液晶観察のための顕微鏡

 多くの液晶分子は可視領域に吸収をもたない。液晶セル中を光が透過しても、配向分布により光の位相は空間分布を持つが光強度には空間分布が生じない。普通の顕微鏡は位相変化を可視化できないので、それを用いて液晶セルを観察しても多くは望めない。液晶観察には位相変化を可視化できる顕微鏡が必要である。その種の顕微鏡として干渉顕微鏡・位相差顕微鏡、偏光顕微鏡がある。
 顕微鏡は主に生物分野の研究のために発展した。観察対象は水溶液中の屈折率が水と同程度の淡色の物体であり、これらにコントラストをつけて可視化するために染色や干渉法・位相差法が発達した。干渉法や位相差法は比較的小さな位相の変化を捕らえるのに適している。一方、液晶試料は一般に大きな複屈折を持ち、セル中での位相差分布はかなり大きい。このため干渉顕微鏡や位相差顕微鏡よりも偏光顕微鏡がもっぱら用いられている。しかし、フリースタンディング膜のように複屈折が非常に小さい場合には、干渉顕微鏡や位相差顕微鏡を用いることは考慮に値する。
 偏光顕微鏡は通常の顕微鏡の光学系に偏光子(光源側)と検光子(観察側)が加わったものである。偏光子を作るのに必要な偏光素子は1828(9?)年にニコルにより発明された。その素子を用いた偏光顕微鏡の発明については1834年にタルボットによるという説と1845年ごろにソーベイによるという説がある。ニコルの発明した偏光素子は方解石の偏光プリズム(ニコルプリズム)であった。現在の偏光顕微鏡ではほとんどの機種では偏光フィルムを偏光素子として用いている。しかし、最初に偏光顕微鏡に用いられていた偏光素子の影響は未だに残っていて、偏光子と検光子を直交させた状態を「クロスニコル(直交ニコル)」(正確にはcrossed nicols)と呼ぶ。  クロスニコルにした偏光顕微鏡で液晶セルを観察すると、配向ベクトルの方向が偏光子と垂直/平行な領域では入射直線偏光は透過後も偏光状態に変化がなく、光は検光子で吸収されてしまい暗視野となる。それに対して垂直/平行からずれている領域では入射直線偏光の偏光状態が変わるために透過成分が出現して明るく見えるようになる。偏光顕微鏡は液晶の配向方向を可視化できる。
 偏光顕微鏡であれば、単眼のコンパクトなものであれ、双眼の見るからに高価なものであれ、液晶を観察する上で問題になるような性能の差はない。双眼顕微鏡のメリットは光源が内蔵されており安直に使用できることと、見た目がかっこ良く高級なことをやっているという気持ちになれることぐらいである。一方、単眼の顕微鏡は自由度が大きく、ちょっとした悪戯を試みる時に役にたつ。いずれの顕微鏡を使うにせよ、顕微鏡の原理を知らないことには性能をきちんと引き出すことはできない。そのためには、顕微鏡を含めた光学系についての最低限の知識が必要となる。

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