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Tokyo Institute of Technology

OTSUKA LABORATORY

研究内容RESEARCH

 動的共有結合ポリマーに関する研究


最近の総説:
Reorganization of Polymer Structures Based on Dynamic Covalent Chemistry: Polymer Reactions by Dynamic Covalent Exchanges of Alkoxyamine Units [Free Access]
H. OTSUKA, Polym. J., 45, 879-891 (2013).

[1] 研究内容とこれまでの成果

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 共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる結合を利用する化学システムは、最近「動的共有結合化学(Dynamic Covalent Chemistry)」として注目を集めています。このような平衡系の共有結合に基づく分子構造体は、熱力学的に安定な構造を有しますが、特定の外部刺激(温度、触媒、光、化学種添加など)によってその構造が変化するとういう特徴をもちます1)。平衡系の共有結合を含むユニットを高分子骨格中に導入することができれば、非共有結合を利用した超分子ポリマー(Supramolecular Polymers) 2)と同様に、合成後にも高分子構造の再編成を自由に行うことができ、さらには超分子系では困難な安定性や反応性の制御も期待されます。
 動的共有結合を基盤とする高分子反応系は、平衡系に基づく精密構造変換、環境応答性スマートマテリアル、高分子のナノ複合化、自己修復性材料、リサイクル性高分子など、多くの発展的な潜在性を有します。筆者のグループでは、様々な動的共有結合を持つ高分子、すなわち動的共有結合ポリマー(Dynamic Covalent Polymers)の構造再編成に着目し、研究を精力的に展開してきました(図1)3)。ここでは、動的共有結合に基づく高分子反応による特殊ポリマーデザインと高分子の主鎖組み換えによる複合化に焦点を絞り、筆者らの最近の成果を説明します。


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  1-1 動的共有結合としてのアルコキシアミン


 安定ラジカルとして知られる2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)由来のアルコキシアミン誘導体は、加熱により中央のC-O結合がラジカル的に解離し、モノマーの挿入反応が進行することが知られており、リビングラジカル重合の代表的な開始骨格として多くの研究に用いられてきました4)。モノマーが存在しない環境であれば、アルコキシアミンは可逆的な解離-付加に起因する交換反応の進行が期待されます。このような作業仮説に基づいて、実際にアルコキシアミン誘導体を用いてモデル交換反応実験を行った結果、加熱時にラジカル的な交換反応が進行することを見いだしました。図2に示すように、異なる置換基を有する二種類のアルコキシアミン誘導体をアニソール溶液中で等モル混合して加熱した結果、交換反応由来の化合物の生成が確認され、最終的には異なる置換基を有する四種類の等モル混合物が得られました。この反応系はラジカル反応ですが、副生成物を生成せずに、平衡系の生成物を与えるクリーンな反応であることが明らかになりました5)


  1-2 高分子への動的共有結合の導入

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 アルコキシアミン骨格の可逆的な解離-付加反応はラジカル機構により進行するため、種々の機能性官能基に対して許容性を示します。そこで、ジオール体4を出発原料の一つとして用い、重縮合反応および重付加反応を行うことで、主鎖にアルコキシアミン骨格を有するポリエステルおよびポリウレタン(数平均分子量は数千から十万程度まで)の合成を行いました。得られたポリマーは、いずれも白色粉末であり、溶媒蒸発法により無色透明なフィルムへと加工することもできました。生成ポリマーは、室温で取り扱う限り、主鎖のアルコキシアミン骨格は通常の共有結合と同様であり、何の変哲もないポリエステル、ポリウレタンの一種であると言えます。従って、一般的なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定により平均分子量や分子量分布を見積もることができます。
 一方、これらの高分子を加熱すると極めて興味深い反応挙動が観測されました。分取型の高速液体クロマトグラフィーにより分画したポリエステル5a(Mn = 21900, Mw/Mn = 1.12)のアニソール溶液を脱気下で加熱しますと、図3に示すように反応時間の進行に伴い分子量分布が2.0程度まで増加し、6時間程度で平衡に達する現象が確認されました。これは、高分子主鎖間で組み換え反応が進行して見かけ上は平衡に達し、分子量分布が最確分布に従ったためと考えられます6)。一方で、数平均分子量はわずかに低下しただけで、ピークトップの位置はほとんど変化しませんでした。
 さらに、分子量の異なるポリエステルを混合し加熱を行うと、加熱前には二峰性を示したSEC曲線が加熱後には単峰性へと変化しました。種々の分子量の組み合わせでも同様な現象が確認され、最終的な分子量分布は1.6-2.0程度に落ち着きました。このことは、分子量の大きな高分子と、分子量の小さな高分子との間で主鎖の交換反応が起き、分子量が平均化したことを意味します。このように、主鎖型の動的共有結合ポリマーは、高分子量と低分子量のポリマーを「調合」することで、分子量の制御を行うことが可能です6)


