液晶の顕微鏡観察


液晶は相や配向により様々な文様を見せる。それらを言葉で表現することは不可能である。また、解像度の悪い白黒写真で掲載しても得ることは少ない。なんといっても、自分で顕微鏡を使って液晶セルを観察することが重要である。
 とはいえ、液晶の話をしないのでは表題に偽りありとなる。そこで、本稿では顕微鏡下で目を引く液晶中の配向欠陥について、構造と顕微鏡下の様子を中心に紹介する。

ネマチック液晶のオルソスコープ観察


 適当なネマチック液晶をスライドガラスの上にたらして、その上にカバーグラスをのせて顕微鏡で観察する。すると、Fig. 13のような模様が見られることもある。「こともある」と書いたのは、液晶相の状態でカバーガラスをのせると流動配向のため写真のような模様が得られにくいからである。


 写真では分からないが、ネマチック液晶を顕微鏡で見ると、微小な領域が動めいているように見える。これはネマチック液晶の揺らぎによるものである。スメクチック液晶や等方相では見られない。垂直配向したネマチック液晶はセルに垂直に入射する光に対して等方的となり、偏光顕微鏡下で全視野が一様に暗くなる。その場合でも液晶由来の揺らぎは感じられるし、セルの一端をピンセットなどで押してやれば、配向変化が生じて色がつくので、等方的な液体ではなく垂直配向したネマチック液晶であることが分かる。
 Fig. 13には、明るい領域と暗い領域がある。明るい領域では配向ベクトルは偏光子や検光子に平行でも垂直でもない(ここでは厚さ方向に配向分布はないとしている)。暗い領域では配向ベクトルは偏光子に垂直か平行になっている。暗い領域(ブラシ)がすぼまって、1つの点で交わる部分がある。この点が転傾と呼ばれる欠陥である。写真には2つの領域が集まる点と、4つの領域が集まる点がある。両者では転傾強度が異なっている。
 転傾の周囲の配向ベクトルの様子をFig. 14に示した。これらは +2π転傾(左)、+π転傾(右)と呼ばれる欠陥である。+2π転傾は1点から放射状に分子の配向ベクトルが広がっている。いま、図の上の位置から時計回りに配向ベクトルの方向変化を調べてみると、配向ベクトルは、時計回りに回った角度と同じだけ回転しており、中心点回りを1周する間に配向ベクトルも2πラジアンだけ回転する。それ故この転傾は+2π転傾と呼ばれている。 +π転傾では中心点の回りを1周する間に配向ベクトルはπラジアン回転する。
 偏光子の光軸が紙面の水平方向に、検光子の光軸 が上下方向にあるとすると、+2π転傾では、配向ベクトルの方向が中央部から縦と横方向で偏光子に垂直/水平になる。その結果、中央部は4本の暗い領域が交わる点となる。 +π転傾は、偏光子に垂直/水平なのは上下にのびる領域のみで、2つの暗い領域が転傾で交わることになる。偏光顕微鏡下で、点にあつまる暗い領域の数を数えれば欠陥の強度が分かる。


 転傾は回転運動に関連する欠陥である。ある系に存在できる転傾の強度は系の対称性に依存する。ネマチック液晶では配向ベクトルに関してn=-nという関係が成立する(2回の回転対称性がある)ので、π(180゜)の整数倍の回転を含む転傾が存在する。先ほどの2つも含めて、いろいろな転傾点回りの配向ベクトルを示した(Fig. 15)。ここで、±の符号は、転傾点の周囲を回る時に配向ベクトルも同じ方向に変化するか(+)、逆方法に回転するか(-)で決定されている。



 偏光顕微鏡のステージを回転したときの転傾点の近傍のブラシの動きを観察すれば転傾の符号が決定できる(Fig. 16)。偏光顕微鏡のステージを時計回りに回転させると -π転傾では同一方向に暗い領域が回転する。ステージを30度回転すれば、暗い領域は90゜回転し、さらに30度回転して合計60度回転すれば、最初の状態から180度回転する。-π転傾の場合にはステージを1回転する間に暗い領域が3回転する。それに対して、 +π転傾ではステージの回転方向と反対方向に暗い領域は回転する。回転速度はステージの回転速度と等しく、ステージを半回転すれば暗い領域も半回転する。より一般的に、転傾の強度とステージを1回転したときに暗い領域が何回転するかは、暗い領域がステージと同方向に回る場合をプラスとして、
 回転数=(転傾強度-2π)/転傾強度 …(11)
となる。2π転傾では暗い領域はステージを回転しても動かず、また、-2π転傾では暗い領域はステージと同方向に2回転する。実際の液晶セルで0゜から180゜まで30゜刻みでセルを回転させた時の±2π欠陥の様子を写真(jpg;68KB))に示す。



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