、cm程度の精度で測定するのには巻き尺を用いることが多い。焦点までの位置などは金属製の定規でもいいのだけれど、不必要に長い定規を光学台の上で振り回すと、思わぬ事故を起こすことがある。その点、巻き尺は必要な長さだけ出せるので便利である。

 巻き尺の取扱で注意すべきことが一つある。それは、巻き尺を巻き込むときに、そのまま勢いよく終点まで巻き込まないことである。勢いよく終点まで巻き込んでいると、巻き尺の0cmのところについているストッパーの止め部分が痛んで、ある日、巻き込んだ瞬間にストッパーが飛んで、巻き尺はそのまま本体の中に巻き込まれて使えなくなるという悲劇が生じる。それ故、巻き戻すときは、手を添えたりして勢いを殺し、最後は静かにストッパーを口に戻すようにする。

 小型の巻き尺は、尺の腰が弱いために、巻き尺本体を持っただけで、尺を空中に数十センチに渡り水平に延ばすことはできない。それに対して、ある程度以上幅があり、本体もきちんと湾曲している尺は1m以上は水平に延ばすことができる。水平に長く延ばせる尺の方が、何かと作業効率は良い。コンパクトではなくなるが、幅の広い尺を用意しておいた方が、いろいろな面で楽をできる。

ノギス

 ネジや丸棒の外径をはかったり、ナットや穴の内径をはかるのに欠かせない道具である。特に棒の外径などは通常の定規では測りにくいものであり、ノギス無くしては正確な値は出てこない。通常のノギスの最小目盛は副尺付の通常の品で0.05mm程度、デジタルノギスでは0.01mm程度である。

 もはや、有名すぎる話ではあるが、ノギスは日本方言である。米国ではvernier caliper   という。ノギスの名称の由来は、副尺を発明した、  に由来するという。もっとも、副尺は英語ではvernierであり、ノギスという用語は米国では全く通用しない。ある人が、米国留学中に、そこらにあったノギスを借りて、その持ち主から「俺のcaliperを知らないか」と言われて「知らない」と答えた後で、ノギスを使っていることが分かって、嘘つき呼ばわりされたことがあるという。その国におけるものの名称をしらないと、時には人間関係にトラブルを生じることがあるのである。

 通常のノギスは150mm程度の長さがあるけれども、小物をはかることが多い場合には50mm程度のコンパクトなノギスを一つ持っていると便利である。精度の高いものはそれなりの値段がするが、1000円程度の品で充分に実用になると思う。

 ノギスの使い方はWeb上の検索で「ノギス 使い方」とでも入れれば出てくるので、それをご参照頂きたい。

マイクロメータ

 ノギスより1桁程度精密にものの厚さなどを計測できる器具である。精度が高いので、扱いには注意が必要になる。通常のマイクロメータの測定範囲は0~25mm程度で、最小目盛は0.001mm程度(機械式、デジタル式とも)である。

 マイクロメータを使えば基板等の厚さを非常に精密に測定できるのだが、研究室での出番はあまり無い。というのは、液晶セルに関して言えば、1μm単位ではなく、0.1μm単位の厚さを知りたいのでマイクロメータでは精度が不足する。また、有機薄膜の厚みもナノメートルスケールなのでマイクロメータでは対応できない。そして、一方で、それ以外の通常のものの測定精度はノギス程度で十分なのことがほとんどであるために、マイクロメータを持ち出す必然が生じることが少ないのである。というわけで、研究室として一つはあれば十分な工具ではないかと思う。

シクネスゲージ・ピッチゲージ

 シクネスゲージは、厚みの異なった一連の薄板がひとまとまりになった道具で、隙間の厚みを測定するのに用いる。もちろん、隙間の間隔が十分にあれば、ノギスで計測ができるのだけれど、1mmにも満たないような、ノギスを当てにくい隙間などの厚みを測るのに用いるものである。

 シクネスゲージは高真空を扱っている研究室では一組持っていてもよい工具だと思う。金額的にも1000円台なので、普段は使わなくても持っていても損にはならない。真空フランジは、均一に締め付けるのが真空漏れを防ぐコツであり、そのためにトルクレンチを使ってトルク管理をするのだけれど、それでも、均一に閉まらないことがある。そのような時にはシクネスゲージを持ち出して、フランジの間隔が均一になるように閉めていけばよい。締め付けるネジのピッチが分かっているので、それから、ネジの回転角とフランジの隙間間隔の関係は計算できるので、その計算を元に(控えめに)ネジを締め付けて隙間間隔を均等においこんでいく。