     

  1-3 動的共有結合の組み換えに基づく高分子の複合化

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 アルコキシアミン骨格を有する異種高分子(ポリエステル5b: Mn = 93000, Mw/Mn = 1.25とポリウレタン6: Mn = 5800, Mw/Mn = 1.10)間での複合化反応について検討を行いました。図4に示すように、アルコキシアミンの交換反応に由来する主鎖交換反応が速やかに進行し、反応後のポリマーは単峰性のSEC曲線(7: Mn = 17000, Mw/Mn = 1.93)を示しました。複合化の過程をさらに詳細に検討しました結果、最終的には全分子量領域でエステルユニットとウレタンユニットの割合が仕込み比と完全に等しくなることが明らかとなりました7)
 このような動的共有結合の組み換えに基づく複合化は、ラジカル反応以外にも適用可能です8)。例えば、オレフィンクロスメタセシス反応は、ある種の触媒により炭素-炭素二重結合を、新たな炭素-炭素二重結合へと組み換える反応です。すなわち、共有結合でありながら可逆的な解離と結合を繰り返す典型的な動的共有結合です。特に、Grubbs触媒を用いるクロスメタセシス反応は、ラジカル反応と同様に多くの官能基に対して高い許容性を示すことから、様々な高分子へと展開できる潜在性を有します9)。実際に、ポリブタジエンと主鎖に二重結合を有するポリエステルの主鎖組み換え反応について検討しました結果、Grubbs触媒を用いることで、室温において高分子の複合化が容易に進行することを明らかにしました。また、この反応系では連鎖重合系ポリマー(ポリブタジエン)と逐次重合系ポリマー(ポリエステル)の自由な複合化を実現しており、結晶性のポリエステルとアモルファスなポリブタジエンの主鎖組み換え反応が進行するのに伴って、ポリエステルの結晶性が徐々に低下し、最終的には結晶性を示さなくなることが確認されました10)。すなわち、ホモポリマーの混合物から出発して、反応条件を変えることでマルチブロック共重合体やランダム共重合体を作り分けることも可能であることが明らかとなりました(図5)。
 こうして得られた高分子は、動的共有結合の組み換えにより、連鎖重合系ポリマーと逐次重合系ポリマーが複合化された共重合体であり、混合比や主鎖の交換率を変えることでコンビナトリアル的な複合化が可能な新しい高分子合成法とも言えます。最近になり、光反応による主鎖組み換え反応も可能であることを明らかにしました11)、本手法の可能性は益々広がりつつあります。


 

  1-4 動的共有結合を利用する高分子反応による特殊構造ポリマーの精密合成

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 筆者のグループでは、主鎖の組み換え反応以外にも、アルコキシアミンの交換反応を利用して、直鎖状ポリマーと櫛形ポリマーの変換12)、直鎖状ポリマーと架橋ポリマーの変換13-15)、大環状化合物と環状ポリマーの変換16) 、直鎖状ポリマーと星型ポリマーの変換17-21)、無機基板上に固定化したポリマーブラシの官能基変換22,23)、架橋ポリマーの網目サイズ変換24)など、様々な特殊構造ポリマーの精密合成や精密構造変換を達成しています。
 代表的な例をあげますと、相補的な反応性を有する二種類のアルコキシアミンを側鎖に導入したジブロック共重合体を合成し、ラジカル交換反応を利用した直鎖状ポリマーから星型ポリマーへの変換を行いました。得られたポリマーはSEC-多角度光散乱 (MALS)測定、走査プローブ顕微鏡(SPM)観察などの結果から、出発原料を反映したポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)のアームとアルコキシアミンが架橋したコアからなる星型構造を有していることが確認されました(図6)18)


