コノスコープ観察


 ベルトラントレンズを入れた状態での観察をコノスコープ観察という。コノスコープ観察時には、対物レンズのNAとマッチするNAのコンデンサレンズを用いて、ケラー照明(もしくはクリティカル照明)にしなければコノスコープ像は観察されない。
 ケラー照明の場合、コンデンサで平行となった光束は試料を平行光線として通過し、対物レンズによって対物レンズの後焦点面に結像する。接眼レンズを抜いて鏡筒を除きこむとコノスコープ像が観察できる。しかし、像は小さくて観察しづらいものである。そこで、ベルトラントレンズを入れて、対物レンズの後焦点面の像を拡大して接眼レンズのマスクの位置に結像する。その像をさらに接眼レンズで拡大して観察する。
 垂直配向ネマチック液晶セルのコノスコープ像をFig. 11に示す。試料の主軸は顕微鏡の光軸に平行になっている。試料に垂直に入射した光は光軸に平行に進行するので屈折率は等方的で複屈折は生じない。この光束は検光子を透過できないので中心部は暗状態となる。光軸方向に生じた暗点をメラトープと呼ぶ。光軸に対して角度をもって入射した光は複屈折により偏光状態が変化する。ただし、光軸と光線の方向が作る面内もしくはそれと垂直な偏光の光は固有偏光であり試料透過後に検光子を通過できない。これは光軸に由来する暗点を中心とした十字線状の暗状態として観察され、アイソジャイアと呼ばれる。



 それ以外の領域では入射角度に依存したリタデーションが生じる。リタデーションの大きさは入射角に依存し角度が大きくなると大きくなる。入射角が同じならリタデーションも等しく干渉色も同じである。同じ干渉色を示す同芯円状の着色線を等色線と呼ぶ。等色線の色配置は干渉色図表の順番で中央部から外周部になるほど大きなリタデーションの色となっていく。コノスコープ像はこの円形パターンと偏光板に平行と垂直な方向に伸びるアイソジャイアの重ね合わせになる。もし、物体の主軸が顕微鏡の光軸から傾けばメラトープもその方向に傾きメラトープの位置を中心とした円形パターンとなる。コノスコープ像を観察すれば液晶の傾き方向を調べることができる。
 コノスコープを適当な干渉フィルターを光源に挿入して単色光で観察すると等色線は明暗の円環となる。画像処理する場合には色の円環より明暗の円環の方が都合がよいので単色光を用いて観察を行なうことも多い。単色光で観察する時に、短波長の光の方が複屈折が同じならリタデーションが大きくなるし、多くの場合は複屈折も分散により大きくなっているので、円環の密度が高くなり測定の精度が良くなる。
 NAのより大きな対物レンズとコンデンサを用いれば、最大の入射角も大きくなり液晶中でより斜め方向に進行する光の偏光状態変化を測定できる。ただし、空気中でNAが大きなシステムを用いても、試料中での角度はスネルの法則より小さくなってしまうので大きなチルト角の試料の光軸の動きを全体的に観察することは容易ではない。作動距離が10mmでホットステージと組合わせて使えるレンズの中でのNAの最大値は 0.5で、その対物レンズを用いると空気面での入射角は30゜であるが、試料中での角度は試料の屈折率が1.5なら20゜弱となる。試料の屈折率が 1.5なら、たとえ、NA=1のレンズを用いても試料中の角度は42゜しかない。これは、強誘電性や反強誘電性を示すスメクチック液晶の傾き角が25゜程度から45゜近くまであることを考えるとあまり幸せではない。実際、スメクチック液晶のコノスコープ観察では電場により液晶を揃えた状態ではメラトープが視野外になることが多い。そのような場合には暗線のパターンからメラトープの方向や屈折率を測定することになる。
 対物レンズのNA値いっぱいまでのコノスコープ像を得たい場合には通常のセルの代わりに半球状(もしくは通常の板ガラス上にレンズをつけて測定部だけは半球状にした)セルを用いればよい。このようなセルを用いると同じレンズを使ってもより高次の干渉まで確認できる。
 コノスコープが満足に観察できない場合には、照明光学系に問題がないかチェックする。特にホットステージと組合わせている場合には、コンデンサレンズの作動距離が足りなくて入射側の実効的なNAが小さくなっている可能性がある。
 コノスコープ観察は、顕微鏡をもちいなくても適当な光学系を作れば可能である。光源はレーザーが扱いやすい。He-NeレーザーでもよいがAr+レーザーの方が短波長なので適している。レーザーからの光を適当な焦点距離のレンズで拡大して(必要なら偏光子を通して)大きなNAのレンズをつかって試料に入射して、透過した光をレーザーの入射偏光と直交するように設置した検光子を通してスクリーン上で観察する。入射用のレンズは、一番手軽には長作動距離の顕微鏡対物レンズを用いる(Fig. 12)。


 レーザー光を対物レンズを通して入射する配置はクリティカル照明に相当するので、集光位置では光強度が強くなり温度の上昇や液晶の劣化をまねく危険性があるので、十分に注意する。一度広げたレーザー光を対物レンズの後焦点面に結像してやればケラー照明配置となるので、中央部での集中は防げる。ただし、この場合は出射側に集光レンズを用いないとケラー照明領域の幅分だけ円環に滲みを生じるはずである。
 コノスコープ像を受けるスクリーンとしては、スリガラスかトレーシングペーパーなどの適当な散乱体を用いる。散乱が強すぎると観察される像が暗くなる。弱いと周辺部の暗さが目立つようになる。経験的に選択するしかない(個人的には4×5吋カメラのピントスクリーンが使えるかもしれないと思っているがためしていない。)。スクリーンの像は写真で記録してもよいし、ビデオカメラで記録してもよい。その後はデジタル化してコンピュータ上で解析すると楽である。
 

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