 ピッチケージは、いろいろな間隔の三角鋸山のついた板が束になった道具である。これも、高くないものを捜して、一つくらいは持っていると、何かのときに便利である。

水準器

 レーザーなどをのせる光学台は上面が水平になるように設置する。その上にのせるレーザー類も水平になるように調整をして、レーザー光が光学台の上を水平に走るようにする。それ以外の場面でも、ものを水平に設置したいことは多く、その時に役立つのが水準器である。

 水準器には感度がある。通常の品で1~0.5mm/m程度ではないかと思う。それより一桁感度のよいものも存在するが、それなりに高価になる。また、感度が良すぎると、水平の調整が面倒になるので、現実的な線で妥協するのが妥当なところであろう。

 では、どの線が妥当かというと…、たぶん1mm/m程度あれば、それほど困ることはないだろう。レーザー光線は、光学台の上を数mは走ることはあるのだけれど、その過程にはミラーやらレンズがあり、それらにより光線の方向は(上下も含めて)変動する。それに対して1mm/mのずれは、多くの場合は許容であろうと思う。

レーザー水準器

  

はずなのだけれども、それが表示していないこともある。

 

レーザー水準

 

 

 

 

曲尺

ノギス・マイクロ・曲尺・須子や・水準器類・巻き尺・ヘッドルーペ・温度

電気

ストリッパー、圧着・はんだごて、超音波はんだ、第3の手

 

配管工具

チューブカッター・ベンダー・セージロック類

 研究室内では、ちょっとしたガスの配管が必要になることがある。もちろん、使用圧力は高圧ガスに該当しないように9kg/cm2以下には抑えるのは言うまでもない。配管材料としてもっとも手軽なものはなまし銅管(6mmまたは1/4インチ)である。まなし銅管は6mm程度の直径なら、手で安直に曲げてもつぶれることはない。格好良い配管を実現するのは簡単ではないけれども、とりあえずの配管なら非常に簡単にできる。銅管同士の接合や弁の取り付けは、本式にやるには部品をロウ付したりするのだろうけれど、その為には、管の末端加工などが(たぶん)必要になる。また、慣れないと接合の信頼性は低いものになるだろう。そこで、登場するのがスェージロックである。これなら、配管部分は加工する必要なく、信頼できる接合が実現する。

 配管をする前にきちんと決めておかなければならないのは、ミリ系で配管するか、インチ径で配管するかである。配管の接合や弁などは使い回しができるので、規格は統一されていた方がよい。そうでないと、折角の在庫が使えないという間抜けなことが生じることになる。

チューブカッター

なまし銅管の切断には、金鋸や金工用糸鋸を用いても良いのだけれど、チューブカッターを使う方が、素早く、後加工の必要がない切断面が得られる。チューブカッターは円盤状の刃とネジで移動する管押さえローラーのある工具である。切断する管を円板刃とローラーの間にはさむ。そして、カッターのネジを調整して、刃が管に少し食い込む状態で、カッターを回転して管に切り込みをつける。続いてカッターのネジで刃をさらに食い込ませ、再びカッターを回転して切り込みを深くしていく。この作業を繰り返していると最終的に管が切断される。チューブカッターを使う時に、間違えても、最初から力任せにカッターの調節ネジをねじ込まないこと。管が切れずに変形することになる。なお、ステンレスのパイプなど、硬いものを切断するときは、回しにくいこともある。そのような場合は、管を傷つけないように、プライヤー類で管を固定して切断作業を行う。

金鋸で管を切断すると、断面が管に垂直にならないことがある。また、断面に鋸目がついたり、バリが出て、それを処理しないと接合できないことなどがある。しかし、チューブカッターを使えば、切り口は素直に直角だし、バリは出るとしても内側で、それは(チューブカッターに付属していることもある)内側をえぐる工具で簡単に落とすことができる。

チューブカッターも高級なものになるとラチェット機構が付いているものなどあるけれど、6mm程度の銅の配管の場合には、ホームセンターなどで売っている安価なもので十分である。もし、ステンレスの配管を扱う可能性があるのなら、ステンレス用の替え刃を合わせて購入しておくと良いだろう。

チューブベンダー

配管の曲げ部分をきれいに作りたかったら、チューブベンダーを使用するとよい。チューブベンダーは自動車用の工具を扱っている店で、比較的安いものが出ていることがある。もっとも、角がきれいに曲がるようになっても、なまし銅管を使っていると直線部分がきれいにはできないので、全体としてはきれいな配管にはならない。全体を格好良くまとめようとするのなら、ステンレス直管を基本にシステムを作るべきだろう。

スウェージロック

配管の接続にはスウェージロック入手性もよく、また、9kg/cm2程度の圧力から(それ以上の高圧でもOKだと思うけれど、高圧ガス法があるので、それ以上を使うことは普通はやらない)、10-6torr程度の真空までなら、問題なく使える。スウェージロックについての詳細はWebでお調べ頂きたい。