     

  1-5 自発的に組み変わる動的共有結合を利用する自己修復性高分子ゲルの開発

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 筆者循環型社会を指向した環境にやさしい材料、とりわけ高分子材料の開発に関しては、様々なアプローチから検討が行われています。上述したように、筆者のグループではこれまでに様々な分子骨格を有する可逆的な共有結合を高分子に導入し、構造再編成挙動に関する研究を精力的に展開してきました。ここでは、自発的に組み換え可能な動的共有結合を利用する自己修復性高分子材料について説明します25)。   新たな動的共有結合ユニットとして、アリールベンゾフラノン誘導体の二量化により生成するジアリールビベンゾフラノン(DABBF)骨格を、架橋高分子骨格中に導入することを検討しました(図7)。DABBF骨格は穏和な条件でもラジカル解離を起こすため、自発的に組み換え可能なユニットとして機能します。DABBF骨格を有する架橋高分子を合成するために、4つの水酸基を有するDABBF誘導体とイソシアネート末端を有するポリプロピレングリコール(Mn =2400)との重付加反応をスズ触媒存在下、1,4-ジオキサン中で行いました。反応の経過に伴い反応系の流動性が減少し、48時間後には完全なゲル化が観測されました。
 得られた架橋高分子の自己修復挙動を観察するために、有機溶媒で膨潤した架橋高分子由来の化学ゲルを二片に切断後、熱や力を加えることなく、切断面どうしを合わせて室温、暗所にて静置した。自己修復挙動を引張試験により評価した結果、接触から数時間かけて徐々に修復し、接触させてから24時間後には元の力学物性の95 %以上という高い回復率を示しました。また、同様の自己修復性は、通常の共有結合で架橋された参照ゲルでは発現されなかったため、DABBFの組み換え反応に基づくものと考えられます(図8)。基礎的な結果ではあるものの、自己修復性高分子材料の新たな設計指針を与えることができたものと考えています。

[2] 学問的な位置付け


 以上のように、簡単な外部刺激により構造再編成を可能とする動的共有結合は、高分子反応において極めて有用な分子骨格です。本研究で取り上げた反応は、いずれも非イオン的な反応に基づき官能基許容性が高いという特徴を有しており、通常の合成法ではアクセスすることが困難な高分子を精密合成する新しい手法と位置づけることもできます。動的共有結合を様々な形式で高分子骨格に組み込むことで、精密な高分子反応に基づく分子量制御や特殊構造ポリマー生成法、あるいは主鎖型の動的共有結合ポリマーを調合しナノレベルで複合化できる新しいアプローチを示すことができました。特にメタセシス反応系においては、連鎖重合系高分子と逐次重合系高分子を分子レベルでブロック性を制御して複合化できる手法を見いだし、高分子反応を利用した機能性高分子の合成法として大きな優位性を示すことができました。可逆的な解離-結合を実現できる結合である「動的共有結合」を高分子骨格中に実際に導入することで、非共有結合を利用した超分子ポリマーと同様に、合成後に高分子構造の自由に再編成できることを複数の高分子反応系で実験的に証明しました。さらに、水素結合のような非共有結合系とは異なり、外部刺激がない状態では通常の共有結合として機能することを利用して、星型ポリマーの分子イメージングによるキャラクタリゼーションも可能であることを示しました。
 実用材料への応用の潜在性を有している系もありますが、それ以上に学術的な価値は高いと考えています。動的共有結合に基づくこのような反応性高分子に関して、筆者のグループの研究を中心に総説にまとめ、その学術的な重要性を国内外に発信しています【Prog. Polym. Sci., 2009, 高分子2011】3)


     

