有機サイリスタの開発
有機伝導体を使った新しいタイプのデバイスの開発に成功

An organic thyristor
F. Sawano, I. Terasaki, H. Mori, T. Mori, M. Watanabe, N. Ikeda, Y. Nogami and Y. Noda
Nature, 437, 522 (2005). September 22

 

  
伝導性の有機材料としては、ディスプレーとして実用化されている有機ELや、有機FETの研究が活発に行なわれているが、我々はこれらとはまったく異なった原理で動作する有機サイリスタを開発した。これは有機電荷移動錯体θ-(BEDT-TTF)2CsCo(SCN)4の巨大非線形伝導を利用したもので、この物質はある程度以上の電圧をかけると、電気抵抗が3桁近く小さくなる。そこでこの物質と直列に抵抗をつないで直流電圧をかけたところ、交流の発振が見られた。これはインバーター(直流・交流変換機)として利用されているサイリスタ−と同じ動作である。通常のサイリスタ−はPN接合からできているが、この有機サイリスタでは、有機伝導体に2つの端子を付けただけのものがデバイスとして動作するのが特徴であり、バルクの有機伝導体を使った新しいタイプのデバイスである。このような巨大非線形伝導は、伝導体の中にできた分子レベルの電荷の濃淡(電荷整列)のパターンが不均一に混ざりあっていることから生ずると考えられており、実際、電場をかけながらX線回折を測定することによって、電荷整列に由来する回折が消滅することも確認された。以上の発見は新しい有機デバイスの可能性を拓くものであるのと同時に、強相関系の物理や本質的不均一に起因する非平衡系の基礎的な物理の研究対象としても興味深い。
なお本研究は、寺崎一郎、澤野文章(早稲田大学)、森初果(東京大学物性研)、渡辺真史、野田幸夫(東北大学多元研)、野上由夫(岡山大学)の各氏との共同研究です。