イギリスのエキセントリック科学者の雄:ヘンリー・キャベンディッシュの生涯(1731.10.10-1810.2.24)
岐阜聖徳学園大学科学史資料から転載させていただきました。

■時代背景

1753年 大英博物館の設立
1764年 アメリカ植民地に対するイギリス本国の圧迫始まる。
1765年 ワット、蒸気機関の改良
1760-1820年 ジョージ3世の在位の間にイギリス産業革命が進行し初める。
1776年 アメリカ独立宣言
1785年 クーロンの法則
1789年 フランス革命勃発

■年譜

1731年 病弱であった母の保養先のフランス、ニースで生まれた。両親は、英国名門貴族。父は、王立協会会員で、気象の観測機器の考案、電気学の研究。
1733年 母死去
1742年 ニューカム博士の学校へ入学(1749年卒業)
1749年 ケンブリッジ大学に入学
1753年 学士号も受けずに、退学。父の影響もあり、物理に興味。父の家の一部に実験室を設けて研究。
1760年 王立協会会員
1783年 父死去。父の莫大な遺産を相続。以後、生涯結婚せずに研究。キャベンディシュは、無口で見知らぬ人がそばにいると不安になる性格で、女性嫌いでもあった。「キャベンディシュは決して女性の使用人と顔を会わせることはなかった。ところが、たまたま運悪く、一人の女性が彼の前に姿を見せてしまったため、キャベンディシュは彼女を即刻やめさせてしまった」 1810年 死去。額面115万ポンドの公債を遺す(当時のイギリスの最大の公債保持者)。毎年8000ポンドの収入(当時、年収5000ポンド以上の上流階級は3000人にすぎない。イギリスの全人口は約1700万人)。その他銀行などに個人財産。

■業績

 研究成果の一部を、18編の論文にして発表。
1766年 水素の発見(亜鉛、鉄などの金属を酸に溶かすと可燃性の気体が発生したと報告。ただし、これが水素であると確認したのはラボアジエ)
1784年 酸素と水素の化合で、水の合成
1798年 地球の密度を測定する実験(この実験がいわゆる万有引力定数=重力定数の値の測定だが、論文にはこの定数については論じられていない。これは、当時の科学者には普遍定数を測定する意識はなかったからで、キャベンディシュの実験結果から後生の人が重力定数を計算で求めることは可能)
 「軽い棒を中心から針金で吊るし、棒の両端に2個の軽い鉛の球を取付けた。棒を針金の周りに自由に回転できるようにし、球にほんのわずかな力が働いても針金のねじれが測定できるようにした。次に、棒に取付けた軽い球に大きい球を近付け、両者の間に働く引力で棒を回転させ、針金がねじれるようにした。そして、ねじれの程度から地球の質量は6.6×1020トンで、密度は水の5.5倍であることがわかった。」

 キャベンディシュの死後、未発表論文が遺された。英国科学振興協会会長のハーコートがその一部を発表(1839年)
1777〜79年 蒸気圧の測定(ドルトンが1805年に発表)
1779〜80年 気体の熱膨張率(ゲイ=リュサックの法則1801年)

 また、1870年ケンブリッジ大学に実験物理学の研究所が新設され(キャベンディシュ研究所)初代所長のマクスウェルがキャベンディシュの遺稿20束の包みを調べ、原稿を整理し、実験を再現した上で、1879年「キャベンディシュ電気学論文集」を出版。この中で明らかになったのは、
1772年 静電気力の逆二乗則(クーロンの法則として知られているもの。クーロンが発表したのは1785年)
1781年 オームの法則(1827年)を見つける。この当時検流計が存在せず、キャベンディシュは自分の体を流れる電流をそのショックで計った。ただし、その結果はきわめて正確であった。


 「キャベンディシュにとっては、研究そのものが重要なものであり、発表はどうでもよかったのである。キャベンディシュは、彼以外誰も理解することのできない、あるいは、その存在に気がつくことすらなかったような難しい問題を解決するために、もっとも骨の折れる研究に取り組み、その結果がうまくいっていれば、それだけで満足していたことは間違いない。普通の科学者なら、結果を発表して発見の栄誉を確保しようとするものであるが、キャベンディシュはそうしたことに全く関心を持たなかった。キャベンディシュの研究が他の科学者に、いかに知られぬままであったかは、その後の電気学の歴史が示すとおりである。」(マクスウェル)

■関連事項

万有引力定数G
  現在のGの値は、(6.67259±59)×10-11Nm2kg-2 (1986の調整値)
で、その測定はきわめて難しい。そのため他の物理定数と比較して精度はよくない。キャベンディシュの実験では、ねじれ秤を利用した。このねじれ秤は、1785クーロンが電気力の測定に使用した。水平方向では微少なトルクに対しても可能なほど系がねじれるが、それよりはるかに強い地球の重力に対しては、系はほとんどのびないことを利用したもの。
 実験が困難な理由は、第1に重力をシールドする物質は存在しないこと。例えば、実験室の外の駐車場にトラックが入ってくるだけで、実験に影響を与える。第2に、重力自身が非常に弱い力のため、装置に生じる電気力、磁気力、熱、材料の磁性などの影響を取り除くことが困難になる。

■参考文献

小山慶太「異貌の科学者」(丸善)
平田寛「図説 科学・技術の歴史(下)」(朝倉書店)
林憲二「重力定数G」、数理科学1988年5月号
ギリース、サンダース「いまなぜ重力定数か」パリティ1993年11月号
「物理学辞典」(培風館)