[3] 現在取り組んでいる課題と今後の展望


 これまで示したような高分子反応系は、重合反応後にもポリマーの自由な分子構造変換が可能であることから、ナノ複合化、環境応答性スマートマテリアル、リサイクル性ポリマー、自己修復材料など、多くの発展的な潜在性を有します。今後は特に、自己修復材料を指向して、刺激不要の条件下で自発的に駆動する動的共有結合化学に基づく高分子反応系の確立を目指し研究をさらに展開する計画です。また、今回示した高分子反応系をバルク状態で行うことも材料化学的な視点からは重要かつ挑戦的な課題であり、精力的に取り組んでいます。動的共有結合に基づく高分子反応は官能基許容性に由来する汎用性、および環境志向性の両面から、さらに重要な位置づけになると確信しています。

補足 ここに示した研究成果は高原 淳 教授をはじめとする多くの研究者や学生の皆様との共同研究によるものであることを申し添えます。

     

<参考文献>

 1) S. J. Rowan, S. J. Cantrill, G. R. L. Cousin, J. K. M. Sanders, J. F. Stoddart, Angew. Chem., Int. Ed. 2002,
  41, 898.
 2) L. Brunsveld, B. J. B. Folmer, E. W. Meijer, R. P. Sijbesma, Chem. Rev. 2001, 101, 4071.
 3) (a) T. Maeda, H. Otsuka, A. Takahara, Prog. Polym. Sci. 2009, 34, 581; (b)天本義史、大塚英幸, 高分子,
  2011, 60, 324.
 4) C. J. Hawker, A. W. Bosman E. Harth, Chem. Rev. 2001, 101, 3661.
 5) H. Otsuka, K. Aotani, Y. Higaki, A. Takahara, Chem. Commun. 2002, 2838.
 6) H. Otsuka, K. Aotani, Y. Higaki, Y. Amamoto, A. Takahara, Macromolecules 2007, 40, 1427.
 7) H. Otsuka, K. Aotani, Y. Higaki, A. Takahara, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 4064.
 8) T. Ono, S. Fujii, T. Nobori, J.-M. Lehn, Chem. Commun. 2007, 46, 1150.
 9) T. M. Trnka, R. H. Grubbs, Acc. Chem. Res. 2001, 34, 18.
10) H. Otsuka, T. Muta, M. Sakada, T. Maeda, A. Takahara, Chem. Commun. 2009, 1073.
11) H. Otsuka, S. Nagano, Y. Kobashi, T. Maeda, A. Takahara, Chem. Commun. 2010, 46, 1150.
12) Y. Higaki, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules 2004, 37, 1696.
13) Y. Higaki, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules 2006, 39, 2121.
14) Y. Amamoto, M. Kikuchi, H. Masunaga, S. Sasaki, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules 2009, 42,
  8733.
15) S. Jing, Y. Amamoto, M. Nishihara, A. Takahara, H. Otsuka, Polym. Chem, 2011, 2, 2021.
16) G. Yamaguchi, Y. Higaki, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules 2005, 38, 6316.
17) Y. Amamoto, Y. Higaki, Y. Matsuda, H. Otsuka, A. Takahara, Chem. Lett. 2006, 35, 1098.
18) Y. Amamoto, Y. Higaki, Y. Matsuda, H. Otsuka, A. Takahara, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 13298.
19) Y. Amamoto, T. Maeda, M. Kikuchi, H. Otsuka, A. Takahara, Chem. Commun. 2009, 689.
20) Y. Amamoto, M. Kikuchi, H. Masunaga, S. Sasaki, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules 2010, 43,
  1785.
21) Y. Amamoto, M. Kikuchi, H. Otsuka, A. Takahara, Macromolecules, 2010, 43, 5470.
22) T. Sato, Y. Amamoto, H. Yamaguchi, H. Otsuka, A. Takahara, Chem. Lett., 2010, 39, 1209.
23) T. Sato, Y. Amamoto, H. Yamaguchi, T. Ohishi, A. Takahara, H. Otsuka, Polym. Chem., in press.
24) Y. Amamoto, M. Kikuchi, H. Masunaga, H. Ogawa, S. Sasaki, H. Otsuka, A. Takahara, Polym. Chem.,
  2011
, 2, 957.

25) T. Imato, M. Nishihara, T. Kanehara, Y. Amamoto, A. Takahara, H. Otsuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2012
  
, 51, 1138. [Highlighted in Chemistry World and Nature Chemistry]

     

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